第30話 奴隷の家族を助けてあげた
俺はウィスタシアの元に歩み寄る。
回廊魔石を両手で握った彼女は呆然と俺を見詰めていた。
「強過ぎる……」
「ふっ、お前、俺のこと化物って言ってただろ。その通りかもな」
「あれは……ごめんなさい……。今は……と(とても頼もしいと思っている……)」
「ん?」
最後の言葉が声になっていなくて聞き取れなかった。
「いや、何でもない!……これ、ありがとうな!ふふっ」
そう言って笑顔で回廊魔石を掲げた。
全のしがらみから解放されたからか、彼女の素直であどけない笑顔はとても可愛らしかった。
「礼を言うのはまだ早いな。早くウィスタシアの家族を助けよう。それとっ!!アイツはお前の黒ドレスをバカにしていたけど俺は凄く可愛いと思うぞ!」
「なっ……そ、そんなこと今言われたら、て、照れるだろ……」
と頬を赤くする。
子供のように華奢で色白、銀髪に真紅の瞳の超絶美少女。そんな彼女が黒い服を着ると美しい顔や肢体が引き立てられて魅力的に見えるんだよな。
「すまん。じゃぁ魔力を込めてみようか」
「そ、そうだな」
回廊魔石は魔素が異常に濃いダンジョンの深層で稀に発見される珍しい魔石。
構造は単純で魔石に触れながら一定の魔力を込めると中に吸い込まれる。魔石に触れず魔力を込めると中に入っている物が出てくる。
内部は俺の異次元倉庫に似て非なるもので、感覚が失われ体も動かないが意識はあるし時間も流れる。
ウィスタシアが回廊魔石を床に置き魔力を流し込もうとすると、手足を失い地面に転がったドクバックが叫んだ。
変身は解け人の体に戻っているが切断面が凍っていて出血はしていない。
「やめろぉおおお!やめでぐれぇえええッ!大六天魔卿が命ず「黙れ」――」
第五位階精神魔法、服従音吐で黙らせた。
「続けて」
「わかった」
ウィスタシアは頷くと魔力を流し込む。回廊魔石が赤く輝き、俺達の周りに次々と人が転送され現れた。
出てきたのは総勢15名、全員銀髪で赤い瞳をしている。
「父上っ!母上っ!」
ウィスタシアは仕立ての良い服を着た20代前半かってくらい若く見える男女の元に駆け寄った。
ウィスタシアの父アルベルト・エル・ヴォグマンと、母ヨハンナ・ルラ・ヴォグマンである。彼等とは何度も戦場で戦っている。他にも見知った顔が大勢いるな。
「あれ?僕達、出られたのかい?」
「ふふっ、そのようね」
「やぁウィスタシア、元気だったかな?それで……、何故ここに底無しの魔法使いがいるんだい?」
父アルベルトは満面の笑顔で俺を睨む。全身から殺気を漏らしている。他のヴァンパイア族も既に臨戦態勢に入っているな。――面白い。
ここにいるのはヴァンパイア族の精鋭。とはいえ、こんな少数で俺とやろうってか?
「父上やめてくださいッ!皆も!回廊魔石から助けてくれたのは彼ですよ!!」
「本当かい?」
「はい!全て彼がやってくれました。だから争わないでください!」
「嫌だなぁ、戦争は終わったんだ。喧嘩なんてしないよ。それに彼と本気でやるなら一個大隊は連れてこないとね。くくくくっ」
「お久しぶりです。アルベルトさん」
「久しぶりだねゴロウ君。んん~?君ずいぶん大きくなったねぇ、くくくく。過去の遺恨はあるけど、それは置いといて――。大六天魔卿アルベルト・エル・ヴォグマンの名において礼を言うよ。回廊魔石から出してくれてありがとう♪」
彼は殺気を解くと笑顔で貴族の礼をした。すると――。
「大賢者ゴロウ・ヤマダ、俺のこと覚えてるか?今回は助けてくれてありがとうな!」
「底無し殿、お久しぶりです。また手合わせしたいものですな。ははははっ。此度は助けて頂き感謝申し上げますぞ」
「かかかか!クソボウズッ!元気でなによりだッ!回廊魔石の中は退屈だったからな。ありがとうよっ!」
「なになに~ゴロウ、相変わらず辛気臭い顔しちゃって。お姉さんまたゴロウと
ヴァンパイア族は不死。完全に細胞を消滅させない限り何度でも復活してしまう。結果、この人達とは何度も戦っていて、毎回こんな乗りなのである。
ウィスタシアも俺の横に来て、何故か俺の腕を掴んでいる。そんな感じで皆から和気あいあいとお礼を言われているとアルベルトが「おほんっ」と咳払いした。
「ところでゴロウ君、そこに転がっているドクバック卿よりも気になるんことがあるんだけどね。君、何故、僕の可愛い娘、ウィスタシアと一緒にいるんだい?」
「あなた、それ私も気になっていたわ。ふふっ、どうしてかしらね。ゴロウちゃん?」
とご両親に超笑顔で聞かれた。
あれ?さっきより殺気強くなってるよ?
奴隷買ったとか、一緒に風呂入ったとか、おっぱいのこととか……、言えないっ!!
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