第22話 奴隷に夕食を与える


 皆に振る舞ったのは牛肉のハンバーグと豚肉のソーセージ、それが熱々鉄板皿の上に乗り、横に人参、じゃがいも、ブロッコリー、アスパラ、コーンが添えられている。それとレタス、きゅうり、枝豆の白ごまサラダ。玉ねぎ、人参、生姜が入った牛肉のコンソメスープ。あと米だ。

 狐のフォンと猫のタマには米の代わりに粥を用意した。


「美味しいですなっ!カツカツカツカツッ!」

「この野菜も凄く美味しいわね」

「あたしがこんな凄い料理食べれるなんて……はぁ……美味しい」

「おいしいの」

「アッチこのお肉好き!」


 獣族組4人は手で料理を摘んで食べている。

 お粥も手で食べてるな。熱くないのか?そういえば昼間出したパン粥も手で食べていた。


 ヒオリ、ティアニーは箸、他はスプーンか。皆、食文化が違うからね。

 地球でも人口の約4割は手食文化。俺は外国の食文化を否定するつもりは無い。

 ただ、熱い料理は手では食べ難いし、せっかくだ、ここに住んでいる間にスプーンや箸にも慣れてもらった方が良いだろう。その上で手がいいなら手で食べてもらうか。


「モモ、タマ、ココノ、フォン、これはスプーンとフォークって言うだけど、アストレナのマネをしてこれで食べてみな。食べやすいし手が汚れないぞ」


 おしぼりを出して4人に手渡す。


「これで手を拭いて」


「ほら、こうやって使うのですわよ」


 アストレナが実践してくれているのを4人は黙って良く見ている。それから素直に手を拭いてスプーンで食べ始めた。

 箸の使い方もそのうち教えよう。


「んん〜とても美味しいですわね」

「はい。王宮の料理よりも美味しいです」

「いいいいままで食べたどの料理よも美味しいです!」


「ゴロウ、お肉、ゴロウ狩りしたの?」


 フォンに聞かれた。口の周りがハンバーグソースで茶色くなってて可愛いな。


「それは黒和毛牛だよ。牛という動物の肉なんだけど、狩りじゃなくてうちで育てた家畜なんだ」


 これは全てゴロウズ達がうちの農場で収穫した食材。特に牛や豚は出産から屠畜まで愛情込めて育てている。

 だから、皆には絶対に「いただきます」と言って欲しい。


「ボク初めて食べたよ」


「牛も豚もこの世界にはいないからな。牛は産まれて肉にするまで約2年4ヶ月育てるんだ。3年半前に親牛を買って種付けして、分娩も立ち会って最近ようやく一頭肉にできたんだよな。色々あったな……畜産は奥が深くて遣り甲斐があるよ」


 畜産に限らず農業も色々試して失敗するのに半年から一年かかる。で、翌年にその失敗を活かして新しいことに挑戦してまた失敗する。5年目になってようやく形になってきたのだ。


「あの……ゴロウ様、よくこの世界と仰っておりますが、どういうことなのでしょうか?」


 アストレナの質問と同時にヒオリがご飯を食べ終えた。他の皆はまだ四分の一も食べてないのに。


「アストレナちょっと待ってくれ。ヒオリ、お替わりするか?」


「是非!いやー、本当に美味しいですな。某このようなうまい飯は初めてでつい夢中になって食べてしまいました!」


 俺は料理担当のゴロウズに念話する。


【お替わりできたか?】

【ちょうど今焼き上がった。転送してくれ】

【オッケー】


 俺は転移魔法でヒオリのお替わりを転送する。


「なななななんと!」


 ヒオリ用に作ったのは1キロのハンバーグ。因みに皆に振る舞ったのは100グラムのハンバーグだから大きさは10倍である。米もどんぶりに山盛り用意した。


「いっぱい食べるって言ってたから用意したけど、食べ過ぎも体に悪いから無理なら残せよ」


「いえ!余裕ですぞ!カツカツカツカツッ!」


「あんたよくそんなに食べれるわね。お腹痛くなるわよ」


「皆もお替わりが欲しなら言ってくれ。因みにうちでは朝、昼、晩と三食食事を出すから慌てずに食べてくれよ」


「「「「「「 さ、三食っ!? 」」」」」」


「君達はまだ育ち盛りだからな」


 この世界は基本的に一日二食、奴隷は一食だったりするから皆驚いている。

 あっ、そうだ。


「アストレナ、さっきの質問だけど」


「はい!」


「この地球という星の別の世界線で前世の俺は生まれた。こことは全く異なった進化を遂げた世界で、そこで死んだ俺は何故か前世の記憶を持ったままこっちの世界に転生してしまったんだ」


「……?」


「世界というのは幾重にも分岐するようつくられている。俺が生前いた地球は月は一つだった。でも、この地球に月は二つある。無限記憶書庫アカシックレコードに残る最古の伝承で、青い月は巨大な白龍の死骸とされている。アレが空の彼方から飛んできて地球に衝突した。そして地球から弾かれて月になった」


「わたくし勉強不足で……全くわかりませんでしたわ……す、すみません。」


「まぁそうだろうね。とにかく、こことは全く別の世界が存在して、俺はその世界から来た異世界人ってことだな」


「どおりで変な性格しているわけね。奴隷にこんな豪華な食事、普通出さないわ」

「ティアニー殿、褒めておられるのですか?」

「ちっ、違うわよ!」

「ボクも全然わからなかったけど、ご飯凄く美味しい。あとゴロウは優しいから好きだよ♪えへへへ」

「私は風呂が気に入った。あれは見事だ」

「あたしは何もかも最高だよ。下半身は治ったし風呂で体も綺麗になった。食事は滅茶苦茶美味しいし。ゴロウさんに買ってもらえて本当に良かった……」

「アッチもこのお肉大好きっ!にひひひ」


 その後も皆、楽しそうに食事を続け、デザートのプリンまで全員残さず綺麗に食べてくれた。


 食後、ヒオリは腹が風船のように膨らんでティアニー殿に弄られていたが、それを明るく笑い飛ばしていた。



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