第71話 奴隷の仲直り
やれやれ。
助け舟を出してやるか……。
「フォン、明日8月10日はお前の誕生日だろう?牧場で過ごしたいって言ってたけど、それじゃいつもと変わらないから、フォンが好きな虫取りに行くのはどうだ?虹色カブト虫って凄く綺麗な虫が取れる森があるんだ」
「カブト虫!アッチ……、虫取りたい!」
よしよし、食いついてきたぞ。目を輝かせている。
フォンは生き物を捕まえたり飼うのが好きなんだ。セブンランドに虫がいないから、虫取りできないって嘆いていたもんな。
「じゃぁ明日はそこに行こう!ただ、この虹色カブト虫はすごぉーく珍しい虫で、普通は何日も探さないと捕まえられないんだ……」
「ええ……明日捕まえられないかもしれないの?」
と不安そうに俺を見つめてくる。
するとココノが薄い胸を叩いてドヤ顔で言う。
「大丈夫なの!ココノんとタマも手伝うの!4人で探せば絶対に見付かるの!」
「そっか!うん!……でも、タマも行くの……?」
嫌そうに自分を睨むフォンにタマは上ずった声で答える。
「も、もし、ニャーが捕まえたら、フォンにプレゼントするね!」
「ココノんも捕まえたら、フォンにプレゼントしたいの!」
「俺が捕まえてもフォンにプレゼントするよ」
するとフォンの顔が明るくなった。
「アッチも自分で捕まえたい!」
なし崩し的ではあるが、どうやらタマが行くことを承諾してくれたようだ。
◇
この後、4人で遅めの昼食を食べた。
午後の授業はゴロウズ任せて俺は日本のホームセンターに虫取り網と虫籠、飼育ケース、カブト虫の餌等を買いに行った。
それと、祭りで着る浴衣が実家に届いていたのでそれも回収した。
「ほら、これで虫を捕まえるんだぞ。捕まえたらこの籠に入れて、家に持ってかえって来たらこっちのケースで飼う。餌はこれな」
夜、寝る前に3人にホームセンターで買ったアイテムを見せて使い方を説明すると3人のテンションは爆上がりした。物凄いやる気だ!
◇
翌朝、俺達はバボダン王国の山の中に転移した。
ここは赤道に近いジャングルで色々な虫が生息している。
「アッチ!たくさん捕まえる!」
「ココノんもたくさん捕るの!」
「ニャー、虫触れないから捕まえたら虫籠に入れてね!」
「危険なモンスターがいるから俺から離れるななよ」
「「「 はーい! 」」」
一応、広範囲に探知魔法を展開しておくか。
魔法を発動させると、周囲1キロ圏内に危険なモンスターはいなかった。虹色カブト虫はかなりたくさんいるようだ。
俺達のすぐ近くにもいるな……。まぁ俺が速攻捕まえたら子供達が楽しめないから黙っておこう。
ジャングルの中を進んでいくと、フォンがどんどん色んな虫を網で捕まえる。
「また捕れた!」
「見せて見せてっ!わぁー!綺麗な蝶々!フォン凄いねぇー、ニャー全然捕まえられない……」
「こうやって、サッと網を動かすと捕まえられるよ!」
「うん……ニャーもやってみる」
何だかんだでもう仲直りしているんだよな……。
子供は単純だから、喧嘩しても毎回寝たら仲直りしてしまう。
「ゴロウ、ココノんも虫捕まえたの!コレ見るの」
とココノが手で掴んで見せてきたのはカメムシだった。
「ココノ、それ臭い虫だぞ。手の匂いを嗅いでみろ」
「スンスン……うっ……臭いの……」
「アッチも嗅ぎたい!クンクン……うっ、うえ……臭いねぇ~」
「ニャーも嗅ぐ。 スッスッ……くっさぁ~~~~い!」
「にひひひ、タマの顔おもしろ~い!」
楽しそうに笑うフォンを横目に俺はココノの手を水で洗った。
そんな感じで探索していると、探知魔法の端に人とモンスターが入った。男が3人、女が2人。冒険者か?
