第15話 奴隷に感謝された
奴隷紋は首の裏筋、うなじの下辺りにある。直ぐにリタがアンヌの髪を掻き分けて奴隷紋を確認する。
「アンヌ、奴隷紋が消えています!」
「二人とも首を見せてください……」
「「はい」」
「お二人の奴隷紋も消えています……。なんということでしょう……奇跡ですわ」
「ボクの奴隷紋も消えた?」
「どれ、某が確認しましょう。髪を上げてくだされ」
「ん?」
ラウラが髪を掻き上げる。
「おお!消えておりますな」
「ちょっと!私のも見なさいよ」
「どれ、おお!エルフ殿も消えておりますぞ。他の者はどうか?」
ヒオリが皆の奴隷紋を見て回る。
「兎族殿も消えておりますぞ。犬族殿も消えていますな。猫族殿は……消えておりますね。狐族殿も……ああ、起こしてしまって申し訳ありませんぬ、うむ!消えておりますぞ!銀髪殿は」
「私はよい。消えているとわかるからな。それよりお前のは私が見てやろう」
「かたじけない。お願いします」
ヒオリは長い赤髪を手で束ねてポニーテールを作って背を向けた。
「なんだ、お前のだけ消えてないではないか」
「ななななんと!本当ですか!?」
「どれどれ〜、ボクも見てあげる。あっ、ほんとだ消えてな〜い♪」
「ななななんと!何故、某だけ!?」
と言って涙目で俺を見てくる。
いや、ヒオリのも消したけど!?
「ちょっと、あんた達!嘘吐くのやめなさいよ!ちゃんと消えてるじゃない!」
「本当ですか?エルフ殿ぉ〜」
「本当よ!」
ヒオリがジト目でラウラとヴァンパイア少女を睨んだ。
「す、少し悪ふざけが過ぎたな」
「ぼ、ボクも面白そうだから便乗しちゃった。えへへへ」
「もう!酷いではありませんかぁ〜!」
「私なりのスキンシップだ。悪く思うな」
「ごめんね。さっきのチョコ、またくれるって言ってたからボクの一個あげるよ♪」
「ほ、本当ですかぁー!?魔族殿!約束ですよ」
「うん♪」
奴隷紋が消えて皆凄く嬉しそうだ。顔がほころんでいる。
自分で進路を決めなければいけないこれからが大変だというのにな。
「ゴロウ、ありがとう♪」ラウラ
「「「ゴロウ様、ありがとうございます!」」」アンヌ、リタ、レナ
「ゴロウ殿、感謝いたします」ヒオリ
「まぁ、礼を言うわ」エルフ殿
「ゴロウさん、ありがうな」犬のモモ
「ありがとうなの」兎のココノ
「……ん、ありがとう」猫
「皆どうしたの?」寝起きの狐
「私も感謝しよう」ウィスタシア
あれ?何故か感謝されている。
まぁこれから大変なのはこいつ等だ。精々頑張ることだな。俺はサポートくらいしかできないからね。
とその時、体はシルバーの金属で頭はボーリング玉サイズの赤い魔石でできたゴーレムが通りかかった。身長や体型は俺と同じ。
ゴーレムの腰には腰道具があり電動ドリルやトンカチがぶら下がっている。
そのゴーレムが話しかけてきた。
「おかえり、先に風呂に入っていてもらえば?って11人も買ったの?たくさん買ったね」
「思いのほか安くて纏め買いしたよ。記憶共有する?」
「いや、あまり興味ないから定時でいい。じゃ俺は作業に戻るわ」
そう言って去っていった。皆その後姿を凝視している。
「ゴロウ殿、あの方は何者なのですか」
「あれは俺の分身体だ。この家は1年前に入手したのだが、当初はボロボロで彼が一人でリフォームしてくれてるんだよ。もうかなり改修は終わってるから住むのは問題ない。あ、因みにここは無人島だけど、俺の分身ゴーレムが300体いて農業や酪農、インフラ整備をしている。彼らのことを俺はゴロウズって呼んでる」
そんなこと言われても意味不明だよね。皆ポカーンとしている。
さっきパン粥食べて寝ちゃった猫の子と狐の子も起きたようだし、先ずは風呂だな。
コレに関しては拒否は許さない。汚い女は嫌いだからな。
風呂を嫌がっても強引にぶち込んで徹底的に洗ってピカピカにしてやる。覚悟しとけよ。
「取り敢えず風呂に入ってその後夕食だ。で明日、皆の今後の方針を話し合おうと思う。今日は遅いし家に帰りたい奴は明日送る。じゃぁ風呂こっちだからついてきて」
