第92話 奴隷と結婚願望



 嫁募集発言を受けたオスカーは辛そうな顔で答える。


「是非ヒルデビアをもらって頂きたいのですが、コピッグ王子と結婚するアストレナ姫に生涯仕えるのが我がハイデン家に生まれた娘の宿命……、残念で仕方がありません」


 ドレナード伯爵も肩を落した。レモニカも人柱になるアストレナに連れ添う運命だからな。


「差し出がましいようですが、情婦にお困りでしたら私の娘を差し上げます。少し頑固なところはありますが、美貌は評判が良く健康で歳も16才ですから、お世継ぎを授かるには申し分ありません。ゴロウ様とえにしを結ぶのはアズダールの国益に敵います故」


 と言うのはキュラード伯爵。彼は一人娘だからあの子か……。気が強そうな顔ではあるが美貌だけならうちの子にも引けを取らない。すると他の貴族も。


「我家の四女はまだ許嫁が決まっておりません。ゴロウ様好みの子供です!是非!」

「我家の長女と次女は政敵と婚約をしております。18歳と19歳ですのでゴロウ様としては微妙かもしれませんが……早急に婚約破棄させますので!是非!」

「私の娘もゴロウ様に!……10歳ですよ!それで時々、ゴロウ様の家の料理を私も食べに行きたいのですが……」


 皆、俺のことを何か誤解しているようだ……。

 心の声が漏れている奴もいる……。


 この世界の文明レベルは13世紀前後の地球と同じで有力者は妻や妾を10人、20人抱えるのは当たり前。この時代、地球でもそうだったように有力者が一夫一妻の国は存在しないのだ。

 たくさん子供を生ませて、息子は領地の管理、娘は有力者に嫁がせ人脈づくりをする。


 貴族達が自分の娘を差し出す話しで盛り上がっていると、アストレナ、レモニカ、ヒルデビアの3人は不安気な暗い顔になっていった。

 俺は頃合いを見て答える。


「申し訳ないのですが、今現在セブンランドにいる娘以外を妻に迎え入れるつもりはありません。その方針は絶対に変えないので縁談の話しは終わりにしましょう」


 アストレナ達が俯いていた顔を上げて俺を見る。


「ですが、ゴロウ様……アストレナ姫とヒルデビア嬢、レモニカ嬢以外ですと人族はヒオリという娘だけです。お世継ぎを残すには少々不安ではないでしょうか?獣族や魔族、エルフではお世継ぎは授かれないでしょう?」


 俺は誰とでも子供を作れるが、その説明は、まぁいいか……。

 因みにこれから始める商売の話は、さっき使った以心伝心シンクロソウルで伝えていない。

 俺達セブンランド組とアズダール貴族組で目標が若干異なるから話しの持って行き方を変えないといけないのだ。


「ご心配には及びません。俺はアストレナ、ヒルデビア、レモニカの3名を将来妻に迎えます(本人が希望すればね)」


 貴族達の表情が曇った。

 代わりにアストレナ達3人は希望の眼差しを俺に向ける。


 オスカーが鋭い眼光を光らせ俺を睨む。


「それはなりません。ゴロウ様、アズダールの事情はご存知でございますよね?現状グラントランドとの縁談以外、我が国を救う道はないのです。それに亡き国王の命でもあります」


「知っていますよ。では、聞きますが、あなた方は本当にそれで良いのですか?」


 皆が押し黙り暫く沈黙があって、最初に答えたのはベアトリクスだった。


「嫌に決まってます!グラントランドと縁談を結べば国は永遠に支配されアズダールは滅んだも同然。それに何より……私の可愛いアストレナちゃんをあんな性格の悪い王子に差し出すなんて……耐えられません!」


