第66話 奴隷に魔法を教える①


 皆の授業が始まった初日、俺本体はラウラについた。


「相変わらず目の痛みや頭痛はあるか?」


「うん……ゴロウに魔力を吸収してもらうと楽になるけど、暫くするとまた痛くなるんだ」


 この子は魔力量も多いが、魔力の回復スピードも桁違いに早いんだよな。

 精霊の瞳、未来を見る力〈天空眼〉の影響だろう。


「先ずはその問題を解決しよう」


 俺がそう言うとラウラは真剣な顔で頷く。


「ラウラ、体内に魔核や魔石を待つ生物を魔物といい、持たない生物を動物というわけだが、人間はどっちだと思う?」


「魔物かな?」


「正解。人の体内には魔石がある。石が入っている場合もあるし、粉になって肉体や血液に溶け込んでいる場合もある。魔石とは魔力を収納する入れ物だ。中に入っている魔力を取り出して魔法を使う。ゴロウズも同じ仕組みだな。頭の魔石に溜め込んだ魔力で動いる」


 ラウラは常に全身から魔力が溢れている。

 特に目と頭の周りの魔力は禍々しい程濃い。


「お前の場合、魔力量に対して魔石の容量が小さいから魔力が溢れ出てしまう」


 それでもラウラの魔石は一般人と比べて容量は大きい。彼女の魔力量が多すぎるのだ。

 わかりやすく例えると、FカップのおっぱいがAカップのブラを着けている状態。


「溢れる魔力を収納する方法は三つある」


「三つも?」


「ああ、魔石の交換、追加、拡張だ。交換は体内の魔石を容量の大きいものに交換する。ただ副作用で人格が変わったり魔石が体に合わなくて体調不良を起す場合があるからこの方法は採用しない。手っ取り早いのは追加だ」


 俺は異次元倉庫から大豆サイズの紫色の魔石を取り出した。


「体内で作り出される魔力上限は決まっている。お前の場合、魔力上限が魔核容量を超えいることが問題だから、別の魔石に余った魔力を溜めれば解決する。こいつだ」


 ラウラに紫色の魔石を見せた。


「この魔石を肌身放さず所持して余剰魔力を出し入れするんだ。ラウラ、手を出せ」


 外付けHDDみたいなものだな。

 俺はラウラの手に大豆サイズの魔石を乗せた。彼女は魔石を指で摘まんで中を覗き込む。


「凄く綺麗……」


 彼女の魔力量は多すぎてアイアンアントの魔石では納まり切らない。仮に納まったとしてもゴロウズの頭を常に持ち歩くことになるから不便だ。

 小さくて容量の大きい小型ドラゴン種の魔石でも拳くらいの大きさはある。肌身放さず所持するには大きいだろう。


「その魔石は俺が所持している物の中で一番性能が高い。そのサイズでお前の全魔力を収納できる」


 魔王の魔石なんだよね……それ。

 まぁいいか。


「訓練で体内魔石は拡張できるから、それまでその魔石を使うといい」


 十分な魔核拡張には最低でも5年はかかる。それまでは使わせてやる。


「どうやって魔力を入れるの?」


「その前に、常に肌に接触するよう装備しなければならないから……。ラウラは指輪と首輪ならどっちがいい?」


「うーん……、指輪はどこかにぶつけて壊しちゃいそうだから首輪かな」


「オッケ!ちょっと待ってろよ」


 俺は異次元層から幅15ミリ程の黒い革ベルトとシルバー金属、それと工具を取り出す。


 土魔法でテーブルと椅子を即席で作って、加工作業を始める。するとラウラが隣に座って興味深そうに覗き込んでくる。


「自分で作っちゃうんだ。凄いね」


「何でも自分で作るようにしてるからな」


「ふーん。でも、この前連れて行ってくれた異世界のお店には何でも売っていたよね。わざわざ作らなくても買えばいいんじゃないの?」


 俺は作業を続けながらラウラに答える。


「あそこは別の世界線って話は前にしたけど、世界線ってのは無数にあって、しかも物凄い速さで距離が離れていっている」


「何か問題があるの?」


「いつか急にあっちに行けなくなるんだよ」


「そ、そうなんだ……」


「ああ、それに転移魔方陣の魔力を一度切ってしまえば二度と向こうの世界には行けない。一年間試行錯誤して奇跡的に転移できたけど、もう同じ奇跡は起きないよ」


「行けなくなったら……困るよね?」


「そうだな。だから行き来できるうちに向こうの技術をできるだけ取り入れている」



 そんな話をしながら30分くらい作業して銀細工に魔石を嵌め込んだチョーカーが完成した。

 腕時計みたいなデザインで時計部分が魔石になっている作り。


「よし、できたぞ。デザインはこんな感じでいいか?」


「うん!凄くかっこいい!ゴロウって器用だね♪」


「アイテム名は……Fカップブラだ!なんちゃって」


「ん?ボクの胸はAカップだよ?」


 キョトン顔で首を傾げるラウラに俺は「おほん」と咳払いする。


「じゃぁ背中向て髪を上げて。着けてあげる」


「うん♪」


 ラウラは桜色の髪を両手で束ねて持ち上げると俺にうなじを見せた。

 細い首にコピー用紙ような真っ白肌。そこに黒いチョーカーを着ける。


「どう、かな?」


「うん、可愛いぞ。似合ってる」


「いつも褒める……」


「俺は褒めて伸ばすタイプだからな」


「それって本当は可愛くないってこと?」


「いや、本当に可愛いな。マジで可愛い。超可愛い」


「そ……そうなんだ……えへへへ」


 頬を掻いてはにかむラウラ。

 冗談ぽく褒めてるが、実際に前世の俺がラウラフィギュアを店頭で見かけたら秒で買うくらいマジで芸術的に可愛いんだよな。老若男女、妖精を可愛いと思うのと同じでそういう美しさがある。


「じゃ早速魔力を溜めてみよう。ラウラ、目を閉じて集中して自分の魔力を感じるんだ」


「うん……」


 隣で椅子に座るラウラの背中に俺は手を当てる。


 俺は人の魔力に干渉して、相手の魔力を操作できる。

 普段ゴロウズに魔力を充填する感覚でラウラの首の魔石に彼女の魔力を流し込んでいく。


「自分の魔力が魔石に流れ込んでいる感覚がわかるか?」


「……うん」


「一度止めるから、自分でやってみろ」


「うん!やってみる!」


 俺は魔力操作を止めて、ラウラの魔力の流れを観察する。

 するとゆっくりではあるが魔石に魔力が流れている。目を閉じたラウラは真剣な顔で物凄く集中している。


「その調子だ。このまま続けて」


 一時間くらい続けてラウラは余剰魔力を全て魔石に納めた。


 これで、目の痛みや頭痛に悩まされることはないだろう。






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