俺が歩き出すと皆ぞろぞろついてきた。なんだ素直じゃないか。
「ココノんフロわからないの」
「風呂は湯に浸かって体を清めるところですよ。某は東倭国にいたおり、よく入りました」
「体が綺麗になってとても気持ちいいですよ」
「あたし、体はいつもバケツの水で洗ってたけど……」
「ボクも初めてだから楽しみ♪」
「あんたはさっき食べたチョコ返しなさいよ!ずるしたんだから!」
なんか楽しそうだなぁ。まぁ賑やかでいいか。
「あああの、ご、ゴロウ様、天井の灯りはランプとは違うようですが、ままま魔法なのですか?」
アンヌの部下レナ、おっとり顔にウェーブのかかったアズダール人特有の青髪を肩まで伸ばしている。
「ああ、これは電球って言って電気の力で明るくなっているんだ」
因みにこの施設、電気は来ているから普通に家電を利用できる。
「電気?……ですか……?」
そんなこと言われてもわからないよね!使って慣れてもらうしかない!
俺の横を歩くアンヌも口を開く。
「素晴らしい建築物ですわね。この様な滑らかな板の間を造れるなんて……。壁や天井の木材も素晴らしいですわ」
床や壁はコーティングされた木板でできている。
この世界はノコギリやカンナを使って職人が全て手作業で木材を加工するから全く歪みのない角材は高級品だったりする。
「この窓は……ガラスですわよね……こんなに大きなガラス初めて見ました」
透明度の高い大きなガラスを作る技術もないんだよな。
「外は一面畑なのですね……。綺麗な景色ですわ……」
「あれは田んぼっていって米という作物を作っている。今日の夕飯に出すから食べてみてくれ」
この旅館はなだらかな丘の中腹にある。丘の下はずっ先まで平野が続いていて、そこは全て田んぼと畑。その先には海がある。
窓の外では夕日が水を張った水田に落ちていて、空と水面がオレンジ色に輝いていた。
日本の田舎の風景だ。
廊下を歩いていくと「男湯」「女湯」とのれんのかかった入口に着いた。
「こっちの赤い旗が女風呂だから。入り方を教えるから付いて来て」
中に入ると広い脱衣所がありロッカーや洗面所、扇風機、ドライヤー等が置いてある。
うーん。全部一から教えないといけないよな……。最初だけはしょうがないか。
「凄い!これ鏡ですわよね……ここまで精巧な鏡があるとは……、国宝級ですわ」
とアンヌ。
4台並ぶ洗面所の壁全面に張られた鏡を全員が凝視している。皆、原始人が火を発見したかのように目を見開いて驚いている。
日本でもガラス鏡が製造されたのは17世紀頃でこの世界にまともな鏡はない。皆自分のはっきりした姿を初めて見たのだろうな。
「これが某、……某って実はけっこう可愛い……」
ヒオリは黙ってればかなり美人だけど、正直者だから心の声が漏れている。
「ボク、自分の顔初めて見たよ。こんな顔だったんだね」
ラウラは病的な真っ白肌に桜色の髪、水色の瞳の魔族で、妖精のような神秘的な美しさだ。
「私の顔汚れてて汚いわね」
「あたしも凄く汚れてる」
皆、顔や体、髪が土や油で汚れている。お腹には赤いペイントで値段が書いてある。
「風呂に入ろう。その前に色々使い方を教えるからな」
そこからドライヤー、扇風機、トイレのフォシュレット、シャワー、歯ブラシ等の使い方や石鹸、シャンプー、リンス、トリートメント等の説明をしたのだが、どれも皆初めて使うものばかりで理解できる子は少なかった。
それで皆から一緒に入りながら教えくれと言われて、しょうがないから俺も入ることになった。
全員小学校低学年くらいの子供で、微塵も欲情しないけど、流石に一緒に入るのはどうなんだ?
「ちょっと、なにグズグズしてんの!あんたも早く脱ぎなさいよ!」
と素っ裸のエルフ殿が煽ってくる。
やれやれ、困ったものだ。
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