第80話 奴隷の初潮



 あれから皆の協力もあり、庭造りは順調に進んだ。

 旅館周りは西洋庭園と言った感じで、赤煉瓦の道や花壇、煉瓦の池ができた。


 花は薔薇を中心に様々な種類を育てることにした。奴隷達の誕生日が全て違う月だから季節の花を育てて毎年プレゼントしようと思っている。



 8月も終わりを迎えた頃、庭造りが終わり皆で果物狩りをすることになった。

 ゴロウズ果樹園には熟成した梨や赤く染まったモモ、リンゴがたくさんなっている。


 田舎暮らしを始めるにあたって先ず初めにやることはご近所への挨拶だが、次にやるべきは果物の苗を植える作業だ。

 実家もそうだけど田舎では、果物は買うものではなく庭で取れるもの、という感覚なのだ。

 最初に色々植えておけば毎年実ができるから食べ放題になる。


 この時期は桃、梨、リンゴ、サクランボ、ブドウ、メロン、スイカ等が旬。


「ねぇウィスタシア、どうして種のあるブドウとないブドウがあるの?」


 フォンの素朴な疑問にウィスタシアは得意げに答える。


「それはだな。ジベレリン処理をしているか否かだな」


「ジベレリン?」


「ジベレリンは種が発する植物ホルモンだな。果樹に限らず植物は種の周りに実を付けるわけだが、ブドウの花が満開になったタイミングでこのジベレリン液を花を漬けると、種ができたとブドウが勘違いして実を付け始めるんだ。ジベレリンを使わない場合はブドウの花が受粉して種の周りに実を付ける」


 流石ウィスタシア、俺が教えたことをちゃんと覚えているな。日頃、真剣に学んでいる成果だ。

 ジベレリンの粉はホームセンターで売っているから、それを水に溶かして使う。


 するともう一人の農作女子シャルロットが鼻を高くして解説を始めた。


「フォンちゃん、ブドウどんな環境でも育つから世界一作られているフルーツなんだって!耐寒性、耐水性に優れててぇ〜、沙漠や湿地でも栽培できるんだよぉ♡樹勢管理じゅせいかんりって言ってね。栄養成長と生殖成長をコントロールして甘々な実を付けさせるんだぁ〜♡」


 いや、めっちゃ勉強してる!

 まぁこの世界にブドウはないんだけどね。


 ブドウは基本的に植えておけば勝手に育って実を付ける。


 しかし、甘くて粒の大きいブドウを作りたかったら定期的に新芽を摘む摘心てきしんをして蔓の成長を管理する必要がある。


 それと、シャインマスカット等は放置していると一房に1000粒くらい実を付けてしまう。それだと栄養が分散して甘くならない。


 花が咲いた時点で上の方を間引いて150粒くらいまで減らし実が出来てきたら、更に摘粒てきりゅうと言って実を間引いてスカスカすることで、甘い大粒のブドウになる。


 ガチで美味しいブドウを作る場合、かなり手間がかかるわけで、スーパーで売られているブドウが高いのも納得できる。


 うちは売り物じゃないから結構適当にやってるけどね。


「二人とも詳しくて凄い!にひひひ」


「ふふん、凄いでしょ♡」


 ブドウは葉が枯れる冬に枝を落とす剪定せんていを行う。切り落とした枝を細かく切って水気の多い土に挿しておけば苗木ができる。一本のブドウの木から毎年数千本って数の苗木を作れる。故に増やそうと思えば無限に増えていく。


「ふっ、毎日ゴロウから教わっているからな。私の実家にたくさん苗を送った。何れこの世界でも食べられるようになるだろう」


 本格的に実がなるのは苗を植えてから3年目。数年後にはこの世界でも一般的に流通するだろう。


 そうそう、毎日と言えば最近毎日、我が果樹園は獣害に遭っている。

 このセブンランド大陸には動物や鳥はおろか虫すらいないわけで、犯人は簡単に特定できる。


「チン……もっとメロン……たべる」


「ボクこんなに食べれないから、これあげるよ」


「うん」


 犯人はラウラのペット、ガイアベルテだ。

 ラウラの午前授業は南極大陸地下ダンジョン、アストロイカでゴロウズ三式がおこなっている。以前はガイアベルテも一緒に行っていたのに、最近は果樹園に一人でフラッとやって来てウィスタシアやシャルロットを手伝うのかと思いきやそうではなく、捥いだ果物を一人でムシャムシャ食べている。


