第50話 奴隷に水着を着せてやる



 5年前、グラントランド王国にて――。


「早く歩け!ゴロウ」


 手枷を嵌められた12歳の俺は身長が3メートルはある大男にロープで引っ張られ歩かされる。

 前を歩く大男の尻からは黒いトカゲの尻尾が生えていて、老兵である彼の白髪頭には角がある。


 男に引かれた俺は立派な帆船へ乗った。


「ライデンさん、俺は進んでセブンランド大陸へ行くのに、こんな手枷つける意味あります?」


「何事も形式だ」


 何が形式だ。

 この老騎士は俺の元パーティーメンバー。

 魔王討伐が終わったら寄って集って俺を邪魔者扱いしやがって。


「ヴァレッタとリュネレさんは?」


「知らん。それよりお前、よく陛下の前で大人しくしていたな」


「暴れてこの国を敵に回してもメリットないですからね」


「賢明な判断だ。お前がセブンランド大陸から出るようなことがあれば、儂はお前を殺さなければならない。これからも判断を間違えるなよ?」


「約束はできませんよ。ところでこんな船でセブンランド大陸まで行ったら1、2か月はかかるのでは?」


 グラントランド王国とセブンランド大陸はイギリスとアメリカくらい離れている。

 直線距離で5000キロくらいだ。


「そうか……ずっと大陸での戦いであったからな。お前は初めて見るのだな。見ておれ」


 老騎士ライデンは船の上から海に向かって叫ぶ。


「ガァーーアアアアアアアアアアアアアアッ!!」


 大海原に声が響き渡り、暫くして船の下に黒い影が現れた。

 影はこの帆船よりも大きく、40メートルは超えている。


 そつが海面に体を出す。出現したのは黒くてデカいワニだ。

 こいつは北海の覇王ノースオーシャンドラゴン!!


「心得ていると思うが儂はドラゴンを使役できる」


 この船の船乗り達がドラゴンに飛び乗り船から伸ばしたロープを繋いでいく。


「此奴は休まずに10日は泳ぎ続ける」 


「船を引かせるってことですか……」


「如何にも。セブンランド大陸まで4日だ」


 威厳溢れる顔でそう豪語する老騎士の名はライデン・ドラド・ライバック。


 勇者パーティーの戦士兼、グラントランド王国黒竜騎士団団長、竜騎士ドラゴンナイトライデンだ。

 彼は世界最強種族の一角、黒竜族。



◆◆◆


 現在――。


 砂浜の奥、森に面した場所にある海の家に俺達は移動した。この中で水着に着替えてもらう。


 この家は5年前、俺がセブンランド大陸に島流しになった際に最初に建てた建物。

 当時の俺はまだ日本に転移できなくて、この島の木材やツタを使ってこの家を建てた。


 弥生時代の高床式倉庫の様な建物で丸太で底上げして二階の位置部屋がある。

 電気は来ていないから夜になると真っ暗だ。


 俺達は丸太の階段を上り家へ入る。

 中は広くて俺達13人全員が横になれる程、スペースがある。


「ベッドや椅子があるな。ここに住んでいたのか?」


「島流しになって最初の一年半はここで暮らしてた」


 今住んでいる第一ランド島は冬はマイナス10度以下になるし、アイアンアントのせいで草木の無い大地だった。

 魔法が使えるだけの人間が住めるような場所ではなかった。


 その点ここは冬でも布団無しで寝られほど温暖な気候。

 家を建てる木材や焚火に使う薪は大量にあるし食べられる草も生えている。


 夜になると星が綺麗でなかなか楽しいサバイバル生活だった。


「この中で着替えてくれ」


 皆に水着を配りながら言う。


「ゴロウ殿、この服殆ど布がないのですが?」

「ゴロウさん、こんなエッチな服シャルに着せて、何するんですかぁ~?」

「海で泳ぐのだろう?ならば裸でよいだろう」


「いや良くないから! これは水着っていって水に入って遊ぶ時に着る服なんだ」


「あのゴロウ様、パンツの上から穿くのですか」


「いや、今着ている服は全部脱いで、これを着るんだよ」


 そう言うと、皆服を脱ぎだした。


「じゃ俺は外で待ってるから」


「ココノん、着方わからないの……ゴロウ着せて欲しいの」

「ニャーもわからない、着せてっ!!」

「某も自信がないです。世話になってもよいでしょうか?」

「何よこれ。殆ど紐じゃない?」

「シャルもわかんな~い。ゴロウさんに着せて欲しいな~♡」

「わからなかったら着る必要ないだろう?」


「いやあるから!」

 この露出狂!


 ってことは何人かに着せる必要がある……!

 そう思っていたら、早速スッポンポンになったエルフのティアニーが自分の水着を俺に差し出して言う。


「皆わからないだからとっと着せなさいよ。早く海で遊ぶわよ!」


 その言葉で皆一斉にスッポンポンになった。


 俺が目のやり場に困っていると、誰かが背中をトントンする。


 誰だ?……おまわ……。


 振り返るとスッポンポンのモモと目が合った。


「あたしも……これ殆ど紐だし……どうすればいいかわからないよ……」


「じゅ、順番に着せてあげるから……!!」


 ということで、どんどん着せていく。すると何人かは俺が着せているのを見て理解したのか自分で着だした。


 フォンも背中が大きくあいたワンピース水着を自分で着たようだが、色々ズレている。


「フォン、前と後ろが逆だぞ。胸が隠れてないし、尻尾の穴があっただろ。尻尾を変なところから出すからパンツがズレておかしくなってるぞ」


「もう一回脱いで着てみる!」


 四苦八苦して何とか全員に着せることができた。


 やれやれ、女が12人もいると大変だぜ。



◇◇◇



「沖に行くとサメという危険な魚がいるから、海に浮かぶブイより先に行くなよ」


 ゴロウの注意を聞いて各々が海へ駆け出す。


 それから浮き輪で遊ぶ子やシュノーケリングで海に潜る子など皆、好きに遊んでいる。


 白いビキニを着た銀髪ショートヘアのシャルロットは浅瀬でウィスタシアと貝やサンゴを拾っている。

 キリっとした顔のウィスタシアとは対照的でシャルロットはおっとりた目付き。

 彼女は12歳、身長は146センチでヴァンパイア特有の赤い瞳の美少女だ。


「お姉ちゃん、昨日もゴロウさんに放置されたね」

「頭は撫でてもらったぞ」

「うーん、でもゴロウさん、ずっとモモちゃんに構ってたじゃない?」

「それは……そうだが……」

「あっ!ピンクの可愛い貝殻はっけーん!!……やっぱりゴロウさんってロリコンなんだよ。子供好き(意味深)ってやーつ」

「そんなことはないぞ。本人はいつも否定しているしな。私はゴロウを信じるよ」

「じゃあ、シャルがぁ~、ゴロウさん誘惑して確かめてあげる♡」

「おい!変なことするなよ!我がヴォグマン領の恩人なのだぞ」

「クス、お姉ちゃん焦っちゃって可愛い♡ 大丈夫っ、シャルに任せてぇ♡」


 そう言うとシャルロットはウィスタシアをおいてゴロウの元へ向かった。


 彼を誘惑しに。














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