第101話 奴隷の親達に娘を任せられる



 フルーゲルが消えて、オスカー達アズダール貴族の面々はおおいに揺れた。


 彼らは前王の意思を継ぎ、今まで内戦をも経験して全力で働いてきた。

 それが根底から覆ってしまった。前王を盲信し、命懸けでやってきた事は全て根拠が無いものだったのだ。


「何故だ……どうしてこうなった……」

「同胞の死は無駄だったのか?」

「あんまりだ……酷すぎる……」

「バブゥー、バブゥー」


 ショックの余り、顔面を蒼白にして項垂れる者、地面に膝をつき崩れ落ちる者、幼児化して匍匐ほふく前進する者など様々。


 そんな彼等を横目に俺はフルーゲルの魔石を回収した。


 掛ける言葉がないな。少し席を外すか。

 視線を周りに向けるとアルベルトとヨハンナが爆乳牛娘のミルクや村人達と話していた。


 一言、言っておいた方がいいよな……。

 俺とウィスタシアの関係を。

 どうせその内に二人で挨拶に行くわけだし。


 アルベルトは娘のウィスタシアを溺愛している。言い方次第では戦うことになるから気を付けないと……!


 俺はアルベルトに近付き声を掛ける。


「おい!アルベルト!」


「やぁ、ゴロウ君、久しぶりだねぇ。フルーゲル様は死んでしまったのかな?ヴォグマンと夢魔族のいくさ、なんてとこにはならないよね?」

「アナタ、ゴロウちゃんのやる事だから大丈夫よ、ふふっ。ゴロウちゃん、こんにちは♪」


 アルベルト不安気で、ヨハンナは機嫌が良さそうだ。


 いかんいかん。俺は態度を改めないと。

 昔、アルベルトとは何度も戦っている。その時の関係が抜けきれていない。

 これから、お義父さんになる人なのに!


「あの、えっと……お久しぶりです……お義父さん、へへへへ」


「お義父さんんん???」


「ヨハンナさんもお久しぶりですぅ。フルーゲルの件は大丈夫ですよ。夢魔族の事情もあるので詳しくは言えませんが、問題にはなりません」


「そうかい?それなら良いのだけど……。ところで、うちのウィスタとシャルは元気でやってるかな?」


「そりゃもう二人とも元気です。この前なんてウィスタシアに俺の血を〈吸血〉させちゃって……あっ」


「「 ……え? 」」


 ヤバいヤバい!考えが纏まってなかったからストレートに言ってしまった。

 ヴァンパイア族の文化では「娘さんが吸血した」と親に言う、イコール「娘さん孕ませたから」って言ってるのと同義なんだよなぁ……!


「おい!ゴロウ!」

「ふふっ……ゴロウちゃぁ〜ん?うふふふふ……」


 アルベルトの額に青筋が……。ヨハンナも笑ってるけど、目が笑ってないぞッ!


「んー、でもヴァンパイアではないゴロウちゃんの血を口にしても〈結血ゆうけつ〉は起きない筈よね……?」


「いやぁー、それが普通に〈結血〉してましたよ。はははは……」


 〈結血〉とは、女性ヴァンパイアが初めて男性ヴァンパイアの血を吸うと、その男性ヴァンパイアの子供しか産めない体になってしまうという現象である。


「君、ヴァンパイアなの?詳しく聞かせてくれないかい?ゴロウ君?」

「詳しく話して頂戴?ゴロウちゃん?」


「実は俺の体は……」


 それから二人に俺の肉体のことを説明した。

 因みに日本の近代的な農法や農機具をヴォグマン領に導入しているから俺が異世界転生者であることは二人は知っている。


「最初の人類、原初の魔王アウダムか……」

「アナタほらっ、始祖のエルナ・ヴァレンタイン様のお父様はアウダム様なのよ」

「ああ、そうだったね……御伽噺だと思っていたよ。ただ、そんなことはどうだっていいんだ。ウィスタシアはまだ子供だというのに……、やってくれたね?ゴロウ君?……僕は反対してるって言ってたよね?こうなったらセブンランドに乗り込んでウィスタとシャルを連れ戻す!」


