第85話 奴隷になった経緯を聞く


 午後、俺は旅館二階の空き部屋からグラウンドを眺める。


 グラウンドではヒオリとラウラがガイアベルテ相手に技や魔法の練習をしている。ガイアベルテは抜けている感じだけどクソ強い。マジで強い。奴に傷を付けられる生物なんて先ずいないから良い練習相手になるようだ。

 グラウンドでは毎朝、奴隷達がランニングをしたりココノ達キッズが遊んだりと皆、結構利用してくれている。造ってよかった。


 ウィスタシア、ココノ、フォンは竿とリールを持って海釣りに出掛けたようだ。この時期はルアーで青物が釣れる。釣果があったら今夜は刺身にしよう。海に落ちると危ないのでゴロウズを同伴させた。


 タマとシャルロットは音楽室で二人が最近嵌っているピアノを弾いているようだ。ティアニーとモモは教室で学習か……真面目だな。



 俺は現在、目の前に座るアズダールの三人から彼女達が奴隷になった経緯を聞いていた。


 以前ウィスタシアとココノ件で星の歴史を見ていたから彼女達に何が起きたのか俺は全て知っている。そして今、三人から聞かされている内容に嘘偽りはないようだ。


 簡単に纏めると、アズダール王国はグラントランド王国に元々借金があり、先の大戦で敗戦国、大魔帝国から入った賠償金を差引いてもアズダールの借金は更に膨れ上がった。


 そこでアズダールの国王は家臣が猛反発する中、アズダールの第一王女とグラントランドの第二王子を結婚させ、この第二王子を次期国王にしてアズダールの利権をグラントランドに売り渡そうとした。


 国王、とんでもない売国奴だなぁー。と思いきや、この話には裏がある。

 俺以外は気付いていないようだがアズダールの国王は第五位階精神魔法、服従音吐ふくじゅうおんとで精神支配されていた。


 第四位階以上の魔法を使ったとなると5000年以上前の神代から生きている者が国王を洗脳した犯人となる。因みに犯人も特定済みだ。


「陛下は結婚に反対する保守派貴族の謀反で崩御しましたわ」


 暗い顔で父親の死を語るアストレナは話を続ける。


 国王が殺害されたあと、アズダールの貴族は内戦状態に入った。


 グラントランド王国に買収され、アズダールの姫をグラントランドの王子と結婚させたいリベラル勢力VS伝統を守り、アズダールの王子を次期国王にしたい保守勢力の戦いだ。勢力的には半々でアズダールで王族暗殺が相次いだ。


 リベラル勢力によってアズダールの第一王子、第二王子が暗殺される。まだ幼い第三王子は保守勢力に匿われいる。

 報復に保守勢力が奇襲攻撃してリベラル勢力が守っていた第一王女が殺害された。

 その際、保守勢力に第二、第三王女が拐われ拷問を受けた。拷問のショックで第二王女は自殺。無惨な話だ。


 第三王女のアストレナもこの時の拷問で王族とは結婚できない体にさせられた。

 奴隷紋があるこの世界で自白の為の拷問なんて存在しないから何か理由があると思っていたが、そういう事だったらしい。


 しかし、第二王女の死後、アストレナを慕っていた保守勢力の家臣が奴隷商伝手に彼女達3人を国外へ逃がし、奇跡的に命は助かった。


「話はわかった。それでアストレナはアズダールに戻ってグラントランドの第二王子と結婚しアズダールを守りたいってことだな」


「……」


 深刻な顔で黙ってしまったぞ……。


 サラサラ青髪ボブヘアのアストレナは1月17日生まれの11歳。身長は4センチ伸びて146センチになった。手足は枯れ枝のようにか細く華奢だ。この世界でもトップクラスの超絶美人なんだけど良く言えば儚げ、悪く言えば幸が薄い顔をしている。


 対して結婚相手、グラントランド王国第二王子は現在28歳、チビで120キロを超えるデブだ。この世界では珍しい醜悪な顔をしている。しかも顔の見た目通り権力を傘に毎夜色んな女と遊んでいるようだ。


 俺の質問が悪かったな。国に戻るってことは嫌でもコイツと結婚を決意してるってことだもんな。


「アストレナ、何故俺に直ぐに相談しなかった?」


「それは……、あの……えっと……」


 難しい顔が今度はリンゴみたいに真っ赤になった。どうしたんだ?


「ひひひヒルデ!」

「ええ、承知しておりますよ。レモニカ」


 んん?俺が3人の反応に疑問のを抱いているとレモニカが大声で叫んだ。


「わわわわたしは、ご、ゴロウ様が好きですっっ!!!」


 ええええええええッ!?レモニカって俺のこと好きなの!?てか唐突だなぁ!


「ごごごゴロウ様が許してくれるなら、ず、ずっとここにいたいですぅっ!」

「私もゴロウ様をお慕いしております。気持ちはレモニカと同様、ですから姫様もここに残りませんか?」


 二人の突拍子も無い発言に目を丸くして驚くアストレナの顔をヒルデビアとレモニカは真剣な表情で見詰める。


 因みに俺も目を丸くして驚いている。

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