第83話 奴隷とテスト結果



 9月中旬、金曜日の午後の授業で、俺は採点の終わったテストを皆に返す。


 この子達の学力にはかなり差があって青髪のアズダール人三人は中学レベルの勉強ができるのに対してタマ、フォン、ラウラは小学校1年生レベルの学習しかできない。

 だから語学と算数はその子に合わせた問題集をやらせてわからないところは俺が教えるというやり方をしている。

 理科、歴史、道徳は皆共通の授業を行っていってこちらはテストは無し。


「さて、名前を呼ばれたら取りに来るように、アストレナ」


「はい!」


 アストレナは語学算数共に100点。優秀だ。


「頑張ったな」


「ゴロウ様のお教えのおかげですわ」


 と嬉しそうに微笑む。

 ヒルデビアから話はあった筈だがあれから進展はない。まぁ気長に待つか。


「モモ」


「はい!」


 テストを手渡すと、答案用紙に赤字で書かれた点数を見てモモの顔が明るくなった。青い瞳のハイライトが輝く。


 モモは算数96点、語学92点。


 モモも最初はタマやフォンと同じレベルだったのだが、彼女は午前中も学習しているし、毎日寝る前に一人で自主勉をしている。

 要領が悪く上手くいかないことが続いても直向きに努力できる性格で俺やティアニー、アストレナはそんなモモに好感を持っている。だから彼女の勉強に付き合うことが多い。

 その甲斐あってか、最近ではかなり成績が伸びてきた。


「凄いじゃないか。頑張ったな」


「ありがとうございます!」


 お礼を言われる筋合いはない。全てモモの努力の賜物なのだ。


 それから俺は次々にテストを返していった。そして最後に――。


「ガイアベルテ」


「ん?」


「ゴロウのところにテストをもらいに行くんだよ」


 首を傾げるガイアベルテの横でラウラが耳打ちするとガイアベルテは席を立ち俺のところへ来た。


「はい。良く描けてるな。上手だぞ」


「チン できる……?」


「いや、できてないな。次はちゃんと問題を解いてくれよ」


「うん……チン がんばる!」


 ガイアベルテは両方0点。


 ブドウやりんごの絵が描いてあった。きっとテスト中にお腹が空いていたのだろう。


 テストを返された子供たちが楽しそうに話している。


「タマ、何点だった?」

「秘密!フォンは何点だったの?」

「アッチは18点と24点、にひひひ」

「ニャ、ニャーより悪いね……。ニャーは48点と62点だったよ」

「ココノん、両方100点なの!」

「「すっごぉーーーい!」」


「ティアニー殿、凄いですね」

「ヒオリも結構いいじゃない。ラウラはどうだったの?」

「ボク、勉強きらーい!」

「ラウラちゃん、シャルも悪かったよぉ〜」


 エルフのティアニーはかなり優秀。そして意外だがヒオリも両方80点台で悪くない。普段勉強していないし大食いで脳筋なのに頭が良い。

 ラウラとシャルロットは両方30点台。二人共、勉強が嫌いで普段やる気がないからしょうがない。

 まぁ、この世界では小学校卒業レベルの読み書き、計算ができればかなり知的な部類に入る。のんびり学んで行けば良い。


「じゃ今日はこれで終わり。礼!」


 皆一斉に頭を下げた。


「夕飯まで自由にしていいぞ。それと明日の休みは午前中、さつま芋掘りに行くから参加したい子は朝食の後、玄関に集合してくれ」


「「「「「 芋っ!! 」」」」」


 休日の土日は皆自由に過ごしている。ヒオリやモモは普段通り、自習していることが多い。

 俺は毎週、こうして皆を遊びに誘って行きたい子だけ付いてくる感じが多い。行き先はいつもこっちの世界の海とか川とか畑で、何かを取って食べるって流れが殆どだ。

 日本にも行きたいが、向こうは9月に入ってもまだ暑くて、もう少し涼しくなったら遊びに行こうと思ってる。


「アッチ芋食べたい!」

「ニャーも!」

「某も参加します!」

「私も行くわ」

「ふふっ、うちのさつま芋は凄く甘いぞ」

「お姉ちゃん、お芋大好きだもんね♡」

