第91話 奴隷の縁談
俺の渾身のボケに皆が微妙な顔をする中、貴族の一人が呟いた。
「しかし……これでアストレナ姫とコピッグ王子殿下の縁談を纏められますね……」
コピッグ・ブリッスル・グラントはグラントランド王国の第二王子。ベアトリクス含めここにいる貴族はリベラル派で二人の婚姻を望んでいる。
ただ、リベラル派といってもグラントランド王国に買収された他の貴族とは違いう。この人達は前国王の方針に忠実に従っているに過ぎないのだ。故にグラントランドの
神眼、
最愛の幼馴染を寝取られた可哀想な男もいるし、妻と娘にATM呼ばわりさながらボロ雑巾のように働いている者もいる。皆一生懸命だ。
そんな様々な人生を歩んできた者達だが全員に共通しているのは前国王とオスカーに絶対の忠義を立て通しているという点だ。
オスカーの人選は素晴らしい。彼は人の性分を看破する特殊なスキルを持っているのかもしれない。
そんなオスカーがアストレナの婚姻について呟いた貴族を手で制し俺を恐い顔で睨む。俺の寒いボケに怒っているわけではない。この人のデフォルトだ。
「これまでの経緯を説明して頂けないでしょうか?出来れば詳細に……」
「ゴロウ様、お願いします!」
「私も聞きたいです!」
「是非お聞かせください!」
「ゴロウ様のお手を煩わせるわけにはいきませんわ。わたくし達がご説明します」
「ママも気になるわ。アストレナちゃん、話して頂戴」
アストレナの隣に座るベアトリクスが甘えた声で言う。
いつの間にかアストレナに寄り掛かかり、アストレナの手を握っている。
口頭で話すると時間が掛かるからな……。今日は予定が詰まっている。説明は秒で終わらせたい。
「俺が説明しますよ。では失礼して――。第六位階精神魔法、
俺の指先から飛んだ複数の白い魔力玉がこの場にいる者全員の頭に吸い込まれた。
「これで説明は終わりです」
「これは……ゴロウ様の記憶……?」
「マデンラ奴隷商会にいたのか……!道理でいくら探しても見つからないわけだ……」
「奴隷紋って……解除できるのですね……」
「アストレナちゃんの体が……酷い。ああ、でも……ゴロウ様が魔法で全て綺麗に治してくれたのね……。どれほど感謝をすれば……」
「鏡、ガラス、大浴場、布団……次元が違う……素晴らしい設備だ……。ウォシュ……レット、だとぅ?」
「高度な専門教育を受けられるのですね……私の子供も預けたくらいです。24で表す時間、日付、計算方法……どれも興味深い。ああ……子供と一緒に私自身も学びに行きたい」
「畑や道など、インフラが凄まじく良いですね……。車ぁ?トラクターぁ?……これはいったい?」
「農作物も……こんな野菜や果物、家畜、見たことがありません。高価な卵をこんなにもたくさん……」
「いやいや、衣類も凄いですよ!こんな技術いったいどうやって?」
共有する記憶はこちらで任意に設定できる。
「ととと特に、しょ、食事が素晴らしいぃいいい〜〜いッ!」
ドレナード伯爵が興奮気味に叫ぶ。そんな伯爵に俺は得意げに言う。
「食事は全てレモニカが献立を考えているんですよ。皆から好みを聞いて、栄養バランスも考えて、本当に良くやってくれています。な、レモニカ」
「ははははい!ごごごゴロウ様の教えのおかげですぅ〜〜!」
「いやいや、レモニカの努力の成果だよ。ぶっちゃけ最初はどうなることかと思ったからね。ははは」
「ううぅ~~。いいい今も全然ダメダメですよぉ~~」
「ああああの、ご、ゴロウ様、よよよよっかたら、わ、私もレモニカの料理を食べてみたいのですが……!」
ドレナード伯爵がそう言うと他の貴族達も俺を真剣な顔で見詰める。
良く見ると涎を垂らしている者もいる。
「実はアストレナ達三人が好きな料理を用意してきました。今出しますので」
俺が手と翳すとテーブルの上に料理が出現した。
「お好きな物を取り皿に取って食べてみてください」
皆テーブルに並べられた様々な料理を見て驚いている
