第76話 奴隷の生理用品


 フォンの誕生日8月10日から8月31日まで夏休みにした。尤も皆好きで学んでいるから午前の選択科目は通常通りにおこなわれている。


 午後は授業が休みで自習する子以外はそれぞれ好きなことをやっている。

 川の横に土魔法で作ったプールで泳いだり、海に釣りに行ったり、楽器を弾いたり、農園で野菜や果物の収穫を手伝ったりと様々。


 俺本体は担当していた午後の授業がなくなり、その時間に以前から構想していた庭造りを本格的に始めることにした。


 現在、土が剥き出しになった広大な更地の上に旅館が建っていてその横に大きな車庫があるだけなのだが、雨が降ると泥で靴が汚れるし大きな水たまりができて歩きにくい。雪が解ける春先なんて常に地面がぬかるんで最悪だ。


 俺は皆から意見を聞いて庭の図面を作成した。そして図面から必要な資材の数を大まかに算出する。



 それで今日はタマとフォン、ウィスタシアと一緒に日本に買い物に来た。


 最初に地元の庭資材専門店に頼んでおいた庭造り用の煉瓦等を取りに行った。


 異世界でも自作煉瓦を田んぼの用水路等に使用しているが、うちの旅館のような洋館に合うお洒落な煉瓦を量産することはできなくて、日本で買うことにした。


 日本だと様々な種類の洋風煉瓦を選んで買うことができる。


『どうも、山田です』


 事務所に顔を出して事務のおばちゃんに挨拶する。


『あれ?持って帰るって聞いてたからトラックで来ると思ってたけど、今日は引き取らないんですか?』


 そう言いながら、おばちゃんはタマとフォンを見て目を丸くした。


『あっれー!耳と尻尾が付いてるよ。コスプレって言うんだろう?本物みたいだね』


 まぁ本物なんですけどね。


『今日持って帰りますよ。どこに積んでありますか?』


『あらそうなの?こっちですよ』


 おばちゃんに付いていくと彼女は歩きながらタマとフォンに話し掛ける。


『それ本物みたいだね~。耳と尻尾。どうやって付いてるの?触ってもいい?』


 二人は俺を見て首を傾げる。自分が何を言われているのか分からないって顔だな。


『この子達、外国人で日本語は殆どわからないんですよ』


『あ、ごめんなさい』


 屋外の広い資材置き場に案内された。

 煉瓦やタイル、ブロック、セメント等が山のように積まれていて『山田』と張り紙がある。


『支払いは済んでいますので貰っていきますね』


『え!?』


 俺は異次元倉庫に建築資材を全て転送する。

 大きな資材の山が一瞬で消えた。次に精神魔法でおばちゃんの記憶を一部消去する。


『え?あれ?私何をしていたのかしら?』


『では受け取り終わったので失礼します』


『あ、はい。ありがとうございました』


 きょとんとするおばちゃんを後に俺達は店を出ると転移魔法でホームセンターへ飛んだ。



 ウィスタシアは何度か一緒に来たから、もう慣れてしまったが、タマとフォンは駐車場から見るホームセンターの巨大な建物に驚いた。


「凄く大きい!お城みたいだね!」

「中に入るんだよね……ニャー、緊張してきたよ」

「ふっ、私はたまに来るが、色んな物が売っていて楽しいぞ」


「俺から離れるなよ。迷子になるぞ」


 俺が歩き出すと緊張した顔のタマとフォンは俺のTシャツの裾を掴んで付いてきた。


 今回、初めて獣族を公共の場に連れていく。獣族は耳の形や位置がこっちの世界の人間と明らかに違うし、おまけに尻尾も生えている。

 人目のある場所に連れて行く際は認識阻害魔法で隠すことも考えたが、資材屋のおばちゃんの反応を見て隠すのをやめた。


 日本人は他人に興味がないのか、それともファンタジー作品がメディア化され過ぎていて獣耳と尻尾に抵抗がないのか、タマやフォンを見ても余り驚かない。

