第78話 兄離れできない妹
あたしは勢い良く襖を開ける。
『ちょっと!お兄ちゃんッ!』
仰向けに倒れた兄の上にウィスタシアさんが覆い被さっていた。
あたしに気付いてウィスタシアさんが顔を上げたけど、それまで二人は唇を重ねていた……。
『愛莉、いたのか……』
『いたよ!家族がいるんだから家で変なコトしないでよね!』
もう泣きそう。なんなの!普通実家でさかる?ラブホ行けよ!いや行って欲しくないけど……!
『変なコトしてないよ……』
『してたじゃん!……キス、してた!』
『あ、いや、これはキスじゃなくて、ヴァンパイアの吸血……』
『はぁ?無理だから!無理あるよ、その言い訳?』
『いいわけ……、っていうか事実なんだけど……』
『血って首から吸うんじゃないの、普通は?一般的なヴァンパイアはさ。口から吸うなんて聞いたことないよ?』
一般的なヴァンパイアなんてあたし知らないけどね……!
『あぁー、やっぱ愛莉もそう思ったかぁー、だよなぁー、うんうん。じゃぁ逆に聞くけどさ』
『逆にってなに?なにそのちょっと上からな感じ?』
『いや一旦落ち着こう。例えば汗臭い男の首筋と唇だったら、愛莉はどっちから血を吸いたい?ヴァンパイアの気持ちになって考えみてくれないか?』
『意味わからない!無理だよ、あたしヴァンパイアじゃないし……、でも……』
汗臭い首ってことはぁ……、
くっさいオスの匂いがするお兄ちゃんの……首!?
それとも、お兄ちゃんの唾液付き唇っ!?
あたしがヴァンパイアなら両方いけるけど、選ばないといけないのかぁー。
『迷うなぁー』
『あぁー……冷静に考えたらどっちも嫌だよな』
『そそそそうよ!どっちも嫌、気持ち悪い!』
『だよな。すまんすまん』
『てかさ、本当に吸血なの?先ずそこが信じられないよ!ないでしょ、唇からとか』
すると上半身を起こしていた兄が、馬乗りになるっているウィスタシアさんに耳打ちした。
この二人ベタベタしてるなぁー。イライラする。股間のところ……合体してない?
耳打ちが終わったウィスタシアさんがあどけない顔であたしを見つめた。
改めて見ると凄く綺麗な人だ。ウィスタシアさんより綺麗な人なんてこの世界にいないと思う。
そんな彼女が口を開く。
『ワ…タシ……キュッ…ケツ……シテ、マァーシター』
『はははは、上手だぞっ♪ほらね。ウィスタシアも言ってるじゃん。嘘じゃないだろう?』
兄は嬉しそうにウィスタシアさんの頭を撫でている。ウィスタシアさんは満更ではないようだ。
『いや、それ言わせてるじゃん!しかも片言で。まぁお兄ちゃんが嘘つけない性格なのは知ってるけど』
さっき珠湖から鯉屋での出来事がRINEで来ていたし……。だから本当に吸血なのかもしれない。でも……。
『いい、お兄ちゃん。恋人はいずれ別れるけど、家族は死ぬまで家族なんだよ?つまり家族の方が大切なの。ってことはさ、これ浮気だよ?』
『えっ?これ浮気なの?お兄ちゃん知らなかったな……?(誰が誰に対して浮気なんだ???)』
『知らなかったじゃ済まないからね。浮気は。とにかく離れて。あと、うちではイチャイチャしないで!』
あたしがそう言うと、兄とウィスタシアさんは異世界語で話し始めた。
二人とも楽しそうに笑っている。しかもウィスタシアさんが兄の胸をベタベタ触っている。
ほんと仲良いな。ラブラブカップルじゃん!
つか、何言ってるか全然わからない。あたしの方が付き合い長いのに仲間外れ感半端ないよ……。
生前の兄とは殆ど接点がなかった。
あたしが小6になった時、兄は家を出て大学に通う為に一人暮らしを始めた。
長期休みは実家に帰ってきたけど、いつもお父さんの畑を手伝っていて殆ど話さなかった。
だから生前の兄の顔を覚えていない。
それなのに、いきなりこんな、あたし好みの超イケメンになって帰ってきて、しかも凄く優しくしてくれる。
でも、もういい……。
もうお兄ちゃん……きらい。
『なに話してるの?』
『ん?俺が愛莉は家族想いでいい子なんだよって言ったら、ウィスタシアが愛莉は可愛いってたさ』
『っ!?ふ、ふーん、それでお兄ちゃんは何て返したの?』
『そ、それは……、な、何でもいいだろ』
『ダメ!ちゃんと答えて』
『お、俺も愛莉は可愛いと思うって言ったんだよ……。まぁ実際、客観的に可愛いと思うし……、客観的にな』
『客観的を強調してくるなぁー』
お兄ちゃんもあたしのこと可愛いと思ってるんだ……。
兄とウィスタシアさんが立ち上がった。
『変なもの見せたお詫びに、愛莉が前に行きたいって言ってた都内のスイーツカフェに連れて行くよ。瞬間移動で。そこのケーキ食べたいんだろ?』
『行きたい!!や、約束だからね!?』
『もちろん♪』
お兄ちゃん、そういうとこだぞ。
あたし、いつまでも兄離れできないじゃん……!
◇
愛莉乱入というちょっとしたハプニングがあったけど、タマとフォンが戻ってきたから俺達4人はお土産のオハギを持って異世界に帰った。
そして、本格的な庭造りが始まる。
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