「なんと!これはいったい!?」
「幻覚でも見せられているのか?」
「で、では、私はこの唐揚げというものを……はむ……くしゃくしゃ……はふ……。熱々で周りはサックサク、中はジューシ~~!旨味が口の中いっぱいに広がる……ッ!我が人生で一番美味い料理だ!」
「わわわわたしは……このベークドチーズケーキを……ぱく!……んんんんんんん!ぱくぱくぱくぱくぱくぱく!濃厚で甘くて……ぱくぱくぱくぱくぱくぱく!ううう美味いぃいいいいッ!!」
「アストレナちゃん、これは肉じゃがっていうのよね?私も食べて良いかしら?」
「はい、お母様!是非食べてください!わたくしの大好きな料理ですわ」
「はむ……はむ……はむ……美味しいわ……なんて深みのある穏やかで優しい味なのかしら……。こんな素晴らしい料理がこの世にあったなんて、ママ驚きだわ……」
「私はこの炎ような真っ赤な料理を頂こう!」
貴族の一人が食べちゃいけない料理に手を付けようとしていた。止めようと思ったが手遅れで口に入れてしまう。
「ぎゃぁああああああ!口がぁあああああ!い゛だい゛い゛だい゛ぃいいいーーッ!ど、毒だ!毒が入ってやがる!」
いや、それヒルデビアの好物、激辛麻婆豆腐なんだよね。
すると、オスカーが激辛麻婆豆腐の皿を取った。
「ゴロウ様が毒を盛るわけがないだろう!どれ、私が食べてみよう!」
「いや、オスカーさんそれ止め……」
忠告する前にオスカーが食べてしまった。
恐い顔が見る見る真っ赤になっていく。
「顔面を思い切り殴られたような感覚だ!」
「ほら、だから止めと」
俺、止めたいのに「はふ、はふ」言いながら食べ始めるオスカー。
「はふ、はふ……、なんて刺激的な美味さだッ!はふ、はふ、辛さの中に濃厚な旨味があるッ!はふ、はふ、ぶぶぶッ、ゲホッゲホッゲホッゲホッ!美味いッッ!!」
いや、辛すぎてむせてるじゃん!
「あの、オスカーさん、食べ過ぎると明日尻が痛くなりますよ」
「なにぃいいーッ!尻まで殴られるのですか!?はふ、はふ……たまりませんな……はふはふはふ」
もぉーなんなのこの人……ッ!?
取り敢えず、ケツに効く回復魔法を後で教えてあげよう。いつもヒルデビアにかけて楽にしてあげてるから効果は実証済みだ。
◇
料理は多めに用意したが食べても味見程度だと思っていた。なのに皆、夢中になって殆ど食べてしまった。
少し残った料理も……。
「これ、家族に食べさせたいので少し頂いていきます」
「私もこれだけは子供に食べさせたいので少し持って帰ります」
「あ、私もこれを妻に……」
料理がなくなったところでオスカーが「ほおん」と咳払いをする。
「ところでゴロウ様、教育云々言われておりましたが……、奴隷商会で子供をたくさん買われた真意を教えて頂けないでしょうか?」
それ聞いちゃう?まぁ隠してもしょうがないしな……。正直に話すか。
「ご存知だとは思いますが、俺はグラントランド王国で罪人になり、セブンランド大陸へ島流しになりました。で、住んでみたら、これがなかなか良い所で今後もセブンランドで暮らそうと考えています。ただ、一つ問題が――、無人大陸故、女性と出会いがないのです。俺も将来は妻を娶りますので、買った娘が大人になって、俺の伴侶になりたいと希望したら妻に迎い入れるつもりでした」
「ほう、つまり嫁探しということですか……、ゴロウ様なら奴隷を買わなくても貴族の淑女など引く手あまたでしょうに」
「俺は身分や出自は全く気にしませんので」
話し終え周りを見渡す。貴族連中は自分の娘をゴロウ様にとか、ブツブツ言っている。
そんな中、一番驚いた顔をしていたのがアストレナ、ヒルデビア、レモニカの3人だ。
あっ……そう言えば、この子達に俺が嫁探しをしているとは言ってなかったな。
うちの女の子でそれを知っているのはウィスタシアだけだ……。
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