 やはり反対か……。俺もウィスタシアは絶対に譲れない。

 こうなったらアルベルトを殺すしかないな。


「アナタ!ウィスタの気持ちを一番に考えましょうよ。私達の時もそうだったでしょう?」


「ヨハンナ……くっ……、ゴロウ君、君はウィスタシアをどう思っているんだい?」


 エロいと思ってるけど、そう言うことじゃないよな。


「ウィスタシアは……、彼女は自分が信じたものを絶対に疑わない純粋で芯の強い女です。故に盲信的で危うところや相手に依存してしまう面もあります……。ですが、そんな彼女が俺を信じてくれているから、それを裏切りたくない。彼女が信じる幸せを叶えてやりたい」


 俺の答えを聞いたヨハンナの顔は明るくなり、アルベルトは更にイライラする。


「まぁ、素敵♪」

「君ね。夫婦とは互いの協力で幸せになるものだよ。君一人、頑張ってもダメなのさ。それより何だいその言い方?つまりウィスタは、君にベタ惚ってことかな?催眠魔法でも使ったのかい?ええ?」


「使うわけないでしょ!」

 むしろ、初めに奴隷紋を解除したわ!


「ゴロウちゃん、ウィスタは昔から素直でお父様や私達の言うことには絶対に逆らわない子だったのよ。ゴロウちゃんの言うように私達を盲目的に信じていたわ。だから裏切られたときに壊れてしまうのではないかと少し心配していたのだけど、ゴロウちゃんなら、そんなあの子を幸せにできるわよね?」


「全力を尽くします。ただ、ウィスタシアはそんなやわな女ではないですよ?」


 前世も含めて初めてできた嫁候補だからね。

 好きになってもらえるように努力しよう。


「ちっ」アルベルト

「ゴロウちゃん、今度ウィスタを連れてきて。それとシャルもね」

「ふん、そこまで言うなら君にウィスタを任せるよ。でも娘を悲しませたら許さないからね?」


「はい!わかりました!」


 なし崩し的ではあるが、あのアルベルトに任された。争わずに済みそうだな。


 するとアルベルトが何かを思い出したかのように口を開いた。


「そうそう、30日後、ドクバック領で天魔首脳会議を開くことになった。君にも証人として出席してもらいたいのだけど構わないよね?」


 大六天魔卿全員が集う会議で大魔帝国の方針が決められる場だ。

 以前から日程を調整していたようだけど決まったのか……。雪が降るから来年の春になると思っていたけど、ずいぶん早いな。


「わかりました。俺が転移魔法でお義父さんを送りますよ」


「まだお義父さんじゃないからねッ!?」


 するとベアトリクスとオスカーが俺の所にやって来た。

 オスカーがヴァンパイアの王に頭を下げる。


「アルベルト様、お話の途中失礼いたします。ゴロウ様を少し宜しいでしょうか?」


「ん?ああ、構わないよ。顔を見ているとイライラするからね。僕達は席を外すよ」

「ゴロウちゃん、またお話しましょうね♪」


「恐れ入ります」


 で、今度はオスカー、ベアトリクスと話すことになった。


 オスカー曰く。

 貴族達は失望感から立ち直れず、まだ考えはまだ纏まっていないが、アズダール王国の国民、領土、文化、主権を守りたいという志は皆、共通している。一度持ち帰って今後の方針をじっくり考えたいそうだ。

 グラントランド王国との縁談については、行方不明のアストレナの代わりにアズダール貴族の娘をコピッグ第二王子に嫁がせることになっていたが、令嬢が決まっていない為、婚約が進んでいない状況。


