3-3

翌日、トリノ家は次のような作戦を立てた。

まずフレック以外の家族総出でヘリオスフィア・ニューノを出迎える。

そして家族も知らなかったフレックの現状を丁寧にお伝えする。

ちょっと体の自由がきかない人材です、と伝える意図をフレックは理解した。


「つまりそれで不採用をもぎ取るって寸法ですね、兄上」


「ううん違うけど」


「お前の現状を何も知らずに会わせるのは心苦しいからだ」


「ところでさ、それ杖?ただの木の棒じゃん」


「眼帯も用意した方が良いよね。もう間に合わないけど…」


「お洋服、少し寸足らずでしたね、お義母様」


「そうねぇ、嬉しい誤算だけれど…ああ、杖ねぇ…お爺様の杖、どこにしまったかしら」


口々にそう言って、家族は玄関ホールへ向かってしまった。

フレックは兄のお下がりの礼服を窮屈そうにさせながら、ソファに座りヘリオスフィアを待った。

傍らには姉のが言った通り、木の棒がある。

フレックにとっては大事な相棒であり歩行補助の為の杖でもあった。

足を悪くした当初は普通の杖を使っていたが、仮の官舎に仮の脆さしかないことを学んだ魔物が入り込んでくることが多かったので、その度に杖で応戦破壊を繰り返した為、消耗品と化しじゃあもう木の棒でいいじゃん、となったのだ。

この木の棒の原材料は魔境に生える樹木だ。

普通の刃物では切れず、魔力を通した魔剣でないと伐採出来ないほど丈夫だ。

火を着けても燃えないし、下位の魔物を突くにも頼もしい強度がある。

それでも何本か折ったが、今使用している木の棒は魔境の元ボスが結婚式のお礼だと言ってくれた物。

深部から持って来てくれた真黒な木の棒を、フレックは今後も大事に使おう、とは思っている。

ただ如何せん見た目はただの木の棒でしかない。

中央向きに加工が必要かもなぁと、魔境産の手土産を眺める。


魔境には中央では得ることの出来ない希少な物が採取出来た。

魔物の遺骸も同様だ。

カミオカンデ王国に生きる者の生活を支える魔道具も魔境無しには制作出来ない。

故にワースワース領は潤っており、ただの国の外れの辺境ではない。

中央よりも発達した街もある。

今までは戦線が必要だったが、今後はお互いが寄り添う良い関係が期待される為、ワースワース領はさらなる発展発達が見込めると言える。

フレックはそこから色んな物を家族とヘリオスフィアへ贈るつもりだった。

そう、彼は、帰還するつもりなんてさらさらなかったのだ。

なのに帰還命令は強制的であった。


「はぁ…」


もう会うつもりのなかった大好きなひとがもうじきやって来る。

現実味が無さ過ぎて、自分はまだ東部に居て死にかけていて都合の良い幻を見ているんじゃないかとさえ疑ってしまう。


けれど執事が御到着されましたと告げ扉を開けるから、フレックは慌ててヨタヨタ立ち上がった。

ところが右足に力が入らないものだから無様にふらつき、フレックはソファに沈みかけた。

いつも痛い目に合うくせに、フレックは次は今回は大丈夫だろって甘く見る。

近くに使用人も居ないから、このままソファに体を打ち付ける、そう覚悟した瞬間がしりと誰かが抱き留めてくれて、フレックは驚き顔を上げた。

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