第55話 国王を黙らせた



 グラントランド王国、王都グラトニック王城。その敷地に建つ高い塔のてっぺんにて――。



 透き通った長い金髪を風で揺らす美しいエルフ女性が西を眺めている。

 エルフといえば翡翠眼ひすいがんが特徴的だが彼女の瞳は紫色で瞳孔は青い八芒星。その瞳が膨大な魔力を纏い妖しく輝いている。そして口元には笑みが……。


 そんな塔の上に黒いドラゴンの羽を生やした身長3メートルはある大男が空から舞い降りた。

 漆黒の鎧を着こみ顔に濃い皺が刻まれた白髪の老兵だ。


 老兵がエルフ女性に言う。


「リュネレ、何か見えたか?」


 女の名前はリュネレ・ルナレイク。元勇者パーティーメンバーだ。


「乙女の後ろに立つときは一声掛けるものですよ。ライデン」


「ふん、悪かったな」


「ふふふ、貴方が送ったドラゴン、全滅ですね。ゴロウさん、とても強くなっていますよ」


 リュネレの目はラウラと同じ精霊の瞳。世界を見渡す目、千里眼である。


「バカな……、そんなことがあり得るのか……。ノースパシフィックドラゴンは単体でもSS級モンスターだ。我々が束になってかかっても1体倒せるかどうかだというのに……」


「ゴロウさんが使った魔法は確認できただけで転移魔法、重力魔法、結界魔法です。全て5年前の彼は使えなかった魔法ですね」


「それが本当なら黒竜騎士団全軍をもってしてもゴロウを殺すことはできないな。そもそも5年前の奴相手でも我々が敵うかあやしかったのだ。あの世界最強の軍といわれたヴァンパイア族精鋭部隊を一人で一蹴する少年だ……」


 ライデンはゴロウが奴隷を買った日の夕刻、グラントランド国王に呼び出されゴロウ殺害を命じられていた。その日の内に彼はドラゴン30体をセブンランド大陸に向かわせていた。


「嘘を吐いて私に何か得があるのですか?」


「……」


 二人は塔の上から西を眺める。


「リュネレ、貴様はゴロウとヴァレッタの関係をどう考える?」


「さぁ、知りませんよ……」


 と、何か知っていそうな顔で答えるリュネレ。そんな態度を見てライデンは話を続ける。


「考古学者ハンセウス・グリム博士に古代遺跡を調査させたのはヴァレッタだという。奴はゴロウが4つの時にベスタを訪れ、共に冒険者になろうと勧誘したと言っておった。断られたらしいがな」


「アウダムは唯一無二の特殊個体。他者の命を奪うことで、その魂から経験値というものを得て強くなる。と、私達に得意げに話していましたねぇ……懐かしい」


「ああ、ヤツが暗躍しゴロウが住んでいた町ベスタを魔族に襲わせ戦争を起こした。ゴロウの奴隷紋オーナーはヴァレッタであったが、『敵を殺せ』としか命じていなかったようだ。それに、最強と称された大六天魔卿アイゼン・ルラ・ヴォグマン卿や魔王をゴロウに殺させたのもヴァレッタだ」


 つまり、勇者ヴァレッタの行動はゴロウに経験値を稼がせて彼を強くすることを目的としていた。ライデンはそう言いたいのだとリュネレは察し黙った。

 暫く沈黙したのち、リュネレが口を開く。


「陛下に説明に行くのでしょう?私も付き合いますよ」


「ああ、すまん。頼む」



 謁見の間にてリュネレが1メートル四方の立方体、記憶魔石に魔力を流し込む。

 これは回廊魔石と同様、魔素の強いダンジョンの最深部で稀に発見される希少な魔石だ。


 記憶魔石にはゴロウが隕石でドラゴン30体を始末する姿が映っている。


 謁見の間に居合わせた宰相や貴族、将校がざわく。


「あの世界最強生物ドラゴンが一瞬で」

「化け物ですね」

「空から降ってきた燃える岩は魔法なのか!?」

「いくなんでも強すぎるだろう」

「人類が敵う相手ではない……」


 ライデンは伏して進言する。


「陛下、我が国の全兵力をもってしてもゴロウを殺すことはできません」


 国王は顎に手を当て考える。

 と、その時――。


 国王が座る玉座の前、ライデン、リュネレと国王の間に一人の男が出現した。


 なんの前のぶれもなく、なにもない空間に突然現れたのだ。


 男は黒髪で黒い瞳、色白肌。身長は180センチ程だろうか。黒いハーフパンツ水着に赤いアロハシャツ姿、ビーチサンダルを履いている。


 男が出現した場所は奇しくも5年前、同じ男が12歳の時に魔力封じの枷で全身を拘束され兵士に取り押さえらていた位置。

 彼は身動きできない状態で国王に向かって地面に額を押し着けられた。


 居合わせた国の重鎮達が叫ぶ。


「「「「 大賢者ゴロウ・ヤマダッ!! 」」」」


 続けてライデンが叫んだ。


「ゴロウ!貴様、何故セブンランド大陸から出たッ!?」


 するとゴロウは人差し指で頬を掻きながらサラッと答える


「あぁ……、全世界を敵に回しても俺の方が強いから」


「「「「「 ……ッ!! 」」」」」


 ゴロウがSS級モンスターであるドラゴン30体を一瞬で葬る映像を見せられた後だ。

 居合わせた者全員が絶句せざるを得なかった。


「ライデンさんお久しぶりです。あんたのドラゴンがうちに来ましたよ」


「……っ!」


 ゴロウは続けて国王に向かって言った。


「陛下、釘を刺しに来ました。次セブンランド大陸にちょっかいを出したら報復します。俺は転移魔法であんたの枕元にいつでも出現できる。この王都を焼野原にしてここにいる全員を皆殺しにすることもできる。その覚悟あるなら攻めてこい」


 ゴロウにそう言われた国王は苦虫を噛み潰したような表情で押し黙った。


「リュネレさんもお久しぶりです。ヴァレッタはいないのですか?」


「ふふふ、ゴロウさんお久しぶりです。大きくなりましたねぇ。身長30センチくらい伸びたんじゃないですか?ヴァレッタは5年前に姿を消してそれ以降見ていませんよ……」


「そうですか……」


「それより女の子をたくさん囲っているようですが、全員性奴隷にでもするのですか?」


「ああ、やっぱり見てましたか。俺はあの子達誰一人、手を出すつもりはありません。皆やりたい事があって、その助けをしているに過ぎませんよ」


「そうでしたか……。相変わらずお優しいですね。ふふふ」


「では、皆を待たせているので帰ります」


 そう言うとゴロウは突然姿を消した。

 皆一斉に顔を振り、ゴロウを探すが何処にも姿はない。


 エルフの美女、リュネレが涼しい顔でが言う。


「これが神代魔法、転移魔法ですか……」



◆◆◆



 南の島に戻った俺は皆とバーベキューで海の幸を食べた。

 締めは焼きそばでこれも美味かった。


 午後はスイカ割りをして、それからココノ達と浜辺の生き物を捕まえたり、皆とビーチバレーをやって遊んだ。

 そして夜、満天の星を見ながら1日スモーキングした牛肉と色々な肉で焼肉を食べた。ドラゴン肉も一緒に頂いた。


 最後に皆で、日本で買った花火をやって楽しい1日が終わった。


 ここに島流しなった時は俺1人だった。

 最初、海の家で1年間、孤独に過ごしたわけだけど、こうして誰かと大勢で遊ぶ日が来るとは感慨深い。そんな1日になった。






☆☆☆☆☆☆☆☆☆


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