第99話 夢魔族に恐れられた



〈フルーゲル視点〉


 フルーゲルと村民達は記憶魔石を見ている。


 戦闘が終わり、ゴロウをゴブリンとバカにした夢魔族達に動揺が走る。


「なんて強さだ……信じられない」

「……あのゼスタ様とロロム様が……」

「い、一瞬でしたね……」

「フルーゲル様、あの黒い炎は魔法なのですか?」


「第六位階炎魔法、閻黒炎だ……。ゼスタが第六位階で肉体を強化していたろ。そこまで強化すれば並みの炎魔法を食らっても焼けねぇんだよ。奴はそれを見越して閻黒炎を使った。あの黒い炎に焼かれたら肉体強化魔法なんて意味ねぇからな……」


 夢魔族達が呆然するなか、一人が必死にフルーゲルに訴えかける。


「で、ですがフルーゲル様、規模は限定的!躱せばよいのですよね!?」


「周りにガキがいただろ。怪我しないように魔力操作で範囲を絞ったんだ。閻黒炎は本来、町一つ焼く魔法だぜ。奴の魔力ならこの夢魔族の里を一撃で焼き尽くすだろうよ」


「「「「「 ……ッ!! 」」」」」


 固唾をのみ、言葉が出ない村民達にフルーゲルは話を続ける。


「ちっ、驚くべきはゼスタの頭を包んだ結界魔法だぜ。奴は炎魔法と結界魔法を同時に発動させた……」


「そんなことができるのですか?」


「誰にもできねぇよ!俺の親父だってできねー!」


「つまり、彼は2種類の魔法を同時に構築できるのですか?」


「違うな。ゼスタが転移魔法を使った瞬間、転移より早く奴は第六位階肉体強化魔法を纏った。……ガキの頃、親父から聞いたことがある。アウダムを最強たらしめる力、アカシックレコードの超演算……奴の魔法発動速度は限りなく0秒に近いんだ」


「「「「「 ……ッ!! 」」」」」


「ふ、フルーゲル様、ロロム様は何故負けたのですか?急に気を失ったように見えましたが……」


「ロロムが食らった攻撃……、見えた奴はいるか?」


「「「「「 ……? 」」」」」


「見えなかったならいいんだ……」


(ロロムは突如出現した巨大な影に包まれた。あの影はおそらく『霊界の腕』だ……。第七位階精神魔法は霊界の力を行使する魔法だぜ。生きている奴の精神、魂魄は誰しもが霊界と繋がっている。5000年前に親父が全世界の人間の魂を縛った魔法も霊界と深く結びついてるんだ……。くっそ……、アウダム……本物の化け物だなぁ。俺様の見立てたが甘かった。こんなところで死なせちまってロロムには悪い事をしたぜ……)


「あの男、戻ってくるようですよ!」


「いいか、お前ら!絶対に奴を刺激するな!ロロムを殺って生きてるってことは、俺様が施した魂の縛りは効果がねーんだ。絶対に怒らせるんじゃぁねぇぞッ!」


「「「「「 ハッ!! 」」」」」



 そこにゴロウが帰ってきた。


「「「「「 …… 」」」」」


「ん?皆静かだなぁ。まぁいいか。おい、フルーゲル」


「はい、何でしょうか?」


「話し方変わってない?まぁいいけど……。ちょっとコレ見て欲しいんだけど」


 ゴロウは記憶魔石を操作する。そこにはゼスタと戦闘中のヒオリの顔がアップで映る。

 真っ赤なサラサラの長い髪をポニーテールした琥珀色の瞳の美少女。その顔はゼスタに殴られ片目に青痣、頬に擦り傷、更に鼻血が出ている。


「これがなんだってんだ?」


「この子さ、ヒオリって言うだけど、まだ12歳の子供なんだ……。俺が今まで傷一つつけず大切に育ててきた娘なんだよね……」


 真顔で淡々と語るゴロウから冷たい殺気が溢れ出し、この場にいる全員の顔が青褪める。冷汗をかく者もいれば、失禁して少し漏らしちゃう者もいる。


「す、すまん……悪いことをしたな……」


「コレ、ほら、コレ見ろよ。血が出てるなぁ……。コレお前らのせいだろ?謝って済む問題じゃないよね?」


 すると村民の男が伏して進言する。

 その声は怯え上擦っている。


「あぁああぁアウダム様ぁあぁ〜」


「ゴロウな?」


「す、すみまん!ごごごゴロウ様!ご、ゴロウ様は時間を止められますし、一瞬で転移できるのですから、そのヒオリという娘がやられる前にゼスタ様やロロム様を止めに行けたのではないでしょうか?」


