4-3
フレックの扱く真っ当な反応に対してヘリオスフィアは僅かに首を傾げてから、若干ムっとした表情を浮かべた。
「君が来ることはみな知っている。明日は降りるように」
「…かしこまりましたぁ」
ヘリオスフィアの悪い部分、曲げないとこ曲げないが発動しているのに気付いたフレックは、不満はたっぷりあるが諾と頷いた。
それでも不貞腐れた返答だったので、ヘリオスフィアが何を分かったような顔しているんだ、とばかりにフレックを見つめてくる。
フレックは、それがどんな感情の視線だとしても、ヘリオスフィアの瞳が大好きなのでやめてほしかった。
出来ればずっと見つめていたい空色を、見ないようにしながら服の上から指輪を撫でる。
「フレック」
「は、ぃ!?」
後で指輪の宝石を眺めて自分を慰めよう、なんて考えていたフレックは、その邪な考えが見抜かれたのかと焦った。
「学園内ではこれを着けるように」
ヘリオスフィアが横長で薄い箱を差し出してくる。
上等な、箱だ。
なんだろうと受け取り蓋を開けると、中には美しい刺繍が施された布が収まっていた。
「えと、これは…?」
正体が分からず問うと、ヘリオスフィアがその布を手に取りフレックの隣に移動する。
「あ、え、あ、り、」
急接近されたフレックは思わず目を瞑ってしまった。
何せ知性の深さ広さを示すような深緑の制服から得も言われぬヘリオスフィアの匂いが漂って、吐息も近くて、とにかく駄目だった。
そのまま大人しくしているフレックへ、ヘリオスフィアは手にしていた布を器用に装着させた。
左目を覆い隠して頭を一周した布の感触に、フレックは小さく「あ」と声を漏らした。
「きつくは?」
「だい、じょうぶ、です。お気遣い、ありがとうございます」
「気にせずに、毎日使い慣れてくれ」
「はぃ」
慈しみの空色が右目にいっぱい注がれて、フレックは視線を彷徨わせ、装着された眼帯と胸元の指輪を同時に撫でてしまった。
眼帯は柔らかくつけ心地が大変良かった。
一瞬見た刺繍はおそらくロッカ卿の紋様だったから、学園内においてフレックがヘリオスフィア、ニューノの関係者であると知らしめる為の装飾品なのだと。
フレックは、これは特別な贈り物なんかじゃないんだぞって、自分に強く言い聞かせた。
「耳に当たる部分はどうだ?」
整った指がフレックの耳に触れる。
「え、え、いぇ、だいじょうぶ、れす…」
その後も、何度も眼帯を直しては痛みは違和感はと確認され、触れられ、勘違いしそうになったので、フレックはヘリオスフィアの優しさを呪った。
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