第3話 ヴァンパイア族の少女


 北のテントに向かう途中、そこだけ目立って頑丈な檻で出来たコテージが視界の隅に入った。

 俺はそのコテージを見詰める。

 コテージから溢れている魔力はなかなかの量だ。かなり強いヤツがいるな。


 中を覗いてみることにした。


 畳6はあろう頑丈な檻の中に尻まで銀髪を伸ばした、血のような真っ赤な瞳の少女が座っていた。


 ヴァンパイア族か……。


 ヴァンパイア族は最強種族の一角で大魔帝国軍、大六天魔卿の中に一人いた。

 異常な魔力量で使う魔法の種類が飛び抜けて多く、更に不死。……ヴォグマン卿か、懐かしいな。俺が殺したが魔王の次に強い人だった。


 因みに魔王が治め、魔族が住む国を大魔帝国といい、国の面積としては圧倒的に世界一大きくて世界最大の大陸の約三分の一が大魔帝国である。ただ、シベリアやアラスカのように北極の隣に位置する為、この世界の農業技術では作物を育てることは出来ず、国民はひもじい生活をしている。


「お前……何者だ?」


 少女に声をかけられた。

 地べたに座っていた少女は立ち上がり俺を見詰める。身長は150センチ程だろうか。


「俺はただの魔法使いだよ」


「魔力制御しているようだが、実力は私よりずっと上だな……。ねぇ、私を買ってよ。お前のような強い者の奴隷になるなら救われる」


「救われるってどういう意味だ?」


「だってそうだろう?私より弱いやつに絶対服従なんて地獄だ。殺したいと思いながら、それでも従わなければならない」


 奴隷になる、というのは口約束ではなく奴隷紋を体に刻まれることを意味する。


 実は俺も5年前まで奴隷紋が刻まれていた。自分で解除したら島流しにされたけど。


 この奴隷紋は魔法協会で量産スクロールを安く買うことができるわけだが、その効果はエグい。

 簡単に言えば奴隷は奴隷紋に登録されたオーナーに絶対服従なのだ。


 例えばこのプライドが高そうなヴァンパイア少女に黙れと言えば黙るし、笑えと言えば笑う。性的な命令をすれば従う。

 身の危険を感じたら、自分に危害を加えるなと命令しておけばよい。


 この奴隷紋、厄介なのは一度刻まれてしまえば誰にも解除できず、一生奴隷であり続けるところ。

 まぁ俺は解除できるけど。


 幼いヴァンパイア少女を見つめた。まるで真っ赤な薔薇の様な瞳、映えた容姿。浮世離れした美しさで前世も含め今まで見た女性の中で一番綺麗だと思った。


「君いくらなの?」


「2億グランだそうだ」


 家にあるものを色々売れば買えそうだが……。


「買いたいけど予算オーバーだ。わるいな」


「そう。……残念」


 俺は少女を一瞥すると北のテントへ向かった。




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