第67話 奴隷に魔法を教える②




 数日後――。


 黒チョーカーの魔石に魔力を自由に出し入れできるようになったラウラを連れて俺はダンジョンに転移した。


 このダンジョンは深い地底にある。それなのに天井が見えないほど高く、広大な空間の面積は日本の四国くらいある。強い光を放つ魔石が至る所に埋まっていて昼間のように明るい。僅かだが植物も生えている。

 このダンジョンにはこのような広大な空間がいくつもある。


「ここは……?」


「南極大陸地下ダンジョン、アストロイカ。世界一魔素が濃いダンジョンだから、ここにいるだけでお前の体内魔石は拡張される。ラウラの午前授業は今日からここでやる」


 魔素の濃いダンジョンの中では永い年をかけて水晶が回廊魔石や記憶魔石に変化する。人間の魔石もそこにいるだけで成長する。


「あっ!あれってゴロウズ?」


「ああ、そうだよ」


 俺達の周りにゴロウズが2体出現した。

 ホワイトメタリックカラーとブルーメタリックカラーのゴロウズで頭の魔石もボディーカラーと同じ色。形は通常のゴロウズとは異なり流麗なボディである。


「彼らはゴロウズ参式、白い方が〈白夜〉、青いのが〈紫電〉だ。戦闘特化型でボディや魔石はSSS級モンスターの素材でできている。普段はここで魔石の調査やレアモンスター狩りをしていて、今後はどちらか一体がラウラに付くから」


「うん!わかった♪」


「早速始めるか」


 ゴロウズ参式の紹介も終わり俺は魔法の授業を開始する。


 ラウラは魔法を使ったことがない。詠唱も何一つ知らない。

 だが、それが良い。彼女に教えるのは無詠唱魔法。下手に詠唱で魔法を使えると癖が抜けなくて逆に時間がかかってしまう


「いいか、魔力を魔石に流し込む感覚と同じで魔法構築のプロセスも感覚で覚えるんだ。先ずは基本系統の火、水、風、土を教える。それじゃ、やってみるから肩に手を乗せるぞ」


 肩に手を置きラウラの魔力を操作する。

 そして彼女の魔力で第一位階魔法、ウォーターボールを放った。彼女の胸の前から飛び出した水球がダンジョンのクリスタルにぶつかってバシャっと四散する。


「ウソっ!凄い……!ボク、魔法を使えたの……!?」


「ああ、お前の魔力で魔法を放ったから、そういうことになるな。今の感覚を覚えるんだ。次はゆくっるりやるぞ」


 再びラウラの魔力を操作して彼女の胸の前にゆっくり水球を作っていく。


「魔法は通常3つのプロセスで成り立っている。第一に魔力の変換、物質の生成、具現化。自分の魔力が水に変化していってるのがわかるか?」


「……うん」


 俺は操作を止める。すると彼女の胸の前で浮いていた水球が地面に落ちた。


「魔力を水に変換している間、生成している水は魔力の疑似体で重さがないから宙に浮く。生成を止めると完全な水に変化して、こんな感じで下に落ちる」


「……」


 ラウラは真剣な顔で話しを聞きながら自分の魔力を感じ取っている。


「今のを何度か繰り返すから、自分でできそうになったら言ってくれ」


 30回くらいゆっくり繰り返せばコツを掴むだろう。

 俺は再びラウラの魔力を操作して滅茶苦茶ゆっくり水球を作り、できたら操作を止めた。

 すると――。


「ゴロウ、ボクがやってみてもいい?」


「もうできるのか?いくら何でも早すぎるだろう?」


「たぶんできる」


 そう言うとラウラは水球を作り始めた。


「できた!」


 マジかよ……。うちの子は天才揃いだな。どうなってるんだ……!?


「第一段階が一番難しいんだが……凄いな。よし、どんどん教えていくからな。第二段階は物質の固定化。大きさ、強度、温度等を定める。第三段階は狙いを定めて射出。これら全てを魔力で操作する」


 それから俺は同じ要領で魔法を教えた。

 すると僅かな時間で、ラウラはゆっくりではあるがウォーターボールを撃てるようなった。

 マジでこの子どうなってるの?日本からの転生者とかじゃないよな?



「ラウラ、魔法使いの弱点は魔法発動までの時間なんだ。それがあるから魔法使いは接近戦で剣士に勝てない。というのがこの世界の常識だ。この弱点を克服することにこれから全ての時間を使う」


「早く撃てるようにするってこと?」


「その通り。最初は雑でもいい。とにかく早く撃てるように何度も練習する。ウォーターボールを100回撃ったことがある奴と100万回撃ったことがある奴では圧倒的な差がでる。いいか見てろよ」


 俺がラウラの肩に手を置いたと同時にウォーターボールが飛び出した。


「……っ!!す、凄い。ゴロウが何をしたのか全然わからなかった……」


「瞬きと同じ速さで撃てるようになったら合格だ。他の属性の第一位階魔法も教えるから魔力が切れるまで何度も何度も打ち続けてるんだ。俺もそうやって身に着けた」


「うん!わかった!」


 それができるようになったら第二位階、第三位階と教えて同じことを繰り返す。

 魔法使いとして強くなるには、地味だけど同じ練習を繰り返す他ない。


「ああ、それと後で詠唱一覧をあげるから暗記しておくといい」


「詠唱でも魔法を使えるようになった方がいいの?」


「いや、詠唱で魔法を発動させてはだめだ。規模や速度を調節できなくなるからな。将来、冒険者になるなら人と戦うことも多くなる。相手は詠唱しているお前を見て油断するんだ。だからいつか役に立つ」





 ひたすら反復練習をしているとそいつは現れた。


「うそ……だろ!?」


「どうしたの?ゴロウ?」


 そのうち来るとは思っていたけど……早速かよ。引きこもりで滅多に出てこないくせに。


 俺達の遥か上空から巨大な白い龍が降ってくる。

 長さや太さは東京スカイツリーの倍はあり、とにかくでかい。


 そして、俺の頭に声が響く。


【どういう、こと?……ゴロウ】


 一応ここは彼女の住処でもある。

 星の番人、白龍人ガイアベルテ。


【これから毎日アストロイカでこの淫魔族の少女に魔法を教える】


【ここに……じんるい、くる……ありえない】


 いちおう俺も人類なんだが……!

 因みにここアストロイカは前人未到の地で俺とアウダム以外入ったことがない。ラウラが三人目になるわけだな。


【その、こども……ころす】


 巨大な白龍が俺達を威嚇するように頭上を舞い、怯えたラウラは俺の脇腹に抱き着いた。

 スカイツリーが蛇のようにうねりながら空を飛んでいるわけで、奴が俺達の頭上、地上スレスレを通ると物凄い風が吹き荒れている。

 滅茶苦茶でかいから迫力が凄いな。


【ガイアベルテ、お前がそういう態度なら、俺がお前を殺すよ?】


【【 え? 】】


 俺の発言にラウラは驚き、ガイアベルテは動揺する。


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