 正論だった。

 止められたのだから、当たり屋みたいなことを言われる筋合いはないと夢魔族の男は言いたいのだ。


 しかし、ゴロウの額には青筋が浮かぶ。危険な殺気が大量に溢れ出る。


「ざけんなぁあ゛ぁッッ!!そういう問題じゃぁ、ないだろうがぁああああああッッッ!!!」


「「「「 ヒィイィイイッ! 」」」」


「この子は関係ないよね?被害者だよね?子供だぞ?……俺、間違ってる?なぁ?どうなんだよ?答えろよ?」


 ガン詰めである。

 ゴロウの迫力に夢魔族の男は死を覚悟し、震えた声で答える。


「ま、間違ってないです……!申し訳ありません……」


「まぁわかればいいんだよ。この子のことになると熱くなるんだ。大声出してすまなかったな。さて、フルーゲル。この落とし前はつけてもらうぞ?」


「俺様は何をすればいいんだ?」

(話が通じねぇ……。くっそう。やべー奴を敵に回しちまった)


「本題に入る前に」


 ゴロウはフルーゲルが施した魂定制証こんていせいしょうを胸から取り出し魔力で掻き消した。


「やはり効いていなかったか……」


「精神魔法はお前の父、アルデバランを従わせる為にアウダムが開発した魔法だぞ。その記憶を引き継ぐ俺は全ての魔法構成を理解している。通用するわけないだろう。まぁそのせいでアルデバランは精神魔法の第一人者になったわけだが」


 そう言いながらゴロウは異次元倉庫から首ゼスタとロロムの肉体を取り出した。

 ロロムに魂をお戻し、ゼスタに回復魔法を掛けて体を再生させる。


「体が戻った……」

「私……眠っていたのですか?ゼスタ!?服を着てください!」

「ん?ああ、しかし家に帰らんと服がないな……」


「ロロム、無事だったか……よかったぜ」


 フルーゲルから笑みが漏れる。


「一瞬でゼスタ様が再生したぞ!」

「凄すぎる……」

「ゼスタ様、ロロム様無事よかったです!」

「お二人とも心配しましたよ!」

「ゼスタ様、私の服を着てください」


 夢魔族達は二人を囲み涙を滲ませて喜ぶ。



〈ゴロウ視点〉


 ゼスタとロロムが俺のところにきた。


「強かった。只々強かった」

「あの影を自在に操れるのなら夢魔族に貴方より強い者はいませんよ」


「お二人とも、うちの子供達の相手をしてくれてありがとうございます。勉強になったと思います」


 この二人は5年前に俺が倒した魔王より強い。

 ヒオリが負けて複雑な気分だが、神代の民と戦える経験なんて先ずできないから本当に良い経験になったと思う。


 俺は二人を一瞥するとフルーゲルを睨んだ。


 さて、本題だ。

 フルーゲルクラスの高位の魔法使いになると、記憶を抜き取る以心伝心シンクロソウルや命令に従わせる服従音吐ふくじゅうおんとは通用しない。

 本人に語らせる必要がある。

 俺には嘘を看破するスキルがあるから嘘は言わせない。


「フルーゲル、お前はこれから俺と一緒に来てもらう」


「なぜ俺様には雑な言葉遣いなんだ!?で、どこへ行くんだ?」


「アズダールの女王のところだよ。そこで事の顛末を話してもらう」


「フルーゲル様が何かやったのか?」


 ゼスタの問いに俺は答える。


「4年くらい前か、フルーゲルがアズダールの国王を操り、そのせいで現在アズダール王国は破滅に向かっている」


「そう言えばフルーゲル様、4年前に用事ができたとかで、数日出掛けていましたね。……でもその話が本当なら外国への干渉、戦争行為になりますよね?」

「フルーゲル様、俺達夢魔族は他種族と争わないと決めていたではないですか?何故そのようなことをしたのですか?」


 ロロムとゼスタにそう言われてフルーゲルは顔を顰める。


「ふん、俺様にも事情があるんだ。ゴロウ、お前の頼みは承知した。全て話そう。だが一つだけ約束してくれないか……、夢魔族には手を出さないでくれ。頼む」


 俺に深々と頭を下げるフルーゲル。


「安心しろ。初めから夢魔族を傷つけるつもりはない。だが、お前だけは別だ。アズダールの女王がお前を殺せと言ったら、俺はお前を殺す」


「ふん。約束だぜ。わかったよ、そん時は殺してくれ!」


 やけに潔いな。

 まぁ事情を聞けば理由はわかるだろう。




 フルーゲルは仲間達と別れの挨拶をする。


 その後、俺は夢魔族達からフルーゲルの命乞いを色々聞かされたが、今回の件はアズダールで王族を含め相当人が死んでるから味方はできないと答えた。

 まぁ、フルーゲルが慕われているのはよくわかったけどね。


 そして俺はフルーゲルを連れてアストレナ達が待つヴォグマン領へ飛ぶ。





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