第59話 奴隷と魅了スキル
原初の魔王アウダムには様々な固有スキルがある。
彼の指から赤子に進化した俺に、始めはそれらのスキルはなかった。しかし、人やモンスターを殺すことで肉体が存在進化して自然と彼が持っていたスキルを習得していった。
俺は命を奪うことで、相手の魂、つまり魔力の根源を吸収して強くなる。
現在、所有するスキルは種類が多すぎて使ったことがないものばかりだ。
相手の急所に必中させる物騒なスキルや、なかには女の〈感度上昇〉〈強制排卵〉など、こんなのいつ使うんだよってスキルもある。
まぁ、この世界では全ての人間のDNAを辿ればアウダムに行き着くわけで、全人類の父である彼らしいスキルではあるが。
この前、農作業中にシャルロットに俺のスキルを聞かれ、話して問題ないスキルだけ答えた。
因みにヴァンパイア族には〈吸血〉というスキルがある。
今から俺が使うのは〈魅了〉というスキルだ。
これは相手に好かれる特殊な魔力を纏うスキル。一度も使ったことはないが、目の前にいる賊共に気に入られれば、ほっといてくれるだろう。
こんな弱そうな奴等を殴ったら弱い者虐めになってしまう。
で、スキル〈魅了〉を発動させた。
すると、俺のことなんてどうでも良さそうにしていた賊達が一斉に俺に刮目する。
そして、彼等が俺に言ってくる。
「お前よく見たら可愛いな……。こっちの男の方が高く売れるんじゃないか?」
「バ、バカ野郎!売ったりしたら可哀想だろう!」
「ああ、こいつがひどい目に遭うかもしれないぞ。それはダメだ!」
「おいら……男が好きなのかも」
「はぁ?気持ちわりーな……けど俺も……」
賊の年齢は10代から30代、雑巾のようなぼろい服を着て焼けた筋肉質な肌を露出させてる。
そんな強面の賊共が俺を恋する少女の眼差しで見つめてくる。思ってたのとちょっと違うけど好感は持たれたようだ。
「じゃぁ俺達、行きますのでそれでは」
ウィスタシアの手を引いて立ち去ろうとするとリーダー格の大男が俺達の進路を塞いだ。
「ちょ待てよ!男の方は可愛がってやる(意味深)俺と来い!」
ボフッ!(腹パン)
「ぐはっ!」
目付きが気持ち悪すぎて殴ってしまった。
大男は殴られた腹を抑えて地面に倒れる。
「乱暴な男の子も嫌いじゃないZE」
そう言い残して気絶した。
「ぎゃはははははっ。フラれてやんのw。リーダーは強引なんだよ!」
他の賊がそう言いながら俺の前に来て、握手を求めて片手を差し出し俺に深々と頭を下げる。
「お、おいらと付き合ってください!」
ボフッ!(腹パン)
「ぐはっ!」
握手の代わりに腹パンしてやると同様に腹を抑え倒れて気絶した。
その後も……
「お前可愛いな!」ボフッ!(腹パン)
「天国に連れて行ってやるよ」ボフッ!(腹パン)
「パンツの色教えてくれないk」ボフッ!(腹パン)
「あの……その……やらせて」ボフッ!(腹パン)
賊共がどんどん言い寄ってくるから、俺は次々に腹パンしていった。
賊の仲間には若い女もいて、そいつが俺の顎に指を添える。
「坊や可愛いね。あたいといいことしようよ♡」ボフッ!(腹パン)
結局全員殴って気絶せてしまった……!!
このスキル使った意味あるのか!?と思っていたらウィスタシアが俺の胸に抱き着いてきて。
「ゴロウぅ~、他の女に触られたぁ~」
なんか様子がおかしいぞ!
「いやらぁ~、ゴロウきらぁい!」
嫌いと言いながら俺の胸に顔を埋めて、強く抱き締めてくる……!
な、なんだこの状況!?これもスキル〈魅了〉の効果なのか!?
更に周囲に集まった野次馬をよく見ると皆俺に注目していて瞳孔がハートマーク!
「俺、あいつを見てるとドキドキする」
「かっこいいわぁ〜。たべちゃいたい♡」
「素敵なお方……これって初恋かしら?」
「ぐへへへ、一発やりてーな」
「私……一目で好きになっちゃった♡」
全員俺を見る目がこわすぎる!!
貞操の危険を感じた俺はウィスタシアを連れて路地裏に転移した。
スキル〈魅了〉も解除する。
「ウィスタシア……もう大丈夫だぞ」
「……いや」
彼女の両肩に手を置いて引き放そうとするが、暫く離れてくれなかった。
と、取り敢えずこのスキルは封印しよう……。危険すぎる!
◇
それから俺達は露店でお土産を見て回った。
ウィスタシアがミサンガのような民族衣装っぽいブレスレットを手に取っている。
「気に入ったのか?」
「……ああ、これを買うよ」
「せっかくだし俺もお揃いの買おうかな」
俺も同じ商品を手に取って彼女に見せて笑う。
すると――。
「では、私は別のにする!」
と商品を棚に戻して「ふん」と俺に背を向けてしまった。
え?機嫌悪い?怒らせた?
思い当たる節がない……。
「ウィスタシア……?」
俺が不安気に彼女を見ていると、ウィスタシアは鋭い視線で俺を睨む。
「お前、さっき女に言い寄られて、何を考えていた?」
ああ、あの賊の女か……。別に何も考えてなかったけど……。
「早く、ウィスタシアと二人になりたいとしか……」
「ふ、ふーん……本当だよな?」
この後のデートプランに遅れが出ると調整が面倒だからな。
「当然だろ!ウィスタシアのことしか考えてないよ!」
そう言うと彼女の顔がみるみる赤く染まっていく。
「そ、そうか……」
相変わらず拗ねた顔だが、彼女は棚に戻したミサンガを再び手に取る。
今俺が手に持っている物と同じ品だ。
そして、恥ずかしそうに言う。
「やっぱり……、私もこれにする」
「じゃこれを買おう」
「うんっ♪」
自分達のお土産にお揃いのブレスレット買った。支払いが終わるとウィスタシアの機嫌がなおり、俺の手を恋人繋ぎで握って楽しそうにしている。
それから俺達は転移魔法でルードラン王国首都ピュラミタをあとにした。
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