第31話 奴隷の父親と今後の話をする
「父上母上、それは――」
「ウィスタシア、俺が説明するよ」
口で言うと時間が掛かる。農業のことも伝えないといけないし。というかこの人達に反対されたら計画は頓挫するんだよね。
「失礼します――。第六位階精神魔法、
俺の指先から飛んだ白い三つの魔力玉が父アルベルト、母ヨハンナ、それとウィスタシアの頭に吸い込まれた。
「これで説明は終わり」
「凄い……」
「これは……そう言うことか」
「あら、まあ」
これは俺の記憶を相手に共有できる魔法。逆に相手の記憶を抜き取ることもできる。
共有する記憶はこちらで任意に設定できる。
「ふむ、どうして断ったのかな……?2億でうちの可愛いウィスタが買えるのに……」
最初、奴隷商会で彼女に出会った時の話か。予算オーバーだからって断ったんだよな。
「奴隷を2億で買うとかあり得ないと思いまして……」
「2億だろうが、200億だろうが普通買うよね?ねぇ、買うよね、ゴロウ君?え?」
買わねーよ!
あれ、目がバッキバキにガンギマリしている。
「は、はい……ごもっともです……失態でした」
こういうタイプは言い返すと面倒くさいことになるからな。
「そうか、君、異世界人なのか。まぁそれはどうでもいいか。よくわからないしね。それで、ふむ、農業計画は興味深いね。でも気になるのは……。ゴロウ君、どうしてウィスタシアの姿がボヤケてるのかな?」
ベッドで話していた時だな。視界にチラチラ胸が写っていたからモザイク処理した。モザイクしていなかったらこの人とこれから生死をかけて戦うことになっていたと思う。
「ま、まぁ細かい話はいいじゃないですか。俺からも聞きたいことがあるのですが、ヴァンパイア族の始祖エルナ・ヴァレンタインってどこにいるか知っていますか?」
「始祖様か……、僕も千年程前に一度会ったきりだから居場所はわからない。会ってどうするんだい?」
「月の石について聞きたかったのですが、アルベルトさんは知らないですよね?」
「月の石……知らないね」
ピンク髪の魔族少女ラウラが言っていた月の石。一万年以上生きているヴァンパイアの始祖なら何か知っていると思ったのだが。
「勇者ヴァレッタ……、あの方ってもしかして。うーん、気のせいかしらね。ヴァレンタイン様の面影があるような……」
とヨハンナが言う。
戦争の黒幕の一人、俺と同じ黒髪で金色の瞳の勇者バレッタ。色々な理由があってその可能性は否定できない。彼女も始祖同様、神眼、
「話が反れましたね。それで農業支援の件どうしますか?」
「イネ科ね……そのような品種があるなら是非お願いしたいけど、君に大きな借りができるね。何が望みなんだい?まさかうちのウィスタを寄越せって言うつもりかな?」
「いえ」
「え?言わないの?」
「はい」
「言えよッ!!断るけどね!」
面倒くさい人だな。
「では、一つお願いが。俺が面倒を見ている子供がいるのですが、将来商人になりたいと言っていまして、もしそうなったら売れる分だけで構いませんので、その子に作物を独占販売してもらえないでしょうか?」
「そんなことで良いのかい?価格は交渉になるが構わないよ」
「ありがとうございます。商人にならなかったらこの話しはなかったことにしください。では、後で契約書を作りましょう」
これで犬族のモモが将来商人になっても食い扶持はある。
この世界のカネに興味ないから商売なんて考えてなかったけど、モモが商人として自立する為にうちの商材も流してやるつもりでいた。
まぁ俺は厳しいからな。あとは失敗したら自己責任ってやつだ。
「さて、ドクバックですが、この男はかなり多くの犯罪を犯しています。天魔首脳会議で裁いて頂きたいのですが……。おい、口を開いていいぞ」
ドクバックに掛けた服従音吐を解除した。
「このクソ野郎がッ!証拠はあんのかッ!?あ゛ぁ!?」
「叶わぬなら、今この場で俺が殺します」
「ひぃいぃッ!!」
アルベルトは顎に手を当てて。
「証拠がなければ大六天魔卿は裁けない。ふむ、困ったね」
「がっははははっ!ほら見たことかッ!バーカッ!俺を
それは構わんがな。俺は5年前よりはるかに強くなっている。
ただ、こいつ一人を殺しても余り意味はない。この組織的な大規模犯罪にはドクバック領の宰相や貴族、軍隊、賊等、数千人が加担、共犯している。そいつ等も根こそぎ処罰しなければ解決しないのだ。
ゴロウズ任せて一人一人殺してもいいが面倒なんだよな。
「証拠はありますよ」
「「「え?」」」
俺は第六位階精神魔法、
物語は14年前、当時18歳だったピストン・ドクバックがグラントランド皇太子、現在の国王にそそのかされ、彼の父親である当時のドクバック卿を暗殺するところから始まる。
二人の画策で12年前、ベスタの悲劇が起きて戦争は始まった。
その後、難民の人身売買や人攫い。罪のない民間人の処刑。グラントランド王国と鉱山利権の密約。食料の独占。
自身の欲望の為に組織的に悪事を働いてきた。
「これはひどい……」
「つまり、コイツせいで戦争になったってことか」
「我らの領地でも女、子供が攫われて奴隷にされてますな」
「鉱山利益の一部を裏金で巧妙にキックバックしている。これは証拠が出ないわけだ」
「外道め、よくもこのような残酷なことができるな」
俺は驚いているアルベルトに言う。
「天魔首脳会議に俺も参加してこの情報を他の大六天魔卿に開示しますよ。それと犯罪に加担した者のリストも用意できます。そこでひれ伏している者の中にもいますね」
「天晴っ!僕からは言うことはないよ。ドクバック、何か言いたいことはあるかい?」
「終わった。俺の人生、終わった……。破滅だ。死にたくない……、死にたくない死にたくない死にたくない……」
アルベルトを無視してイッヌはブツブツと独り言を言っている。これで処刑は免れないだろう。
「ところでゴロウ君、時期魔王が決まってないようだけど、天魔首脳会議で君を魔王に推薦しても良いかい?」
「お断りします!」
「ふむ、残念だなぁ」
魔王なんて本当に勘弁してもらいたい。
◆
その後、約2年をかけて大魔帝国大六天魔卿が一丸となり、犯罪者の大規模な捕縛、処刑が行わる。
当然、主犯のドクバックも処刑されるととなる。
◆
チェックメイトだ。
あとはゴロウズ一体をここに召喚して全て任せよう。で、俺は家に帰るかな。
これでウィスタシアともお別れ。11人いた奴隷が早速10人に減った。
そう思っていたら。
「父上、母上、大切な話があります!」
と決意を秘めた真剣な表情でウィスタシアが声を上げた。
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