モンスターはジャイアントコブラサーペント……でかい蛇の魔物でS級モンスターだ。
この周辺の国々では一番強い魔物で、個体数が少ないから滅多に出会わないのだが……。
ヤバいな。2人負傷して、このままだと全滅だ。
見捨てるのは後味悪いから助けてやるか。
「3人とも止まってくれ」
子供達は振り返り俺を見る。
「近くで人が魔物に襲われてるから助けに行く。子供達だけでここにいると危険だから3人も一緒に来てくれ」
「「「 うん! 」」」
俺は転移魔法を発動させた。
◇
「動けるヤツだけで逃げろ!」
足を食いちぎられた戦士風の男が叫ぶ。
「逃げろったって、こんなの無理だろ……」
魔法使いと思われる男がぼやく。
「回復魔法が効かない……ユーリナが死んじゃう……」
僧侶の女が弓使いの女を抱えて悲嘆する。
その僧侶の女も足がおかしな方向に折れ曲がっていた。
倒れて動かない男もいる。
地獄絵図だな。
「えっ?」
「何故子供が?」
「お前らなにやってる!逃げろ」
「無理だ……助からない」
突然、俺達が現れて驚いているな。
子供達はジャイアントコブラサーペントを見て足がすくんだようだ。
「ゴ、ゴロウ……だだだ大丈夫なの?」
「アッチ……こわいよ」
「ゴロウは強いから大丈夫なの!」
「ああ、全く問題ないよ」
俺は巨大な蛇に向かって歩く。
体長は30メートルくらい。胴体の太さは車くらいあるから人なんて一飲みだ。
この巨体で素早く動き、土魔法を使ってくる。厄介な魔物だ。
「おい!あんた殺されるぞ!」
「大丈夫だ。まぁ見てろ」
舌をチョロチョロ出してこちらを睨む大蛇の頭に向かって俺は駆け出す。すると相手も俺に向かってくる。
こいつよりも遥かに強いドラゴン種は俺を見ると速攻逃げようとする。コイツはどうやら相手の実力も測れない小物らしい。
俺を丸飲みにしようと大きな口を開ける大蛇に、右手のハンドガンを向けた。
「バン!」
俺の指先から勢いよく飛び出した魔力弾はライフル銃の如き速さで大蛇の頭に直撃する。
第四位階風魔法、魔空――。
ボンッ!
着弾した瞬間、魔空が空気爆発を起こし、大蛇の脳がミキシングされて口や目鼻から脳が飛び出した。ジャイアントコブラサーペントは絶命し地面に倒れる。
「えっ……倒した……のか?」
ポカンとしている足を失った男戦士と地面に転がってる奴、それから女僧侶、女弓使いに俺は何も言わず回復魔法を同時にかけた。
「俺の足が再生していく!」
「ユーリナの傷が塞がって……あ、あれ?あたしの折れた足も……治った!」
男が俺に言う。
「あんた、一体何者だ?」
「俺は只の魔法使いですよ。今日は子供達と虫取りに来てて」
それから俺は助けた5人に滅茶苦茶お礼を言われた。彼らはA級冒険者でそれなりに名の知れたパーティーらしい。
全く興味ないから適当に受け答えしていると。
「フォン、ココノ……あれ、そうだよね?」
タマが木の幹にたかる虹色カブト虫を発見した。
赤、黄、緑、青、紫色に光るボディ。縦柄の模様。色は日本のタマムシに似ているな。
「あれそうだよ!」
「間違いないの!」
「ニャーが捕まえてもいい?」
「うん!タマが捕まえて!」
「タマ頑張るの!逃がしたら絶交なの!」
「ううー……緊張するなぁ〜」
で、タマが網を被せるとカブト虫は羽を広げて飛び立ち、自ら網の中に入ってきた。
「入ったの!」
「やったね!」
タマは恐る恐る網を引き寄せて、網の口を手で持ち、カブト虫が逃げないようにした。
「やったぁー!!捕まえたぁー!ゴロウ、虫籠に入れて!早く早く!お願い!」
「はいはい」
俺が虫籠に入れると3人は並んでカブト虫を見ている。
さっきまで大蛇にビビってたのに、もうすっかり忘れているようだ。
そしてタマがフォンに虫籠を差し出す。
「これ、フォンにプレゼントするね!昨日は服壊してごめんなさい……。ニャー、これからはフォンの物勝手に使わないから!……だから、フォンと仲良くしたい……」
「アッチもう怒ってないよ!」
「仲直りしたの!」
3人は楽しそうに笑い合っている。
どうやらプレゼント作戦は成功したようだ。
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