第4話 狐少女を買う




 北のテントは滅茶苦茶大きくて端から端が見えない。


 テントに入ると糞尿の臭いがキツくて吐きそうなった。


 俺は奴隷が入った檻を見て回る。


 ここにいる者は服を着ていないのか。基本的に痩せ細っていてい、皮膚が爛れていたり手足が欠損している者もいるな。

 ほぼ全員が汚れた土の地面に寝そべっている。座る力もないのだろう。


 酷い環境だ。日本のペットだってもっと優遇されている。


 だが俺はこの奴隷達を救出しようとか、この国を転覆させて法律を変えよう等とは思わない。

 それぞれの国には文化や伝統、歴史があり、奴隷制度はその一部なのだ。

 それにこの世界では殆どの国が王国で君主制だから民草が虐げられる独裁国家ばっかり。


 俺は約2時間掛けてテント内を見て回り購入する奴隷を選んだ。

 そして買う奴隷が全部決まったところで店員のおっちゃんを捕まえた。


 最初に買うのは皮膚が真っ赤に爛れたボロボロの狐獣族の少女。

 皮膚が真っ赤に爛れるこの症状はバボナ赤熱という感染症でテント外の別テントに同症状の奴隷と一緒に隔離されていた。この病気が発症するとまず助からない。早くて一週間で死ぬ。


 ただ、感染症と言っても感染力は低く殆ど他人に伝染ることはない。

 また潜伏期間が10年と長く感染していることに気付かないのも特徴だ。


 そんな理由でこの少女は1000グランで売られていた。日本円にして千円。かなり安いが顔が可愛かったので選んだ。


 この店は奴隷の体に赤いペイントで値段が書いてあるから、その金額で購入する。

 体はガリガリにやつれて話す気力は無さそうだ。挨拶は無しだな。


「この子です」


 俺は店員のおっさんを連れてきて檻から出してもらうようお願いした。


「俺は中に入れないから自分で出してくださいよ」


 そう言って牢の鍵を開ける。

 感染を恐れているのだろう。


「金払ってそいつの魔力紋にこれを被せて魔力を流したら、直ぐに帰ってくれよな」


 そう言ってはスマホサイズの木板を俺に渡してきた。木板には魔通インクで奴隷紋が描かかれている。


 これを少女の首の裏筋に当てて魔力を流し込むことでオーナーを俺に書き換えることができる。


 実はこの奴隷紋、知られていなが第四位階、精神魔法なのだ。それを誰でも使えるように魔方陣にしたのがこの量産スクロールの木板。


 しかし、困ったな。この後別の奴隷を買うつもりでいたのに……。この子は後回しにするか?……いや。


 この時、俺は妙案を思い付いた。


「では、こちら代金です」


「あ、ああ」


 俺はおっちゃんに小銀貨1枚、1000グラン硬貨を手渡した。

 それから牢屋に入ると地面に横たわっていた狐少女の肩に腕をまわし上半身を起こす。


 首の裏筋には奴隷紋がありそこに木板を当てて魔力を流し込んだ。すると奴隷紋が赤く輝く。

 これで少女のオーナーは俺になった。


 何日も洗ってないのだろう。滅茶苦茶汚れているな。

 しかし思った通り、まだ幼いが美形で綺麗な顔だ。


「お前を買った。これからよろしくな」


 少女はガリガリに痩せていて目も虚ろ。やはり話す気力はないらしく、浅く開いた目で俺を見ているが返事はない。


「まず、病気を治してやる」


 俺が無詠唱で発動させたのは第四位階の解毒魔法。

 少女の体が青白く光った。


「おい、勝手なことするなよ」


「治療しているのですよ。まぁ見ていてください」


「バボナ赤熱が治るわけないだろ。そんな魔法は存在しないですぜ。さっさとソレを連れて帰ってくれよ」


 この世界の人が使える魔法は第一位階から第三位階まで。

 第三位階を3種類以上使えれば国の最高魔法権威、宮廷魔法師の一人になれる。


 だがしかし、俺だけは第四位階以上の魔法を使える。いや、大魔帝国軍の中にも第四位階以上の魔法を使う者はいたな。……魔王とか。


 少女が纏っていた青白い光は一瞬で消えた。体内の掃除が終わったようだ。


 この魔法は体内にある健康に害を及ぼす異物、細菌やウイルス、寄生虫等を全て除去してくれる。


 次に第三位階の回復魔法を発動させる。少女の体が白い光を纏うと赤く爛れていた全身の皮膚が綺麗になっていく。


「よし、終わった」


「すげー!本当に治しちまったよ!治す方法は無いって聞いてたんだが」


「地方に伝わる固有魔法ですよ」


 そう言いながら俺は少女をお姫様抱っこして檻を出た。体重はかなり軽い。20キロくらいか?歳も10歳前後だな。

 疲労は魔法では回復しないからぐったりしている。


 この世界は前世の地球で例えると12、3世紀頃の文明レベルで細菌やウイルスという概念がない。バボナ赤熱は細菌を除去しない限り、回復魔法をかけても皮膚の赤みが治らないのだが、第四位階の解毒魔法でなければ細菌を除去できない。


 まぁ、こうして綺麗なスベスベ肌になれば誰もが治ったと思うだろう。

 その証拠に俺を案内したおっちゃんが他の店員にコソコソと内緒話をしている。

 探知魔法によって声の振動から会話内容は筒抜けだ。俺がバボナ赤熱を治したことを上に伝えろと言っているな。それでいい。


 牢を出ると他の奴隷が俺に声をかけてきた。


「俺の病も治してくれ……頼む、死にたくない……」


 俺はその奴隷に小声で答える。


「もう少し待っていてくれ」


 

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