第90話 奴隷の実家で会合




 ヒルデビアに銃の扱いをレクチャーした後、俺、アストレナ、レモニカ、ヒルデビアの4人はアズダール王国王都リスタの中心にそびえる王城、リスタ城内のとある一室へ転移した。


 突然現れた俺達を見て、部屋に居合わせた者達は驚嘆する。


 端整な服を着た青髪の中年男性は人相の悪い目で俺達を睨み付け言葉を漏らした。


「あ、アストレナ様……、ヒルデビア、レモニカ嬢まで……、そして……大きくなられましたね、大賢者ゴロウ・ヤマダ」


 続けて男の横に佇む、黒いドレスを着た青髪の美しい女性がアストレナを優しい顔で見詰めながら穏やかな口調で口を開く。その目には微笑と涙が浮かんでいる。


「アストレナ、おかえりなさい」


「お母様……ご心配をお掛けしました」

「お父様、只今戻りました」


 この中年女性はアストレナの母親、アズダール王国王妃ベアトリクス。

 男の方はオスカー・ライト・ハイデン。アズダール王国四大公爵家が一家、ハイデン公爵家の家長であり、ヒルデビアの父親。彼は王妃ベアトリクスの従妹でもある。


 アストレナとヒルデビアはセーラー服のスカートの裾を摘まんで貴族の礼をする。

 屈むとパンツが見えるシャルロットのスカートとは違い、アストレナ達3人のスカートは膝下まである。アズダール貴族は足を出すことを良しとしない。これでも短いとロリコン疑惑を掛けられそうで心配したが……大丈夫かな……。


「おおおお父様ぁ~ぁっ!」

「れれれレモニカぁ〜!」


 小太りのおっちゃんとレモニカが抱き合った。彼はドレナード伯爵。レモニカの父親だ。


 この部屋には他に彼らの派閥に属している貴族が5名、合計8名が俺達を出迎えくれた。


「立ち話もなんですから座りましょう」

「ゴロウ様もどうぞ席に着いてください。皆も」


 ベアトリクスとオスカーに促され、俺とアストレナは長テーブルの席に着いた。ヒルデビア、レモニカはアストレナの後ろに立っている。侍女である彼女達の定位置なのだろう。


 皆が席に着いたのを見てオスカーが口を開いた。


「ゴロウ様、此度の件、改めてお礼申し上げます」


 貴族一同が俺に向かって頭を下げる。


「偶然か必然か俺はアズダールと縁があるようです。これも何かの縁ですから気にしないでください」


 大戦時、俺は何度かオスカーやベアトリクスに会っている。彼等の子供を保護することになるとは当時は思いもしなかったが。


「ところで俺の手紙を疑わなかったのですか?まさかこんなに早く返事をもらえるとは思いませんでした」


「昨日、書斎机の上に突然手紙が出現した際は夢でも見ているのかと目を疑いましたよ」


 仏頂面のオスカーはまるで殺し屋の様な鋭い視線で俺を睨みながら言う。怒っているわけではない。彼の人柄だ。オスカーは話を続ける。


「何もない空間に突如出現した手紙には、手紙は転移魔法で送付していると書かれておりました。差出人はゴロウ・ヤマダ。私の知る限り世界最強の魔法使いでございます。ですから手紙は本物だと判断致しました。それと……グラントランド王国ではゴロウ様は咎人とされているようですが、我がアズダール王国では多くの兵や民を救って頂いた英雄です。故にできる限り早急に対応した次第でございます」


 昨日送った手紙の内容はアストレナ達3人の保護報告と国の指針につての提案。

 会って詳細を伝えるから都合の良い日時を教えて欲しい旨と、俺達は転移魔法で移動可能で今すぐにでも指定の場所に行くことができると書いておいた。


 手紙には小さな魔石を同封しておいた。この魔石には魔力マーカーが付与されていて監視システムゴロウズ二式が魔石周辺の状況を把握できる。


 オスカーには魔石に話し掛けてもらうことで俺に返事をさせた。

 ゴロウズ二式と連動した魔力マーカーは他にもセブンランド大陸第一ランド島全土、その周辺海域、ガイアベルテと愛莉にも付与している。


 愛莉の方は盗聴器みたいになっちゃてて、お兄ちゃん気まずいから通信は切っている……。


「ゴロウ様、私からもお礼を――、アストレナに会わせて頂き感謝致します」


 アストレナの母ベアトリクスは真剣な顔で俺を見つめそう言った。

 崩御したアズダール王には妻が数人いた。ベアトリクスは正妻である。

 彼女とアズダール王の嫡子は第一王子、アストレナの2人。王子の方は残念ながら故人だ。

 第一王子が死んで、アストレナが行方不明になってからは塞ぎ込んでしまい、人と面会できなくなっていたようだが、この場に出てきてくれたのか……。


「もう娘に会えないと覚悟しておりましたので……うっ、あ……」


 隣りに座るアストレナの手を握り、ボロボロと涙を流すベアトリクスを見て俺は少し後悔した。

 アストレナを政治利用する可能性があるオスカーには、アストレナ達の進路が決まるまで俺が保護していることを言えなかったが、ベアトリクスだけは保護した時点でこっそり連絡しておくべきだった。

 母親だもん、そりゃ心配するよな……。


「お母様……申し訳ありません。わたくしがもっと早くゴロウ様に相談していれば……」


「うううっ……ずっ、ブゥゥゥーーッ」


 ベアトリクスはハンカチで涙を拭い鼻をかんでから話を続ける。絶世の美貌ではあるが鼻の頭が赤い。


「すみません……。私ったら嬉しさの余り泣いてしまって……。酷い噂を聞いていたのです……。回復魔法を掛けられながら体の隅々を切り落とされたと……、それで私、娘をとても心配して、どうにかなってしまいそうで、でもあの噂は嘘だったのですね。本当に良かった……」


 するとオスカーが険しい顔で答える。


「そんな筈はありません。私は記憶魔石で一部始終を目撃しております」


 記憶魔石を偽ることはできないからな。まぁ事実だし。


「お母様、それについては本当ですわ。回復魔法で痛みは感じなかったのですが、わたくしもヒルデビアもレモニカも、人にお見せできない姿にさせられました……」


「じゃどうして……五体満足で……、いえ、肌もツヤツヤで綺麗で以前より健康に見えますよ。ヒルデも身長が伸びて、レモニはふくよかになっているではあませんか……」


 レモニカはヒオリの次に食べるからね……。身長も伸びたし胸や尻も成長している。


「ゴロウ様が回復魔法で全て治してくれましたわ」


「そんな筈は……失った体の一部は魔法では再生できないのですよ」


「ええ、そんな魔法があるなど信じられません。医療の常識が変わってしまう。……だが、神代魔法、転移魔法を扱えるゴロウ様ならあるいは……」


 ベアトリクス、オスカーに続き他の貴族達も「あり得ない」と言い合っている。

 するとアストレナが声を大にして言う。


「本当ですわ!ゴロウ様が失った耳や腕を回復魔法で再生してくださいました!」

「私もでございます。全てゴロウ様に治してもらいました」

「わわわわたしもですぅーっ!」


 この場にいる全員が俺に注目する。



「えっと……俺、何かやっちゃいました?」





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