第17話 奴隷の失敗を厳しく叱る



 さて、料理担当の俺と情報を共有しておくか。


 ゴーレムの一体は調理担当で一日中料理を作っている。料理と言っても油や味噌、醤油、酒、酢等、調味料を作るところから作業しているので一日中やることがある。


 俺は猫娘の横で風呂に浸かりながら料理担当のゴロウズに念話を送った。


【お疲れ、情報を共有しよう】


 無限記憶書庫アカシックレコードは俺とゴロウズの記憶クラウドになっている。300体のゴロウズは各自、定期的に無限記憶書庫アカシックレコードに記憶の保存やアクセスを行っていて、俺や調べ物担当のゴロウズが記憶したデータを取り込んでいる。


【このヒオリって子かなり食べそうだな】

【ああ、そうなんだ。だから多めに作った方が良さそう。それと風呂上がりに飲み物を11人分用意してくれないか?】

【オーライ】


 これで良いだろう。



 風呂からあがり俺は皆にバスタオルを配った。


「これで体を拭いてくれ」


「この布フカフカですわね」

「ふぁっ!ははは肌触りが……と、とても良いです!」

「この様な上等な布があるとは信じられませんね」


 青髪のアズダール人3人は良いところのお嬢様だったのか高級品に精通しているようだ。


 この旅館は俺が入手する数日前まで普通に営業をしていて残された備品、バスタオルや浴衣、布団、食器、家電等そのまま貰った。

 最大100名宿泊可能な施設だから、その数以上の備品がある。


 皆が体を拭いているとゴロウズがグラスとピッチャーを2つ持ってきた。ピッチャーの中には氷入りのジュースが入っている。


 俺はゴロウズに尋ねる。


「何作ったの?」


「白いのがバナナミルク、ピンクはイチゴミルクだよ。子供はこういうの好きだろ」


「ああ、そうだな。ありがとう」


 振り返ると皆ゴロウズが持つピッチャーに刮目している。


「料理担当のゴロウズが皆の飲み物を用意してくれたから、お礼を言うように」


 素っ裸のヒオリがゴロウズの横に来てピッチャーの中の臭いを嗅いだ。


「おお、これはなんと美味しそうな香りなのでしょうか。料理担当殿かたじけない」

「料理担当さんありがとう。ボク喉乾いたから、もう飲んでいい?」

「ココノんも飲みたいの」

「あたしも!あ、料理担当さんありがとうな」


「じゃぁここに置いておくから自分で注いで飲んでくれ」


 料理担当のゴロウズはそう言って広い洗面台の端にグラスとピッチャー2つを置いて厨房へ帰っていった。


 皆がピッチャーに駆け寄ろうとしたのを俺は手で止める。


「待った!先にこれを着てくれ」


 俺は皆に子供用の浴衣を配る。


「こうやって上から羽織って、あとはここを結ぶだけだから。着れたら飲んでいいぞ」


 皆な慌てて浴衣を着始めたのだが、一人だけ従わない子が。


 裸の猫娘が浴衣を地面に放り投げて、ピッチャーとグラスに手を掛けた。

 俺は猫娘に注意する。


「おい。服を着てからって言っただろ」


「ニャー、今飲みたい」


 俺は猫娘が握っているピッチャーに手を掛けた。


「ダメだ」


「離せ、変態、クズ」


 ぐぬ、このメスガキが!

 だが、俺は大人だ。大人はガキの言うことにいちいち腹を立てたりしない。それにやんちゃなガキとか反抗期とか、子供なんてこんなもんだろう。


「ゴロウ様が服を着てからと言っているのです。従いましょう」

 とアンヌ。


「何で?ニャー達、もう奴隷じゃない。どうしてコイツに従うの?」


「それは一理あると思うわ。でも私達は食事を頂いている立場なの。従わないなら食事は貰えないし、ここから追い出されるだけよ」

 とエルフ殿。


 まぁそんなことで俺は飯抜きとか追い出したりはしないがな。


「ニャー、飲みたいのッ!!」


 と、俺が掴んだピッチャーを強く引っ張った。その反動でピッチャーは床に落ちて中身を全部ぶち撒けた。


 パシッ!


 反射的にエルフ殿が猫娘の頬を引っ叩いた。


「なんてことしてくれるのよッ!皆の飲み物なのよッ!」


【す、すまん、バナナミルクをもう一度用意してくれるか?】

【んん??あぁあ〜!なるど、そういうことか。こりゃ大変だ。苦労するね】

【まぁまだ子供だし、これから成長していくから、俺がしっかり調教するよ】

【オーライ】


 ヒオリはぶち撒けたジュースを見詰めたあと、殺気の籠もった目で猫娘を睨み口を開く。


「某の国では家の長の言うことを聞くのは当たり前。この家の主はゴロウ殿であるが故、某は従いますぞ」


 他の子等も猫娘に憎悪の視線を向けている。この子達は食事に対して執着が異常だから、自分の飲み物を溢されて鼻についたのかもしれない。


 猫娘が俺の言うことを聞かない部分は、これから厳しく躾けるから今はどうでも良くて。

 それよりも、こういう事件が切っ掛けでこの子が皆から浮いてしまうのは良くない。


「ニャー、悪くない。直ぐに飲みたかっただけだもん……」


 皆から睨まれて落ち込んでいるな。

 俺は猫娘を抱っこした。


「離せ、変態!」


 はいはい。変態ですよ。

 俺は猫娘の頭を撫でる。


「そんなに落ち込むな。俺が言いたいことはエルフの子とヒオリが言ってくれたから。お前、顔叩かれて、やり返さなかったのは偉かったぞ」


 それから俺は皆に向かって声を上げる。


「皆も良く聞いてくれ。『情けは人の為ならず』、誰かに優しくするということは相手の為になるだけでなく、それがいずれ自分に返ってきて誰かに優しくされるってことだ。誰にでも失敗はある。他人の失敗を責めるのではなく、優しく励ましてやろう。そうすれば自分が失敗したときに誰が励ましてくれる」


 反応薄いな……。良いこと言ったと思うんだけども?まぁいいか、一度言って理解できる奴なんていないし。


「とにかく、俺は怒ってないから皆もこの子に優しくしてやってくれ。君達だって失敗したときに責められたら嫌だろ」


 俺は抱っこした猫娘の頭を撫でながら話を続ける。


「今、新しい飲み物を持ってきてくれるからな、元気出せよ」


「……うん」


「こういう時は、ごめんなさいとか、ありがとうって言うだぞ。まぁ今はいいけど」


 そう言うと俺に抱っこされた猫娘は俺の首筋に顔を埋めた。

 これ以上は言う必要はないだろう。これからゆっくり覚えていけばいいことだ。




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