「ボクも参加♪」

「チン たくさん……食べる!」


 全員参加するっぽいな。

 こっちの世界にはイネ科植物がないから一般的な主食は芋になる。地域によっては栗や豆を食べている。

 なので、異世界人は芋が好きなのだ。


 最近ではレモニカの提案でご飯とさつまいもを一緒に炊くことが多くなった。


「じゃ皆の水筒を用意しておくな」


「「「「「 はーい! 」」」」」



 授業の後、アストレナ、ヒルデビア、レモニカが俺のところに来た。

 片目が髪で隠れたヒルデビアは強い視線で俺を見詰めている。


「ゴ、ゴロウ様、明日のお芋掘りのあと、少しお話するお時間を頂けないでしょうか?」


「ああ、構わないよ。家に帰ったらどこか落ち着ける場所で話そうか?」


「はい!ありがとうございます」

「「ありがとうございます!」」


 ようやく話す気になったか。

 まぁ俺にできることは少ないが、彼女達の味方でいるつもりだ。できるだけ協力してあげよう。





 翌朝、ゴロウズ農園にて。


「うわぁー!広いねぇー!これ全部さつま芋なの?」

 とフォンが驚く。


「そうだよ。いつも豚にあげている芋はここで作ってるんだ」


 さつま芋畑だけで約一町歩ある。一町歩は100メートルかける100メートルの面積。

 うちでは家畜の餌用に大量にさつま芋のを作っている。豚の飼料の50パーセントはさつま芋で、破砕して細かくした芋を鶏や牛の飼料にも混ぜているから年間で結構消費するのだ。


 温暖な地域ではさつま芋の二期作が可能だが、ここは日本で例えると青森県同じ北緯にあり年一回の収穫になる。まぁ土地はいくらでもあるからこうして広い面積で栽培しているわけだな。


「軍手はちゃんとつけろよ」


「「「「「 はーい! 」」」」」


 今日は皆、私服だ。


「じゃぁウィスタシアとシャルロットは最初草刈り機で蔓を切って。その後、トラクターで掘ってくれ」


「はーい♡」

「任せろ」


 トラクターの後ろに専用の芋ほり器を付けて芋の下を堀りながら進んでいくと簡単に収穫できる。これだけ広い面積だと人力で収穫はできないから文明の力頼りになる。


 二人は草刈り機で芋の蔓を切り始めた。


 二人とも最近では色々な農具を扱えるようになった。苦戦していたトラクター操縦も上手くなったし、トラクターのグリス差しやオイル交換、アタッチメントの清掃、メンテナンスなども覚えてなかなかの農業女子になっている。


「草刈りが終わったところは芋を掘っていいぞ」


「タマ、フォン行くの」

「「 うん! 」」

「ティアニー殿、たくさん掘ってたくさん食べましょう!」

「ヒオリはそればっかりね」

「あたしもたくさん掘るぞぉー!」


 皆畑に入って手で土を掘り始めた。

 軍手をした手で一生懸命掘っている。

 うちの畑ではマルチシートを使っていない。蔓返しもしない。それでも普通に大きい芋が育つのは排水性の高い土地で肥料を少なめにして苗の感覚を過密気味に狭くして栽培しているからだと思う。

 さつま芋は土に肥料が多いと蔓ばかり成長して、肝心の芋が大きくならない場合が多い。雨が多かったり水はけが悪い畑だと根ばかり伸びて大きな芋ができない。そこで今のような栽培になったのだが、上手くいっている。


 まぁ、売り物じゃないから極力管理を楽にしたいというのが本音だけどね。マルチシートは片付けるの大変だし……。


 因みにカットした芋の蔓は異次元倉庫に保管して、来年の4月にまたここに植える。


「うりぁああああああーー!きゃっ!」

「あははははは!」

「フォン、面白いの!」

「にひひひひっ!大きいの取れたよぉーー!」


 フォンが芋を引っこ抜こうと蔓を引っ張って、急に抜けたから尻もちをついたようだ。

 皆楽しそうにやってるな。


 俺はテーブルや椅子、焚火と窯の準備をしよう。後で焼き芋とスイートポテトを作るからね。





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