 食べ切れない量ができるから、余った分は家畜にあげているし別に構わないんだけど完全に味を占められた。


「あわわわわ!み、皆さん、フルーツパフェができましたぁ~」


 レモニカが生クリームとアイスでフルーツパフェを作ってくれた。

 木陰に設置したテーブルに並べてある。


「「「「「 わぁ~! 美味しそう!! 」」」」」


「どどどどうぞ!た、食べてくださ~い!」


 今日は全員集まっていて皆瞳を輝かせてる。甘いものを見るといつもこれだな。


「んん〜!うまいですぞー!」

「うん。美味しいわね!」

「レモニカは料理が上手になりましたわね」

「ニャー、これ大好き!」

「ココノんも!凄く美味しいの!」


「き、気に入ってもらえてよかったですぅ~。えへへへへ」


 アイスクリームはレモニカが昨日から仕込んでいた。張り切って準備していたから皆喜んでくれてレモニカも嬉しそうだ。


「ごごごゴロウ様、あ、明日は今日収穫したリンゴでアップルパイを焼いても良いですか!?」


「お!いいね!焼こう」


「はいっ!」


 そんな感じで楽しくやっていると、テーブルに座ってパフェを食べていたヒルデビアが「あっ!」っと声を上げて立ち上がった。


 俺はそんなヒルデビアを見ると目が合った。彼女は俯き俺の横に歩み寄り、耳元で囁く。


「あの……ゴロウ様、申し上げ難いのですが、私だけ先に帰らせてもらってよろしいでしょうか?それで……ゴロウ様の瞬間移動でお風呂に送っていただきたいのです」


「構わないがどうしたんだ?」


 片目が髪で隠れた青髪ショートヘアの彼女は暗殺者のような鋭い目付きで俺を睨む。


「答えたくないなら言わなくていいぞ」


「いえ……、その……漏らしてしまいました」


 漏らしたって下の話だよな……。

 俺もヒルデビアの耳元で囁く。


「おしっこ?」


「いえ……う、うんちを……漏らしてしまいました」


 完璧な淑女である彼女から「うんこ漏らした」って言われると流石の俺も動揺するが、そんな素振りを見せれば彼女は傷付くだろう。何より今落ち込んでいる筈だ。俺はそんな思いから毅然と答える。


「大丈夫だ。気にすることじゃない。そういうこともある」


 ゴロウズ果樹園は旅館から少し離れていて今日はバスできている。

 事態は急を要する故、俺は皆に「ちょっと席を外す」と言ってヒルデビアと一緒に旅館の温泉に飛んだ。



 ヒルデビア・ルート・ハイデンは13歳で11月8日生。

 アズダール王国ハイデン公爵家の四女で幼い頃からアストレナ姫の侍女をしている。

 彼女は俺の家に来てから奴隷の中で一番身長が伸びた。僅か4ヶ月で10センチ伸びて163センチなったのだ。


 風呂に着くとそんなヒルデビアから生臭い匂いがした。さっきは外にいて風が吹いていたし動揺していたから気付かなかったが……。 


 これってアレの匂いだ。


 ヒルデビアの服装はグレーのポロシャツに黒いズボン、スニーカー。

 彼女の股間を注視すると黒ズボンの股の辺りに大きな染みができている。


「ヒルデビア、汚れたところを触るぞ」


 俺は彼女の内腿にできた染みに触れた。


「ゴ、ゴロウ様、おやめください……う、うんちなので汚いですよ」


「問題ない。俺は家畜の糞が手や顔に付いても気にせず仕事する。だから、お前のうんちが汚いわけないだろう。……やっぱりそうだ」


 ズボンの濡れた部分に触れた俺の指は赤く染まっていた。

 ヒルデビアも俺の指を見る。


「こ、これって……私、もしかして……」


「ああ、間違いないと思う。初潮を迎えたんだよ。健康な証だな。おめでとう」


「あ、ありがとうございます……」


 ヒルデビアがうちの女の子の中で一番最初に初潮を迎えた。


 どうするか……、愛莉を呼んでヒルデビアのサポートをしてもらうか……?

 いや、ダメだ。うちには女が12人もいてこれから次々に初潮を迎える。俺の責任でこの子達を引き取ったのにその度に愛莉を呼ぶなんて無責任だろ。


 自分で何とかしなければ……。


 ヒルデビアも初めてのことで不安だろうから余計な労力は掛けないようにして、取り敢えず汚れた服は俺が洗うか……。それと生理用品の使い方を教えて……。この前ホームセンターで買っておいて良かった。


「服は俺が洗っておくから脱いじゃって」


「それは困りましたね……。最近胸が膨らんで下も薄っすら生えてきましたので、ゴロウ様に見せるのは恥ずかしいのですが……」


「なっ……は、配慮が足りなかった。申し訳ない……直ぐに出ていくよ。新しい着替え用意しておくな」


「いえ……あの、ゴロウ様が見せろと仰るのであれば貧相な体ですがいつでもお見せしますよ。それにたくさん血が出て不安ですので、何かおかしくないか見ていただけると安心します……」


「ほえ?」


 普通そういうのは母親がやるんだろうけど、ここに母親はいない。

 つまり、俺がやるしかないのか……!?





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