 うちの実家の家族の反応は『変わってるね』とか『おもしろい』って感じで、さっきのおばちゃんは『コスプレ』だった。


 まぁ何か言われて問題になりそうだったら相手の記憶をちょっと弄っちゃうんだけどね。


 ホームセンターの客層は年配で獣族二人をチラチラ見てくるものの、話し掛けたりちょっかいを掛けてくる人はいない。


「ゴロウ見て!プニキュアの歯ブラシ!」

 とタマ。

「買ってあげようか?」

「いいのぉ?」

「いいよ。カゴに入れて」

 タマの瞳が輝く。


「やったぁー!嬉しい!」

「タマいいなぁー、アッチも欲しいよぉ」

「フォンのも買ってあげるから好きなの入れて」

「わぁー!やったぁー!にひひひひっ」


 120円の歯ブラシでこんなに喜ぶんだから安いものだよ。


 するとタマが改まって。


「ゴロウ、ココノの歯ブラシも買っていい?」

「ああ、いいよ。二人が選んであげな」


「「 うん! 」」


 ココノはヒルデビアと一緒にゴロウズラボに通っている。それでゴロウズ達と開発している紡績機がそろそろ完成しそうで今は忙しいようだ。今日は誘っても来なかった。

 紡績機は、昭和初期に日本の工場で使われていた機械を参考に製作していて、完成すれば綿花から自動で糸を作れる。

 将来、服を作る予定で今はその前段階だ。


「ゴロウ、私もプニキュアの歯ブラシが欲しいのだが……」


 と涼しい顔でウィスタシアが言う。

 あれ、この子19歳だよね?


「好きなのをカゴに入れてくれ」

「ふふっ、ありがとう」


 嬉しそうに微笑むウィスタシア。

 可愛いからまぁいいか……!


 ここでは庭資材の他に日用品も買う。ゴロウズラボでまだ作っていない物は日本で買うしかないのだ。


「そうだ。あれも買っておくか」


 別の陳列棚に移動して商品を手に取ると隣で見ていたウィスタシアが俺に言う。


「それはなんだ?」


「ナプキン……、女性が生理の時に使うやつだな」


「そう言えば私はまだ来ていないな」


「タマ、せいりってなぁに?」

「ニャーも知らない」


 子ども達は知らない子もいるのか……。

 うちには女の子が12人プラス1匹いて、まだ誰も初潮を迎えていない。


 今度、資料を集めて保健の授業をしよう。体の仕組みを知っておくことも重要だ。


 発育からして、そろそろモモあたりが生理になるだろうし……。モモは11歳で身長は少し伸びで167センチになった。身長だけでなく胸と尻もうちで一番大きい。

 ただ、毛はまだ生えてないんだよな。毛が先か初潮が先かは俺にはわからないけど、たぶんどちらもそう遠くないだろう。


「ウィスタシアはヴァンパイア族だから生理の周期が人族と異なるんだよ。今度詳しく教えてあげるから」


「ああ、頼む」


 ナプキンは種類が多くて何を買って良いかわからない。夜用、多い日用、熟睡、安心ガード、吸収力プラスワン……。いや、ほんといっぱいあるな。

 パッケージに絵で説明があるから使い方は分かり易い。なるほどパンツに貼ればいいんだな……。


 現在、生理用品の陳列棚で俺はナプキンを手に取り真剣に説明文を読んでいる。俺の横にはウィスタシア、タマ、フォンがいて、俺にぴったり寄り添っている。


 そんな光景を客のおばちゃん達数人が見ているカオスな状況……。


『ほら……あの人ずっとナプキン見てるのよ』

『自分で付けるのかしら?』

『子供に無理矢理コスプレさせてあやしいわよね……』


 と、取り敢えず適当に色んな種類を買って直ちに立ち去ろう!ここに長居するのは危険だ!


 獣族のタマ、フォンが注目されると心配していたのに、まさか俺が悪い味で注目されてしまったよ……!





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