 コピッグ第二王子はアズダールにずっと滞在している。彼は優位な立場を利用して女遊びやら贅沢三昧やらと好き勝手やってるから、かなり嫌われているようだ。

 ベアトリクスの発言をきっかけに他の貴族も叫ぶように声を上げた。


「私も本当は嫌でしょうがないのです!グラントランドが大嫌いですッ!」

「私も反対でした!アズダールが乗っ取られるぞッ!」

「私も反対だ!しかし今更どうしろというのだッ!保守派貴族共に内戦かッ!?グラントランドと戦争かッ!?」

「そうだッ!バカバカしいッ!それこそこの国は衰退しますぞッ!」

「領民にどんなきつい課税が待っているか……おぞましいや、おぞましいや……」


 オスカーが「はぁー」と深い溜息を吐く。


「ゴロウ様、何度も申し上げますが残された道はございません。どうかご理解ください」


「オスカーさん、皆さん、残された道は他にあります。アズダール王国の国民全員が幸せになれる道です」


「「「「「 ……ッ!? 」」」」」


 皆が俺に刮目する。


「アストレナ、レモニカ、ヒルデビア説明を頼めるか?」


 俺の呼びかけで彼女達は淡々と説明を開始した。俺も黙って話を聞く。


 元々これは彼女達の問題だ。

 今後この国を率いて行くのは彼女達。

 この説明はその第一歩になる。


 さっき食べさせた料理や作物、以心伝心シンクロソウルで見せた衣類、この世界にない布団、鏡等、近代的な品々を格安で量産できること、それらをアズダール人を使ってグラウンドで販売し、上がった利益で借金を返すという計画。


「私はこの布団が気になりますね……」

「ええ、100万グランでも欲しいくらいです」

「グラントランドでは10倍の値段で売るということか……」

「10倍だろうが1000倍だろうが金を持っている者なら買うだろうな」

「唐揚げ1個1万グランでも私は買います」


 話を聞き終えた貴族たちが色々と意見を出し合っている。

 唐揚げの原価は50グランくらい。めっちゃ儲かるな……。


 で、纏まってくると俺に質問をしてきた。


「ゴロウ様、本当に大量生産できるのでしょうか?」

「ゴロウ様、ヴォグマンは旧敵国ですよ」

「ゴロウ様、唐揚げのお替わりはありますか?」

「ゴロウ様、ヴォグマンが本当に協力してくれるのでしょうか?」

「ゴロウ様、私の娘と私を貰って欲しいのですが?」


 関係ない質問も混じっているが、やはり気になるのはヴォグマンとの関係だよな。

 5年前まで戦争でお互い殺し合いをしていたわけだし……。


「では、これから皆さんとヴォグマン領に転移して農地をお見せしたいと思います」


「「「「「 ……え!? 」」」」」


 実際に現場を見せて生産能力と、ヴォグマンと協力できることを信用してもらって、最後に前国王を操った犯人を連れてきて婚姻が不義であることを証明する。

 これでアズダールの協力を得られるだろう。


「じゃ、行きますよ」





「「「「「えぇえええええーーッ!?」」」」


 全員を連れて俺が転移したのはヴォグマン城から10キロくらい離れた場所にある小さな村。


 全員が驚くなか、転移した場所にいた村の娘がきょとん顔で俺を見つめながら言う。


「もしかして……、ムサシさん?」


 彼女は牛族。白黒ホルスタインカラーの髪で頭の両脇に小さな角がある。あの愛莉に勝る爆乳が特徴的な女の子。


「あ、はい。正しくはゴロウって名前ですけど……」


「モォーーー!やっと会えたぁーー!」


 爆乳牛娘が俺に抱き着く……!

 みぞおちに滅茶苦茶柔らかい感触が……。そう言えばこの世界ってブラジャーがないんだよなぁーなんて呑気に考えていると……。


「あ、あのぉ〜、ゴロウ様ぁ~、その方は誰ですかぁ~?」

「銃の試し撃ちをしても良いでしょうか?」

「おおおおっぱい!ご、ゴロウ様から、離れてくだぱぁ~~い!」


 3人かがめっちゃ怖い顔で俺と俺に抱き着く牛娘を睨んでいた。











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