第75話 奴隷と花火大会


 皆で祭を堪能したあとは、転移魔法陣へ入り実家へ移動した。

 今日行われる地元の花火大会を皆で見るのだ。

 魔法でも花火のような現象を演出できるけど、花火職人が作った打ち上げ花火程、緻密ちみつで美しくない。特に日本の花火は本当に綺麗なんだよな。


 愛莉は俺と話した後、友達と花火大会に行くと言って先に一人で帰った。

 地元の花火大会は俺の田舎で有名なナンパスポットになっている。不良も多いから念のため愛莉に監視システム、ゴロウズ二式を付けておいた。これで万が一、事件に巻き込まれても助けに行ける。


 転移魔方陣から次々にうちの連中が出てくる。

 俺の部屋は2階で和室六畳。この部屋に俺入れて14人は留まれないから、俺は交通誘導員の如き動きで皆を外へ誘導していく。


「後ろが詰まるから止まらないで。そこ、進んで……」


 ぞろぞろ一階へ降りていくと。


『ココノちゃんよくきたねぇ~。うちで夕飯食べてくかい?』

『ケーキ食べるから、いらないの!今日、フォン、誕生日なの!』

『あらっ!そうなのぁ!?ばーちゃん、フォンちゃんにお小遣いあげないと』

『ゴロウ!あんた、来るなら事前に言ってよ!まぁまぁアストレナちゃんいらっしゃい。青い浴衣可愛いわねぇ~』

『ごきげんよう。お義母様。本日はよろしくお願いいたします』


『ちょっと、まだまだ出てくるから話しは後にてくれよ!』


 途中、ばーちゃんと母さんが話し掛けてきたが、皆の足が止まるから控えてもらった。



 外に出ると日は沈み真っ暗になっている。

 日本と異世界では約4時間半、時間がズレていて時刻は19時。あと30分で花火が始まる。


 俺は土魔法で屋形船を造った。更に船に登る階段を造って。


「皆、この船に乗ってくれ」


「さて、花火とは一体、どのようなものなのでしょうか?」ヒオリ

「知らないわ。だって私達の世界にはないんでしょ……」ティアニー

「夜空を照らす大きな火花ですわ。とても美しいですよ」アストレナ

「あたし、初めて見るから楽しみだな」モモ

「ボクも楽しみ♪あっ、ほら、ガイアベルテこっちだよ」ラウラ

「チン……ここ……どこぉ??」ガイアベルテ


 皆が船に乗っり俺は重力魔法で屋形船をゆっくり空へ浮かせた。

 船には認識阻害魔法が掛けられていて他者が見ることはできない。


 近くの河原で打ち上げるから実家から見えるけど、どうせなら間近で見た方がいいだろう。


「わー、見て見てぇー、人がたくさんいるよ!」タマ

「うん、お店もたくさんある!凄く賑やかだねぇ、にひひひひっ」フォン

「日本人って皆、楽しそうなの!」ココノ


 夏祭り会場で花火を上げる。

 夜空に浮ぶ船の下には出店がずらっと並び、歩けない程、人でごった返している。

 俺達は空の特等席でのんびり花火を見れるわけで、ちょっと贅沢だよな。


「愛莉も一緒じゃなくて良かったのか?」ウィスタシア

「愛莉ちゃんってゴロウさんのこと好きだと思うんだよね……」シャルロット

「それは当然だろう。兄妹なんだから」

「そうじゃなくてぇー!」


 皆、楽しそうに話している。

 愛莉ももう着いてるかな?心配だから見ておくか。


 俺は無限記憶書庫アカシックレコードと同じ異次元空間にある。ゴロウズ二式にアクセスする。

 愛莉が見ている景色が俺の頭に入ってきた。


 友達と二人で祭り会場を歩いているな。あれ?この子……知ってるぞ。

 前に渋谷で会った……NouTuberのたまこインタビューチャンネルだっけか……。


珠湖たまこ、それでね……、実はお兄ちゃんその人と付き合ってなかったんだって……」

「もう、愛莉はいい加減、兄を性的な目で見るの止めるっスよー」

「みみみみ見てないよ!」

「いやいや、めっちゃ見てるっスよ……。愛莉ってお兄ちゃんでシコってるっスよね?」

「え?……はぁ?……いや」


 愛莉の顔がみるみる赤くなる。耳まで真っ赤だ。

 えっ?俺でシコってるの!?


