10-5

旧生徒会室の応接用のソファにフレックは横になっていた。

ひとりではなくヘリオスフィアと共に、半裸状態で惚けていた。

夏本番が近づく季節な訳で、汗ばんで当然なのだが、空気が冷える魔道具は稼働中。

なのに身体がまだすごく熱いから、汗が引くまでこのままでいようねって、ヘリオスフィアが無防備なフレックの背を愛でた。


「ぁ…りぉ…も、やぁ…」


緩やかに撫でられているだけなのに、フレックは身体をひくひく震わせてしまった。


「ふふ…ごめん…可愛いから、つい…」


剥き出しの胸筋の上に張り付くように寝そべっていたフレックは、響く甘い低い声にもじもじ両足を擦り合わせてしまう。

この声であんなことを言われたから、従ってしまったんだと。

自分の痴態を思い返し恥じ入り、ヘリオスフィアの脇をくすぐる。


「こら」


「せなか、も、や」


「分かった」


さしもヘリオスフィアも擽ったいらしく、フレックの要求通り背中を愛でるのは止めてくれた。

その代り今度は頭を撫で始める。

心地が良いから受け入れて、フレックは息を長く吐く。


まだお互い、熱いからそのままで。

まだ全然、離れたくないからこのままが良い。

フレックはふかふかの胸筋をふにふに揉みながら、フと気付いてしまう。


「な、どう、すんの?」


「なにがだい?」


「結婚、俺達、もっかい、出来るの?」


お互いが好き合っている。

だからフレックはもう、意地でも傍から離れないつもりだった。

ヘリオスフィアを守る為に。

ヘリオスフィアを幸せする為に。

けれどふたりが愛し合ってると主張しても、引き裂こうとするものは当然在る。

それを黙らすには結婚するのが一番なのだが。


ここでフレックがぐぬぬ、眉間に皺を寄せた。

その皺を目敏く見つけたヘリオスフィアが、フレックごと起き上がりソファに座る。


「フレック、そのことなんだが」


急に起き上がってどうしたの?と首を傾げるフレックを、ヘリオスフィア

は何処へもやらぬよに支えながら告げるのだった。


「私たちは婚約破棄してないんだ」


フレックは耳を疑った。

だって、糞屑は切り捨てられて見限られて東部魔境戦線送り、だった筈なのに…?


「はくし、ってりお、いったじゃん」


そう、白紙とその口が言ったんだぁって、フレックはヘリオスフィアの唇を突っつく。

ヘリオスフィアは苦笑しながら、その手を取って指先に口付ける。


「白紙というのは、破棄という意味ではなかったんだが…」


「んぇ?どゆこと?」


手の甲にキスされて、フレックはもっとキスしてって顔を寄せる。

ヘリオスフィアは口角上げて、頬と眉とおでこに口付けた。


「婚約の初期段階の関係に戻す、から白紙。私は魔法騎士として、君は文官として、お互い成長し合おう、ということだったんだが…東部に後で送った書類に目は通さなかったのかい?」


「え、しょるい?あ、官舎大火事で外部書類死んでた期間があったんだ…じゃ、俺、読んで無いや…、なので、あの、破棄だと思って…ました…」


「…ああ…それで、知らずに、そのままで…」


ヘリオスフィアがそろそろ熱の引いたフレックに、空間魔法の領域から取り出した自身のシャツを羽織らせながら「火事の報告が無かった…」小さく恨み言呟いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る