 取り敢えず、数か月後にアストレナ帰還を祝う夜会を開きたいと言っていた。

 グラントランド王国の貴族も参加するから、お尋ね者の俺は顔を出せない。つか、オスカー達の背後に俺がいると知られるのは良くない。俺の存在はここだけの秘密である。


 夜会はアストレナが暗殺される可能性がある。

 それまでに銃の扱いをヒルデビアに叩きこむ必要があるな。

 ココノと一緒にゴロウズラボへ通うヒルデビアは、最近完成した紡績機や自動織り機で衣類や布団を試作する研究にも携わっている。彼女が一番忙しくなりそうだ。


 それとベアトリクスから、国内情勢は未だ不安定で王族は狙われる故、アストレナ達三人を暫く預かって欲しいと言われた。

 三人の治療や今迄保護した分も合わせてお礼をすると言われたが、丁重に断った。元々、成人するまでうちで保護するつもりだったしね。


 今後はオスカーに渡した魔石を通して俺に連絡が来る。

 ということで、解散になった。





 セブンランドへ帰り、皆で夕飯を食べる。


 カワハギの刺身と煮付が出た。ココノがたくさん釣ったようだ。

 肝醤油で食べると……、美味い!白米が進むなぁ。


 ラウラとウィスタシアは今日の戦闘を楽しそうに語る。二人には良い刺激になったようだ。

 ヒオリは元気がないな。いつも米五杯は食べるのに今夜は一度もお替わりをしなかった。ゼスタに負けたことを気にしてるのか……。






 食事の後、風呂に向かう途中でアストレナ達三人に引き止められる。


「ゴロウ様!本日ゴロウ様が話していたことなのですが……」


「ん?何の話だっけ?」


「わたくし達三人を妻に迎えたいと仰っていた件ですわ。あれは本当なのですか?」


 ああ……、オスカーに何故、女奴隷を買ったのかと聞かれて、うちの連中が希望すれば嫁にするって答えたんだよな。それでアストレナ達も嫁にしたいと……。

 俺の嫁計画を知っていたのはウィスタシアだけだったから、さぞ驚かせたことだろう。


「本当だ。ただ、あくまでもお前達三人が希望すればの話だから他にやりたいことがあれば、そっちを優先してれよ」


「アズダールが正常な国に戻った後でも良いのですか?」


「ん?ああ、全然いいよ」


 そう言うと三人は瞳に決意を宿らせる。


「わたくしは将来、必ずゴロウ様の伴侶になりますわ!」

「私も必ず。不束者ではございますが、宜しくお願い致します」

「わわわわたしも!ご、ゴロウ様と結婚したいですぅ~!」


 アストレナは11歳、ヒルデビアとレモニカは13歳。

 三人が俺に好意を持っている話は昨日聞いた。ただ、子供の言う事だから話し半分に聞いておかないとな。


「承知した!てか、三人で俺の嫁なって喧嘩とかしないの?」


「わたくしはヒルデやレモニカとずっと一緒にいられて、しかも一緒にゴロウ様の妻にしていただけるのでしたら、とても幸せですわ!」

「私も同じ考えでございます!」

「みみみ皆で一緒にいられるなら、幸せですぅ!」


「えへへへ」

「ふっ」

「あはっ」


 三人とも笑い合っている。同じ気持ちで嬉しかったのかな?

 ここは異世界、日本とは全く違う文化だ。

 日本の常識では考えられないことがこっちでは当たり前だったりする。まぁ三人が楽しいならいいか……。



 それから数日後、オスカー、ベアトリクス、ドレナード伯爵から連絡が入った。

 

 俺の借金返済案にアズダール王国の全てを賭けるそうだ。


 そして当然、グラントランドとの婚約は反対。


 全てがうまくいったらアストレナ、ヒルデビア、レモニカを嫁に貰って欲しいと言われた。

 その時になって三人が結婚を希望すれば俺は喜んで貰い受けると答えた。









  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る