6-4

「あの、その、実は…東部魔境戦線でお洒落感失ってしまって、いて」


「ふふ、君は昔からじゃないか」


肯定的な反応に、覚えててくれたんだって喜びが芽吹く引っこ抜く。


「え、まぁ、そうなんですがますます面倒臭いと感じておりまして、その、興味が、ほぼありませんです…」


貴族としてあるまじき本音を言い切ったフレックに、ヘリオスフィアが優しく問いかける。


「それなら私が全部選んでもよいか?」


「ぉ、お願いします」


何処までも駄目なフレックに優しい対応を崩さぬヘリオスフィア。

フレックは騎士ってのはここまで寛容でなければならないなんて、と惚れ直してしまう。


「分かった、これと、これ、それからこれ…上着は…」


了承を得たヘリオスフィアがテーラーに対して注文をし始める。

爪まで綺麗な指がひとつ、ふたつ、みっつ、と次々迷わずカタログの商品を指差してく。


「え?あれ?あ、の、いっちゃくで」


止まらぬ指差しにフレックは慌てた。


「これも似合いそうだ。フレック、こういうデザイン好きだろ?」


「うん、好きだけど、一着で」


好みを覚えててくれてる。

嬉しい。

いや待て。

一着でいいんだ。

というか支払い…。

待ってこれ支払いヘリオスフィア?

あ、待って待って、すごく待って。

フレックはとんでもない事に今更気付き慌てふためく。


「ロッカ卿っ」


「夏物のカタログはあるか?」


「ご用意致します」


「ろ、ロッカ卿!お戯れがすぎます!」


プレゼント。

これはプレゼント。

贈り物。

そう、贈り物。

過度な量に畏れ多いと畏怖するのは賢なフレック。

ヘリオスフィアからのプレゼントに素直に喜ぶのはわがままフレック。

賢なフレックで生きて行くと決めてるフレックは、雇い主を諫める。

そんなフレックへ、ヘリオスフィアが囁くように告げる。


「フレック、これは東部魔境戦線より帰還した君への慰労なんだ」


「う」


もう沢山、素晴らしい物は頂いております。

そう言いたいのに、言えなくなる。


「魔境戦線との和睦。それを君が成してくれた。どれほどの命が助かったことか。君になら、分るだろう?」


「う、う」


正確には和睦に繋がる助力。

けれどその助力が多くを救う事に繋がったのは、魔境戦線に居たフレックが誰よりも理解していた。


「私は、私に出来る事をしなければ、私の矜持に反する。だから、どうか、贈らせてくれ」


そしてそんな顔をしてそんな事を言われてしまったら。

誠実にして高潔なる騎士に懇願されたフレックは、ゆっくり首を縦に振った。


「ぐぅっ、わがりまじだぁ」


「…ありがとうフレック。そうだ、コートも選んでおこう。よい魔獣の毛皮があるんだ。うん、ブーツも必要だな、手袋も、それに合わせた杖と、ああ、冬用の眼帯も」


氷の花が咲いたような笑みにフレックは首肯して良かったって思ったのに際限無い注文に呻き声を漏らしたのだった。


「ろ、ろっかきょぅぅうおれのからだはいっこしかないですよおお…」

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