第49話 奴隷とゴロウのバナナ



 ウィスタシアの布団へ行くと両サイドにモモとラウラが寝ていた。

 俺はモモとウィスタシアの間に横になる。


 ウィスタシアに体を向けると、彼女はモゾモゾと擦り寄ってきて、俺の胸に顔を埋める。

 この甘えん坊ちゃんめ……!


 俺はそんなウィスタシアの頭を撫でてあげる。

 暫くそうしていると彼女が呟く。


「今日、私も一緒に出掛けたかった」


「今度連れて行ってやるから」


「約束だぞ」


「ああ」


 ラウラと二人で出かけて嫉妬でもしたのだろうか?……だとしたら可愛いけど、そんな妄想、俺の自惚れだよな。


 子供達が寝て、取り敢えず落ち着いたから俺もこのまま寝ようと思ったら、誰かが俺の背中をトントンする。


 誰だ?お巡りさんか?


 振り返ると、後にいたモモと目が合った。


「ゴロウさん、やっぱりあたしも抱っこして欲しいかも……ダメならいいんだけど……」


 ダメなわけないだろう。

 子供優先なのだから。


「遠慮するなって言っただろ」


 俺はクルっと回転して、モモの耳の裏をモフモフする。

 なんだこれ、フワフワだな……。


「あ、ありがとう……、ご、ございます……」


 モモが俺に擦り寄る。

 ココノやタマ、フォンは身長も低くて子供って感じだから、ロリコンじゃない俺が抱っこしても何も問題ないのだが……。


 セントバーナードのような耳と金髪の犬娘モモは身長160センチ以上。スリムでウエストや腕は細いのに胸も尻もそこそこ成長している。


 そんな彼女の張りのある艶やかな褐色肌が密着して……。

 いかん!落ち着け俺!この子、10歳だから……!

 お巡りさん、俺違うんです。ロリコンじゃないんです……信じてください!


「暖かくて安心する……」


「そ、そうか……よよよよかったな……」


 獣族は他の子もそうだけど撫でられるのが好きなのか暫くモフっていると、モモはうとうとしてきた。

 そろそろ寝そうだな。


 すると後ろで待たせていたウィスタシアが拗ねた声で言う。


「私はもう寝る」


 あ……怒らせてしまった……。



 結局この日はこのまま眠って朝を迎えた。


「ウィスタシア、おはよう……」


「ゴロウなんて嫌いだ!(私のことも、いっぱい構ってくれなきゃ許さないからな……)」


 後半は小声で早口で何を言っているか聞き取れなかった。

 昨晩は放ったらかしにしたから機嫌を損ねてしまったようだ……。




 朝食の後、玄関に集合した皆に俺は言う。


「今日は普段、皆が食べてるバナナや砂糖を栽培している場所に行く」


「「「「「 はーい! 」」」」」


「では出発!」


 俺は転移魔法を発動させた。


 眩しい日差し、焼けた白い砂浜、どこまでも続く透き通った青い海。

 5月初旬の早朝だというのに気温は30度近くあり額に汗が滲む。


 ここは珊瑚礁と白い砂浜に囲まれたマングローブ生茂る南国の孤島。


「ゴロウ殿、ここもセブンランド大陸なのですか?」


「列島の一部ではあるけどな……。セブンランド大陸は7つの島がヒョウタンのように繋がった地形で、北端の第一ランド島から順に南端の第七ランド島までが繋がっている」


 ただし、俺の家がある第一ランド島と第二ランド島を繋ぐ細い陸地は蟻のモンスター、アイアンアントの侵入を防ぐため、俺が海に沈没させたから現在そこは海峡になっている。


「今いるのは第七ランド島からずっと南にある無人島だ」


 ここは南に約300キロメートル離れた海に浮かぶ絶海の孤島。

 今まで人が住んだ形跡はない。故に海が汚れていないから滅茶苦茶水の透明度が高い。


 縦長の島で大きさは沖縄本島の約三倍くらいあるから結構広い。更にこの島の周りに小さな離島がたくさんある。


「海が綺麗ですわね」

「はい……とても美しいです」


「ここら辺は珊瑚礁の海で色鮮やかな熱帯魚がたくさんいるから海の中も凄く綺麗だぞ」


「アッチ、海に入って遊びたい!」


「これから案内する畑はそんなに広くないからゴロウズさん達の仕事を見学したら海で遊ぼう」


 沖縄県の石垣、宮古、西表と同じ緯度に位置するこの島は亜熱帯気候で、ここでバナナ、パイナップル、マンゴウ等、熱帯の果物やサトウキビ、胡椒、カカオ、その他色々な香辛料の栽培をおこなっている。


「ここがバナナ畑だな」


「緑色のバナナがたくさんあるの」ココノ

「バナナってこうやってできるのね。熟すと黄色くなるのかしら……」ティアニー

「ボク、大きいバナナ大好き♪」ラウラ

「ゴロウのバナナは一本の木にたくさん成るのだな」ウィスタ


 俺のバナナ?っていうか普通バナナはたくさん成るものだ。


「これは木じゃなくて草なんだよ」


「「「「「 草ぁ~? 」」」」」


「ああ、多年草の一種で株から芽が出て増えるんだ」


 大きなバナナの株から40センチくらいの小さな芽が出ている。

 俺はスコップで土を退かして、その小さな芽の根元をナイフで切って親株から切り離した。


「これを植えると、成長してバナナの実ができる」


 バナナやサトウキビは本体から芽がでてどんどん増える。それに合わせて畑を広げていたら、最近ではかなり収穫できるようになってしまった。

 余ったバナナは家畜の発酵飼料に混ぜて消費しいるがそれでも消費しきれない。

 ヴォグマン領に食料を貸して少し整理できたがな。


 それから俺は南国の畑を皆に案内して回った。

 因みにここでは3体のゴロウズが働いていて収穫時期だけゴロウズを送り込んで増員している。


「ゴロウ様、ここには危険な魔物はいないのですか?」


「この島に魔物や動物はいなくて飛べない鶏みたいな鳥と、渡り鳥がいるくらいかな」


 哺乳類がいないから血を吸う蚊やアブもいないし、蛇なんかもいないから過ごし易い島なのだ。


 一通り見学が終わり俺は皆に言う。


「この後は海で遊んでもいいし、ジャングルを冒険してもいいぞ」


 島の奥へ行くと南国の珍しい花がたくさん見れる。透き通った湖や滝があってそこで遊んでも楽しい。


「皆、どうする?」


「アッチ、海で遊びたい!」

「某も泳ぎますぞ」

「わたくしも海に入ってみたいですわ」

「ココノん、海で潮干狩りするの」


 海派が多いな。


「わかった」


 7月、8月になると日差しが強過ぎてシャツを着ないと肌が滅茶苦茶焼けるから砂浜に出られない。

 ここでは5月くらいが海水浴には丁度良い。


「浜辺に海の家があるからそこで水着に着替えよう。皆の水着は用意してある」


 皆と南国の海で海水浴か。楽しそうだ。





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