第64話 奴隷に読み書きを教える



 午前中、奴隷達は各自選択科目を学んでいる。


 商人を目指すモモと革命家を目指すティアニーは午前中も読み書きや計算を学ぶ。

 たまに、アストレナとタマが参加して4人で学習することもある。


 6月も中旬になり今日は初めてティアニーとモモは実力テストを行った。

 2人は名前も書けないゼロからのスタートでテストは小学校1、2年生が受けるような内容だ。


 俺は赤鉛筆で答案用紙にマル、バツを書き点数をつける。


 ここは旅館の一室で、フローリング洋間の大部屋を学校の教室ように改修した部屋。

 教壇と黒板を設置して机、椅子が並べてある。


 今は午前の学習時間だから二人しかいないが午後はここに女子12人が集まって俺が勉強を教えている。


「採点終わったぞ」


 俺は2人に答案用紙を返す。


「語学算数、両方100点ね」


「ティアニー凄いな。あたしは語学が62点、算数なんてこれ……」


「……38点」


「あははは……。あたしバカなのかな……」


「そんなことないわよ!私の方が一つ年上だし。ちょっと貸して!教えてあげるから」


 モモは勉強が苦手だ。計算や暗記は人一倍苦手で最初の一回で覚えることができない。

 対照的にティアニーは要領が良く、なんでも直ぐに覚えてしまう。


 ティアニーにモモを任せるか。

 教えることも勉強になるからな。


「暫く自習にしよう。ティアニー、モモに教えてやってくれ」


「はい!先生!」


 最近ティアニーは俺のこと先生と呼び始めた。そしたらモモも真似するようになった。


 二人は同じ机に向かって算数のテスト回顧を始める。


「わからないことがあったら質問に来いよ」


「「 はい! 」」


 ティアニーは面倒見が良くて、モモは他人に甘えるのが上手いんだよな。案外良いコンビなのかもしれない。


 手が空いた俺は窓から外を見る。


 するとウィスタシアがトラクターの練習をしていた。

 ウィスタシアが運転するトラクターの横をシャルロットが歩き指示を出している。


「お姉ちゃん!右のブレーキ踏んで!早く旋回しないと!違う!左ブレーキじゃないよ!」


「す、すまない……難しいよ」


 耕運などをせず、ただ運転するだけの練習を一週間続けて、なんとか乗れるようになってきたけど、まだまだだな……。


 あれから、ウィスタシアと二人でいる時はキスをするようになってしまった。

 皆、公平に接すると言っておきながら、彼女に甘えられると俺もその気になってしまう……。


 〈吸血〉で存在進化したウィスタシアは以前より魔力量が増え魔法演算も早くなった。

 そして、さらに見た目も綺麗になった。あ、これは俺の主観ね。


 彼女に転移魔法など、第四位階魔法を教えれば使える筈だが俺がそれを教えることはない。

 約5000年前に魔法戦争で一度滅んだこの世界では第四位階以上の魔法を後進に教えることは禁じられている。


 この5000年以上昔を神代といい、以降を新時代という。


 魔法を教える禁忌を犯すと星の番人、白龍人ガイアベルテが咎人を殺しにくる。


 因みに前番人ガイアノスはアウダムに殺されて俺がたまに使う杖になったわけで、ガイアベルテが来ても返り討ちにできる。


 けど、第七位階魔法対決になったらセブンランド大陸なんて海の藻屑だ。


 うちの家や畑がなくなるのは困るからウィスタシアに第四位階魔法を教えるつもりはない。





 午後の授業の後は皆でテレビを見る。といっても日本の幼児向けアニメを日本語で流しているだけだ。

 日本の幼児向けアニメには道徳的な教えがふんだんに盛り込まれている。

 弱い者虐めはだめだとか、悪いことをしたらざまぁされるとか、道徳教育に最適なんだ。

 更にテレビモニターの下にこの世界の言葉で字幕を出していて、字を読む勉強にもなる。


 ウィスタシアも含め皆、真剣にアニメを見ているから面白い。





 就寝時間になってもモモが寝室に来ないから俺は教室に向かった。

 すると机に向かって勉強するモモの姿が。


「モモ、寝る時間だぞ」


「え?……あー、もうそんな時間か……、あたし、もう少し勉強したら直ぐに寝るから、先生は先に寝てて」


「昨日もそんなこと言って遅くまで来なかっただろ?それと授業中以外はゴロウでいいぞ」


「ああ、うん。……あたし、頭悪いから皆より勉強しないとできるようにならないんだ」


「……わかった。でも無理はするなよ」


「うん!ありがとう。ゴロウさん!」


 モモは人一倍努力家なんだよな。将来はどんな女の子になるんだろう。

 彼女の誕生日は6月22日。あと数日で11歳になる。


 この前、誕生日にウィスタシアが特別扱されたのが、皆凄く羨ましかったようで、誕生日は俺と一日デートしてケーキを食べてプレゼントを貰うという決まりができた。


 ティアニーとアストレナ以外、プレゼントはウィスタシアと同じ物がよいらしく、デザインは違えどネックレスをプレゼントすることになっている。


 それと全員誕生日までに何をしたいか考えておくことになっていて、モモはグラントランド王国の商業都市スイッチルの露店巡りを希望していた。


 因みにタマは一日アニメを見る、でフォンは牧場遊び、ココノは風船作りを希望していた。この三人は既にやりたいことが決まっているのだ。ウィスタシアの誕生日の後、何度も俺に相談に来て色々悩んで決めていた。





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