第58話 奴隷と手を繋いで歩く(恋人繋ぎ)



 朝食、いつも皆が揃ったところで「いただきます」を言うのだが今日は俺が音頭をとって――。


「せーのっ!」


「「「「「 ウィスタシア、お誕生日おめでとう!! 」」」」」


 パチパチパチパチパチパチパチパチ!


 皆、ウィスタシアに向かって笑顔で拍手する。

 前日にウィスタシアに内緒で皆に根回しして段取っておいた。


 ウィスタシアは突然のことで驚いた顔をした後、気恥ずかしそうに微笑む。


「あ、ありがとう……」


「ゴロウ、誕生日ってなあに?」


 フォンに聞かれた。


「生まれた日のことだよ。この前教えただろう。フォンの誕生日は8月10日だからその日になったらフォンもお祝いしような」


「うん!アッチもおめでとうって言われたい!にひひひっ!」

「ウィスタシアいいなぁー。ニャーも言われたい」

「ココノんも言われたいの!」

「私はどちらでもいいけど、誕生日って習慣ないから変な感じするわ」

「某もゴロウ殿に日付と年号を習うまでは意識したことがありませんでした。某も誕生日に言われるのでしょうか……?」


「皆、言うからな」


 女の子は全部で12人。全員誕生日はこれをやろうと思う。

 この世界は日付が曖昧で誕生日を祝う習慣がない。けど、こういうイベントがあった方が皆楽しめるだろう。



 朝食の後は二人で出掛ける。

 皆は通常通りで午後の授業はゴロウズに任せてある。


 俺はウィスタシアを連れて転移魔法を発動させた。


 訪れたのはルードラン王国の首都ピュラミタ。


 ここは元の世界で例えるならトルコのイスタンブールような街だ。大きな国々に挟まれ街道と海路が交差していて商業で発展している。

 1万年前から人が住んでいて、街中に数千年前の遺跡がたくさん残っている。


 今日はウィスタシアのリクエストでAV鑑賞するわけだが、上映までまだ時間がある。


 故にここで遺跡巡り観光をしながら時間を潰すことにした。

 俺も初めてくる街で、前々から一度訪れてみたいと思っていた。



 あどけない顔で隣りを歩くウィスタシアは、今日はお嬢様っぽい清楚なスカートを穿いて、黒いベレー帽を被っている。


 全て日本のネット通販で買った服で俺好みの格好をさせてみた。

 何を着ても似合うが、正直可愛い。……いや、滅茶苦茶可愛い。


 これで彼女に人並みの恥じらいがあれば俺は間違いなく恋をしていたと思う。



 俺達はコロッセオやコンスタンティン凱旋門のような遺跡を見て回った。

 観光地化されているわけではないから、遺跡の周りはごちゃごちゃと露店で賑わっている。


「ゴロウ、感動したよ。世界には色々な所があるのだな」


「俺も歴史的な建造物が見れてテンション上がる」


「ふふっ、ずっと世界史を楽しそうに語っいたよね」


「すまんな、俺の趣味に付き合わせて」


 何気に歴史好きだから聖地に来ると楽しくなってしまう。


「いや、いいさ。私も楽しいぞ。それより人が多いな……ゴロウ、遠くに行かないでくれよ。私は背が低いから見失ってしまう」


 もし見失っても探知魔法で直ぐに探せるけど、こういう場合は……。


「よかったら手、繋ぐ?」


「う……うん」


 俺達は恋人繋ぎで手を繋いだ。ウィスタシアの手の感触と温もりが伝わってくる。


 そうして暫く見て回っていると。


「つけられてるな……」


 さっきから俺達をつけている奴がいる。後ろに二人、横に一人。

 面倒くさいから転移魔法で飛ぼうと思ったら、行く先に強面の男達が立っていて声を掛けてきた。


「兄ちゃん見ない顔だな。その女と金目の物いただくぞ」


 俺達を付けていた男三人も合流して囲まれてしまった。

 何人かナイフをチラつかせている。


「おい!この女、すげーいい女だぞ!」

「ひひひ、こりゃ凄い。こんな美人見たことねー!高く売れるな」

「なぁ、売る前に楽しもうぜ」


「おい、兄ちゃん聞いてんのか?早く金出せよ!グズグズすんな!この、のろま!」

「こいつビビッて声出ないんすよ」

「クソガキが、どこかの商人の息子だろう。取り敢えず片腕落として金になる情報聞き出そうぜ」


 ウィスタシアが俺の耳元で囁く。


「どうする?戦うか?」


 ウィスタシアは強い。俺の領地で授業を開始する前に魔法の模擬戦をやったのだが、第三位階魔法を5種類使っていた。しかも無詠唱で。

 彼女なら余裕でどこかの王国の宮廷魔法使いになれる。

 それに身体能力も高くてこいつ等程度なら殴って制圧することもできるだろう。


 この世界は貧しい者が多くて、とにかく治安が悪い。

 こんな奴らがそこらじゅうにいるから、今の状況は別に珍しい事ではない。


 俺は「はぁー」と溜息を吐く。


「やめておこう。俺に考えがある」


 俺はウィスタシアにそう答えた。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る