第5話 エルフ少女を買う



 次に購入するのは両腕のないエルフ少女。こちらも痩せていて金色の長い髪は土で汚れ黒んずんでいる。


 俺のように奴隷を愛玩用として買う者は一部の富裕層だけで、普通は労働奴隷として購入する。

 奴隷は農作業や建築、製糸作業等をやらされることが多い。


 故に腕がなくガリガリに痩せた子供は需要がないのなか安く売られていた。これだと介護も必要だしな。

 値段は20,000グラン。


「おらっ!とっとと出ろよ。お前は買われたんだ」


「痛い!離してっ!」


 店員のおっちゃんが髪を鷲掴みにして牢から引きずり出した。


「おい、丁重に扱ってくれよ。もう金は払ってるんですよ」


「すみません。こいつ奴隷のくせに生意気なんすわ。んじゃ、奴隷紋に魔力流し込んでください」


 俺はおっちゃんの態度にため息を吐き、それから新しい木板を奴隷紋に当てて魔力を流し込んだ。

 スクロールの木板は使い捨てで一回しか使えない。1枚500グランで買える。


 首の裏筋に刻まれた奴隷紋が赤く光った。


 終わるとエルフ少女は俺を強い眼光で睨んできた。

 この目は過去に何度も見たことがる。

 己の命を賭して敵に立ち向かう者の目だ。死を厭わない覚悟の表れ。


「俺はゴロウ、お前、名前は?」


「……」


 俺を睨んだままで返事は無い。


 まぁ今はこれで良いだろう。失った腕は先天性ではなく最近切られている。傷口が若いからな。

 奴隷にさせられて惨めな思いをしたのだろう。


「不便だろうから、とりあえずその腕は治してやる」


 俺は手をかざし少女に回復魔法を掛けた。


 第四位階の回復魔法。

 腕の切断面がぶくぶくと泡のように膨れ、肘辺りで切断されていた腕が再生していく。


 そして完全に再生した。

 

「どうして……私の腕、元に戻った」


 少女は両手をグーパーしたり強く握って腕の再生を確認している。


「手がないと飯もろくに食べれないだろ。帰ったら美味いものたくさん食わせてやるから大人しくしといてくれよ」


 美味しい物を食べさせる、と言うと少女の体はピクリと反応した。


「……うん」


 再生した両手を見ながら仏頂面で呟く。

 続けて横にいた店員のおっちゃんが完治した腕を驚いた顔で見ながら言う。


「嘘だろ!?腕を再生させる魔法なんて……んな魔法あるですか?聞いたことないですぜ」


「地方に伝わる固有魔法ですよ」


 第三位階の回復魔法では欠損部を再生することはできない。驚くのは当然か。


 ん?まーたおっちゃんがコソコソと上に伝えろと他の店員に言ってるな。

 まぁそれで良いんだけどね。




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