第37話 奴隷を家に帰すことにした


 大泣きすると思っていたのに、予想外の反応に俺は激しく動揺していた。

 だって今日、一日中ずっとココノを心配していたから……。


「ど、どういうことなのん?」


「のん?」


 ごめん、動揺を隠せてないよ俺!


「本当のお父さん、お母さん死んだとき、ココノん見てたの……」


 それからココノは淡々と声色を変えることなく、何かを話し出した。


「『ナナリ起きろ、外が騒がしい……、外に賊がいる、5……7……、くっそ、何人だ』

『あぁ……そんな……フレンニの家が燃えてるわ』

『何人か捕まってるな……、ナナリはココノを連れて逃げろ』

『トニック、あなたはどうするのよ?』

『俺は戦う!時間を稼ぐから早く!』

『い、家に賊が……!』

『俺達の家から出ていけ!』

『おいおい、こいつ一丁前に剣持ってるぜ……』

『足震えてるじねぇーか、ヒッヒッヒッ』

『私も戦う!一緒にココノを守ろう!』

『ナナリ……ああ、こいつ等を倒して三人で逃げるぞ!』

『雑魚が鼻息荒くしやがって、おい。女は殺すなよ。後で楽しむからな』

『どうせなら旦那の前で楽しもうぜ!』

『そりゃ名案だ!ヒャハッハッハッ』

 …………」


 ココノが淡々と話す言葉を俺は全知全能の目ガイアストローアイズで見て無限記憶書庫アカシックレコードに保存した内容と照らし合わせる。


 すると――。

 一語一句、全て……合っている……。

 ココノがこの会話を聞いたのは6年以上前で、当時は1歳半だった。


 間違いない……、ココノは絶対記憶能力を持っている。

 彼女はまごうことなき天才だ。

 ちゃんとした教育を受ければ将来物凄い人物になる。


 でも今は、そんなことはどうでもいい。


「ココノ、もういい!もう喋らないでくれ」


 この先をこの子の口から喋らせてはいけない。

 俺はココノを抱きしめて口を塞いだ。


「それで、どうして帰りたいんだ?また奴隷にされるかもしれないんだぞ!」


「……ココノん、お母さんに抱っこされないと、ねれないの……。一人でねると、たくさん涙でるの……」


「それ早く言えよ!俺が毎晩、ココノが寝るまで抱っこするから!」


「ゴロウ、嫌なの」


 ズッキューン!

 俺じゃダメなのかぁあああい!?

 ちょっと凹む……いや、かなり凹む……ッ!


「ココノんお母さんがいいの。お母さんに抱っこしてほしいの……」


「それでまた奴隷にされたらどうするんだ?」


「奴隷になってもいいの……、お母さんにあいたいの」


 事情はわかった。


 うーむ!そういうことなら俺に妙案があるな。


「わかった。ココノ、君を家に帰すよ」


 そう言うと、ボーっとしたココノ顔がみるみる明るくなっていく。


「本当なの?」


「本当だ」


「ココノんいつ帰れるの?」


 今現在、向こうは昼過ぎか……。


「今から送るよ。でも、その前に一緒に何か食べよう」


「うん……ココノんたべるの!」


 で、二人でミートソースパスタを食べた。

 ココノは口の周りをソースで汚しながらモリモリ食べている。

 お腹空いてたんだな……。



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