2-8

これから起こる、未来の事実。

それを夢見てしまったフレックはその日から変わった。

大人しくなり。

リオと呼ばなくなり。

わがままを言わなくなり。

勉強をきちんとするようになった。


人が変わった様子に周囲は戸惑った。

けれど良い変化だったから大人たちは是とした。

ヘリオスフィアはとても寂しそうにしていたが、フレックから文官を目指すという目標を聞いてからは応援してくれるようになった。


フレックは心苦しかった。

ヘリオスフィアは魔法も剣術も知識も、全てが優秀だ。

そんな彼の唯一の欠点が魔力暴走という特異体質で、その所為で自分なんかと婚約する羽目になってしまっている。

同性婚は認められている。

政略結婚もよくある話だ。

けれど、それは、相手が良縁なら、誰も彼も祝福しかしない。

成長すればするほど優秀なヘリオスフィアに、フレックは、相応しくないという言葉すら当てはまらぬ程、落ちこぼれていった。


自分では頑張っているつもりだった。

頑張ってくつもりだった。

でも特異体質が魔力を無効化してしまうから、魔法は発動出来ない、魔道具が使えない。

背丈は望めず。

筋力がつかぬ体質なのか、いつまで経っても剣も構えられず。

戦闘前線、出ようとは思うなと言い含められる始末だが、その逆は?

武が駄目なら文は?

いやあ、えへへ、とフレックは熱心に教えてくれる家庭教師に笑って誤魔化す。

おまけで及第点、取れたら偉い。

フレックはそれを自覚し基本に忠実に、勉強し続けた。

でも、差は広がった。


優秀なヘリオスフィア。

落ちこぼれのフレック。

差は、どんどん広がった。


誰も彼もが悲劇の婚約、そう思っているのがフレックには伝わって来た。


だから嫌われようと、酷いわがままを言ってみたり、悪態を吐いてみたり、癇癪を起してみたりもした。

なのにヘリオスフィアは優しかった。

わがままも悪態も癇癪も、可愛い可愛いと受け入れ赦してくれた。

意味が無いので止めたら、もうわがままは言わないのか?と聞かれ、ヘリオスフィアの懐の深さに惚れ直してしまった。


その内に、ヘリオスフィアはお互いの瞳の色の宝石で作った婚約指輪を用意してくれた。

いつ会っても指にそれを嵌めているヘリオスフィアを見て、別れないといけない事実に毎度凹んだ。

だから指輪は無くすといけないから、と言い訳をして付けなかった。

指に嵌めると、このまま婚約者で在ろうとする自分に負けそうだったのた。

でも身に付けてはいたくって、フレックは丈夫なチェーンに指輪を通し、首から下げることにした。

大事な指輪、服の上から触るとなんだか落ち着くから、いつしかそれはフレックの御守りになった。

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