「ほら、黙っちゃった……愛莉は素直だから嘘吐けないっスもんね♪」

「シ……シコるわけないでしょーーッ!!」

「はいはい、シコってるスねw」


 心配ない?ようだ……いや、逆に心配なんだが……!?

 取り敢えず今のは聞かなかったことにしよう。


「そろそろ花火が始まるから、飲み物なんかを配るよ」


 俺がそう言うと。


「わわわわたし!や、やりますぅー!」レモニカ

「私も手伝いますよ」ヒルデビア


 皆に飲み物やつまみが生き渡ったところで。


 ヒュ~~~~~~  パンッ!


 一発目の花火が上がった。

 それから続けて。

 すぐ目の前で、様々な色や形の打上花火が連続して炸裂し夜空を照らす。


 パッパッパッパッパッパッパッパッ パンッパンッ バババババババッ

 シューパン ババババババババッ パッパッパッパッパッパッパッパッ


「「「「「「 わぁ~~~! 」」」」」」


 花火の光で皆の驚いた顔と色とりどりの浴衣が闇夜に浮かんでいる。

 皆、瞳を輝かせて花火に注目しているな。


「凄い……」

「きれいね……」

「感動しますわ」

「美しいな……」

「シャル……ドキドキする」

「夢でも見ているみたい」


 それから花火大会が終わるまで、彼女達はずっと集中して花火を見ていた。

 皆、感動してくれたようだ。まぁ俺からしたら毎年見ているから見慣れた景色だけど、皆は初めて見るからな。


 連れてきて良かったよ。



 花火が終わった後は、転移魔法で俺の部屋へ戻り異世界へ帰った。

 浴衣姿のまま食堂でケーキを囲い、皆でフォンに恒例の誕生日ソングを歌う。ケーキを食べて締めは俺からのプレゼント。


「ゴロウ、ありがとう!アッチ凄く嬉しい!にひひひひっ!」


 俺はフォンの屈託のない笑顔に癒されるのであった。

 最後に外に出て皆で線香花火をやった。皆ワイワイ楽しそうで賑やかだ。


 フォンの誕生日は8月10日、毎年花火がセットになりそうだな。



 フォン・マショリカは丁度3年前、7歳になったばかりの頃、両親の借金で家族諸共奴隷に落ちた。


 その際、家族は生き別れになる。フォンには弟がいたが幼いころ病死していて他に兄弟はいない。


 奴隷に落ちた父親は1年前、建築現場で過労死ししている。

 母親は別の男奴隷と番になり、最近第3子を出産した。現在グラントランド王国の端の荘園で新しい家族と共に名家に仕え農業奴隷をしている。


 以前俺はそのことをフォンに話した。

 記憶魔石で母親の様子も見せた。

 それで母親会いに行くかとフォンに聞いたら、新しい家族と楽しそうに過ごす母親を見て遠慮したのか、今は会わないと断られた。


 挫けそうな現状を知っても心底明るいフォンが塞ぎ込むことはなかった。


 彼女は将来自分が生産した畜産品を母親に食べてもらいたいそうだ。まぁ10歳の考えることだ、数年後にはまた違う目標ができると思う。


 寝る時間になって。


「10歳になっても俺の上で寝る?」


「うん!アッチ、ゴロウと一緒じゃないと眠れない!」


「はははは、じゃ一緒に寝よ」


「うん!にひひひっ」


 この子が将来どうなるのかはわからないけど5年後も10年後も同じように笑っていられるようにしないとな。


 俺の寿命は永い。アウダムは3000年くらい生きてる。


 フォンの寿命は精々80年くらいだろうか。彼女と過ごす時間なんて俺の永い物語の一行に過ぎないのかもしれない。けれど一人の女の子の人生を預かってるんだ。だから大切にしたい。


 俺の上で親指をしゃぶりながら眠るフォンの頭を撫でながら、俺はそんなことを思うのであった。





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勇者パーティーの賢者、女奴隷を買って無人島でスローライフする 黒須 @kurosuXXX

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