第20話 自己紹介②
今まで何人、どんな人を殺したのか俺は把握していない。ただ、この世界で最初に人を殺したときのことは良く覚えている。死に際の表情や捨てゼリフ、断末魔まで鮮明に。
この世界に転生したとき、俺は生まれたての赤子だった。赤子といっても母親から産まれたわけではなく、原初の魔王アウダムの指が魔力を糧に細胞分裂を起こし赤子の形になったのが俺だ。
赤子の俺に母乳を与え育てたのはニナという若くて貧しい女だった。彼女には俺と同じ年の娘マリアがいて、マリアと俺は同等の愛情を受けて一緒に育てられた。
そしてあの日、大魔帝国軍が俺の住む町を襲い女、子供関係なく住民を皆殺しにした。
俺はニナのボロ家のクローゼットの中でマリアと怯えながら隠れていたが、家に火をつけられて慌てて外に出た。
家から出た瞬間、まだ5歳だったマリアは炎魔法で消し炭にされた。一瞬だった。そしてマリアが倒れた横には乳母のニナの遺体もあった。
俺も第二位階炎魔法を食らっていたが、それに気付かない程、何故か俺には魔法耐性があった。
俺はマリアに魔法を撃った奴を睨む。汚い顔の魔族。
怒りで我を忘れた俺はソイツを心底殺したいと願った。脳が焼き切れる程強く願ったのだ。すると、あらゆる攻撃手段が俺の頭の中に流れんできた。
自分で思い付いたわけではない。魔法なんて見たことも、教わったこともなかったのに、まるで以前から知っていたかのように攻撃魔法構築のプロセスが頭の中に入っていた。
俺がカマイタチの様な風魔法を放つとマリアを殺した魔族の首が飛んだ。
それから俺は町に入り込んだ大魔帝国軍の兵士を殺して回った。ニナを殺したヤツが誰かわからなかったからだ。
奴等、殺されながら俺のことガキだのなんだの言ってたな。
全員始末してやった。
◆
ウィスタシアの自己紹介は続く。
「商会の連中から聞いたぞ。お前、勇者パーティーの魔法使いだったんだろう。お前ならヴォグマンという名に聞き覚えがあるはずだ」
「ああ……大魔帝国大六天魔卿の一人、アイゼン・ルラ・ヴォグマン卿……」
「私の祖父だ」
「そうかだったのか……あの人は仲間思いで強い人だったよ」
「……」
ウィスタシアは俺を睨んで直ぐに視線を逸らし黙ってしまった。
気まずいな。
彼女は俺がヴォグマン卿を殺したことを知っているのかもな。
後で個別に彼の最後を伝えよう。
「その後、我が一族がどうなったのか、お前なら知っているだろう?」
「俺は5年前、魔王城攻略戦の後、罪人になりグラントランド王国から追放された。だからその後のことは何も知らないんだ」
「そうか……ならよい。私からは以上だ」
ウィスタシアを俺の女にするのは無理だな。家族を殺した相手に心を開くとは思えない。事情を話して国に帰ってもらおう。
さて、次は狐の子か。
「えっと、アッチはフォン・マショリカだよ。美味しいご飯たくさん食べたい!……あっ!アッチは9歳!にひひひひっ」
明るい笑顔だな。この子は何で奴隷になったのだろうか?
ナイーブな問題だから自分から話すまでは聞かない方がよいな。皆の前で聞くことじゃないし。
「よし、次はアンヌ」
「……ゴロウ様、わたくし嘘を吐いておりました……」
「アンヌ、ダメですよ」
隣に座るリタがアンヌの手を握った。
「ゴロウ様はわたしく達の傷を癒やしてくれました。それにとてもお優しい方だとわたくしは以前から存じております。このお方は信用に足るお方だと思いますわ」
「ダメです!グラントランド王国の人間ですよッ!!」
リタがアンヌを怒鳴った。
て、ことはアンヌは俺の知り合いか?そういえば、奴隷商会でも以前から知っていたと言っていたな。
「さっきも言ったけどグラントランド王国で俺は罪人だ。既に関係は切れている」
「リタ、大丈夫ですよ」
「ですが……」
「レナはどう思いますか?」
「わわわたしは、ア、アンヌの判断を信じます」
「リタ……」
「……わかりました。……もとより覚悟はできております」
アンヌは涼しい笑顔で俺の顔を見詰め、リタは俺を睨む。
……あっ、大きくなっていたから直ぐにわからなかったけど思い出したぞ。
「アストレナ姫?」
「ふふふ、思い出してくれたようですわね。わたくしの名はアストレナ・サジャック・アズダール、年は11歳ですわ」
「以前お会いしたのは6年前……。アズダール王宮で開かれた戦勝パーティーか」
「ええ、そうです。あの時は挨拶だけでしたが、ゴロウ様が魔法で花火というものを夜空に輝かせて、とても感動したのを覚えております」
「ああ……懐かしいな」
当日、アストレナ姫は5歳か、あどけなく純粋で穢を知らないそうな姫に何があったのだろう。
この3人を購入したとき、彼女達には拷問を受けた後があった。体中にミミズ腫れや切り傷があり、指や耳は無く歯も抜けていた。
それらは古傷で1年以上前やられたものだ。全て綺麗に治したけど……誰にやられたんだ?まさか新たな魔王が生まれてアズダールを滅ぼしたのか?大魔帝国とアズダールは隣接している。
そういえば、マデンラ奴隷商会には青髪のアズダール人がたくさんいたな。
はぁー、事情とか知りたくないな。
この世界の人とはなるべく関わりたくなかったのに。ただ彼女を買ってしまった手前そうもいかないけど。
ウィスタシアも俺を恨んでしいるだろうし。
女奴隷購入……思ってたのと違う。
取り敢えず皆がいるこの場では聞かない方がいいだろう。
「良かったら後で個別に事情を聞かせてくれないか。あと、ウィスタシアもそうだけど、俺はもう勇者パーティーやグラントランド王国から追放されている。今はこの世界に関わらないように生きている。だから君達の敵になることはないからな」
「わかりました。じゃぁ次はヒルデビアですわね」
アストレナ姫の隣に座るリタはため息を吐いたあと、いつものクールな感じで自己紹介を始めた。
「リタ、とは偽名です。私はアズダール王国、ハイデン公爵家が四女ヒルデビア・ルート・ハイデンと申します。年は13歳、幼き頃よりアストレナ様の侍女を拝命いただき、姫様と共に過ごしてまいりました。以後よろしくお願い申し上げます」
「わわわわたしですねっ!わたしは……本当はレモニカ・ドレナードと申します。ドレナード伯爵家三女、13歳でヒルデビアと同じくアストレナ様の侍女です!」
アストレナはレモニカの目を見て笑顔で頷いた。それから。
「わたくしのことはアストレナ、この二人のことはヒルデビア、レモニカとお呼びください」
よし、これで全員だな。
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