第19話 自己紹介①
宴会ホールは畳の座敷と板の間テーブル席がある。ここでビュッフェなんかをやっていたらしく70人以上が食事できるスペースになっている。
狐のフォンと猫娘がだるそうにしていたから、今日は座敷を使うことにした。
皆に適当に座るよう指示してから俺はドリンクバーに全員分の水を取りに行った。
各自、座布団に腰を下ろしている。
「これフカフカなの」
「この上で寝たくなるな」
「生地も素晴らしいですね。物凄く高価なクッションですわね」
この世界でクッションは高級品なのだ。
俺含め水の入ったコップ12人分をグラビティで宙に浮かせてテーブルに運び俺も席につく。ヒオリとレナの間が空いていたからそこに座った。
すると少し離れた席にいた猫娘が立ち上がり俺の胡座の上に移動して座る。
「ニャー、ここ」
俺は猫娘の頭にある猫耳の裏を手でモフモフした。
「触るな、変態」
はいはい、変態ですよ。猫娘はそう言いながらも、耳を触れて「んにゃ〜」と気持ちよさそうにしている。これじゃ触れたくないのか触られたいのかわからんな。
「あんたの席はあっちでしょうが!戻りなさいよ」
とティアニー殿。
見渡せば皆、俺の膝の上に座り気持ち良さそうにしている猫娘を睨んでいる。
「ほら、自分の席に戻らないと、お前のご飯食べれないぞ」
「ごはん……、ニャー、戻る」
そう言って自分の席に戻った。俺、ご飯に負けたよ。
「あんた、甘すぎるのよ!」
とティアニー殿に叱られた。
お、俺が甘い?そんなはずは……。
だが、安心してくれ。これから滅茶苦茶厳しく躾けていく予定だ。
さて、そんなことよりも。
「もう少しで料理が運ばれてくるから待っている間、自己紹介をしよう。家に帰る子もいるだろうけど、暫くここで一緒に暮らす子もいる筈だ。お互いのことを知っておいた方が良いだろう。取り敢えず名前と歳、あとは好きなように話してくれ。言いたくないことは言わなくていいからな」
この世界は人頭税が広く浸透していて、名前と生まれた年を殆どの者が把握している。
因みに、商会で誰を買うか選定している時に鑑定魔法で、この子達の種族、性別、年齢、誕生日は把握済み。しかし、鑑定魔法で名前はわからない。名前は生まれた後、後天的に付けられるからこの世界の理から外れている。世界の理そのもである魔法では判別できないのだ。
「おほん。では俺の隣のヒオリから順に右回りでいいくぞ」
俺はヒオリの肩をポンと軽く叩いた。
「せ、僭越ながら自己紹介いたします!某はヒオリ・ホムラ、歳は11であります。東倭国出身、酒造屋イエモン・ホムラの三女でありましたが、戦で孤児でとなり両親はおりませぬ。その後、祥円寺で小坊主をしておりまたが、飯の量が少なくお師匠に不満を零した折り、剣術で名を馳せれば好きなだけ飯が食えると助言を授かり、八つの頃より単身で剣術の武者修行に出ました。しかーしっ!世は世知辛く九つになろうというときに、飢えに耐え切れず畑の物を盗み、村の用心棒ヤスベイに腕を切り落とされて奴隷になってしまいました!某のような赤髪の
「ちょっと長いわよ!いつまで話すの!」
「これはこれはすみません。では右回りですから、次はティアニー殿ですね」
「私はティアニー・ウッドレーニン、11歳。革命家ブルゲイ・ウッドレーニンの娘よ……、以上」
「え?それだけですか?」
「文句あるの?」
「いえ、ですが……某と同年でしたか。うんうん。宜しくお願いします!」
「……まぁ、よろしく」
「ティアニーさんはクロイセン王国出身地ですか?」
「そうよ」
アンヌの問にそっけなく答えた。クロイセンか……、あそこは人族とエルフが共存する国で、確か税率が滅茶苦茶高いんだよな。しかも密告制度があって国民同士で監視し合い、王家や貴族の悪口を言うと処刑される。
「じゃぁ次はモモだな」
「あたしはモモ。ファミリーネームはないな。年は10歳な」
「「「「「「え!?」」」」」」
「良く発育してるから一番年上だと思っていたわ」
「あ……あははは、もともと成長の早い種族らしいよ。あたしはマデンラ奴隷商会で産まれて15歳で売りに出される筈だったんだけど、病気で下半身が動かなくなって売りに出されたんだ。さっきまで立つこともできなかったんだけどこの通り、ゴロウさんに治してもらって歩けるようになった。まぁそんなところかな。次はココノか。名前と歳を言うんだぞ」
モモは細菌感染で神経をやられて下半身不随になっていたが治癒魔法で治してあげた。
「ココノんは8歳なの。おうちに帰りたいの」
俺はココノに質問する。
「ココノは誘拐でもされたのか?」
「わからないの、朝起きたら馬車に乗ってて……お母さんに会いたいの」
寝ている間に攫われたのだろうか?
因みにココノは病気等ではなく健康体だった。単純に幼い子供は保護が必要だから需要がなく安く売られている。
「わかった。じゃぁ明日家に送っていやるかならな」
「うん!」
「家の場所はわかるのか?」
とウィスタシア。
「ああ、特定できるよ」
「そうか、やはり化物だな」
「否定はしないよ。じゃぁ次」
俺は猫娘に手を差し出す。
「ニャーはタマ、9歳、犬族の子と同じ」
「タマもマデンラ商会で産まれたのか?」
「うん」
「両親は?」
「わからない」
「あたしも親はあたしが生まれて直ぐに売られたらしくて顔も覚えていないんだ。そういう子、多いよな」
「うん」
「そうなのか……。人権も何もない狂った世の中だな」
「次はボク?」
「タマ、他に話すことはないか?」
「うん」
「じゃぁラウラ」
「ボクはラウラ・デスフォルク、10歳だよ。ボクは呪い子で1年前に家を追い出されたんだ。それで旅の行商人さんの仕事を手伝いながら馬車に乗せてもらって探し物をしてたんだけど、目が見えなくなっちゃって……、奴隷商会に売られたんだよね。でもゴロウに会えて良かったな。目を治してくれたから、えへへへ」
「何を探していたのよ?」
「月の石だよ。……じゃぁ次はウィスタシアね」
月の石ねぇ……。俺はアカシックレコードで月の石を検索するが出てこなかった。
「ウィスタシア・エル・ヴォグマン、18歳だ」
ヴォグマン?まさかな……。
しかし、ウィスタシアは俺の1個上か。この子を買う予定はなかったから年齢を確認しなかった。
さっき風呂で見た彼女の胸とあそこの銀髪が脳裏を過る。背は低いけど大人の体だった。
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