第39話 奴隷を救いに行く


 10体ある蜘蛛型ゴーレムがあらゆる角度から現場の状況を克明に撮影し、それが水晶に代わる代わる映し出される。


 現場は蝋燭の灯りだけで薄暗い。だが、そのような場合を想定して暗視魔法を付与しておいたのが仇となっている……!この鮮明度、超気不味い!


 処女のウィスタシアは夢中になって見ているが、俺は前世も含め映像では見慣れている光景だから、ただただ気不味いだけだった。


 あ、そうだ!トイレに行くふりして外を散歩してこよう……。

 ウィスタシアの自家発電タイムを考慮してたっぷり2時間は部屋を空ける。

 少しシーツを汚されても気にしないしねっ!俺ってなんて気が利く男なのだろう!


 そう思ってウィスタシアに声を掛けようとすると……。


「ゴ、ゴロウは……その……経験あるのか?」


 と真横にいる彼女は熱い息を吐きながら耳元で囁く。緊張しているのか若干声が上ずっている。


「な、ないよ……!?」


「そ、そうか……。私もだ……」


「……うん」


「……やって……みたい?」


 これってつまり、やりたいと答えればやらせてくれるってことだよな……!?


 いやダメだろ!そんな興味本位でなし崩し的になんて俺の望むところではない。体だけの関係なら娼館で十分だ。

 ここははっきり断ろう!


 時刻は深夜、薄暗い部屋のベッドの端に並んで座る俺達。


 俺は誠意ある言葉で厳格に断ろうとウィスタシアの太腿辺りに視線を向けた。


 暗い部屋だが、映像水晶から出る光に照らされて彼女の体は細部まで鮮明に見える。


 浴衣がはだけ程よく肉付いた白い太腿が露わになっている。俺の頭を少し下げればパンツが見えそうだ。穿いていれば……。

 少し汗ばんだ太腿と股の三角地帯からモワっと蒸気が出ているように見える。


 視線を上げると、これまたはだけた浴衣の隙間から胸の膨らみが……。こちらも少し角度変える簡単な一手間で胸の先端の小豆が見えそうである……!


 更に顔を上げる。

 プクッと膨らんだ赤い唇、凛々しくも美しい赤い瞳の目。

 身長の低いウィスタシアは上目遣いで俺を見つめていて――、俺達は見つめ合う。


 その表情、不安なのか期待しているのか……どっちなんだ!?


 俺達は水晶を見るために寄り添って座っている。ウィスタシアの肩と俺の二の腕がぴったりくっ付いている。彼女の体温と風呂上がりの甘い香りが俺の脳を破壊しそうだったのに……。

 こんな光景見たらもう……我慢の限界ッ!?


 黙っている俺に、頬を染めたウィスタシアは恥ずかしそうに呟く。


「……する?」


「く……ッ!!」


 ウィスタシアを押し倒す勢いで彼女の両肩に俺は両手を掛けた。


 俺には――。

 奴隷紋無しで育てた奴隷が自分の意思で俺を滅茶苦茶大好きになって、俺を見る目は常に瞳孔が♡マーク、しゃぶれと命じればケツを振って喜んでしゃぶる。そんな俺好みの大人の女を育てるという崇高な目標がある。


 まぁ実際はその半分でいいから、目標に近付きたい。

 こんなラブコメみたいな展開とか、恋人の手前みたいな関係はちょっと違うし、雰囲気に流されてなんて論外だ!


「ウィスタシア……こういうことはだな。お互い滅茶苦茶好き同士でやらないと凄く痛いだけで気持ち良くないんだ。特に処女は。やるならせめて俺を好きになってからだ」


「そそそ、そういうものなのか……。私は全く経験がないから考え無しに……。だが、好きというなら私は問題ないと思うが……」


「ばかやろうぅうッ!!そんな中途半端な気持ちじゃダメだ!もっともっと大好きになってもらわないとッ!」


「そ……そうなのか……、わかった!私はもっともっとゴロウを大好きになってみるよ!」


「ああ、わかってくれたならいいんだ」


 これでよし…… ん? あれ? ウィスタシアって俺のこと好きなの!?

 えっ?じゃぁ別にやってもいいんじゃ……???


 とその時――。


『こいつどうすんだ?』


『んあっ♡んっ♡明日アジトに連れてくよ』


 俺の体はピタリと止まり、水晶から聞こえる会話に全神経を集中する。

 二人はバックでやりながら話している。


『上の連中に怪しまれないか?』


『じゃぁ、あ♡、殺しちゃう?ん♡』


『確実だな』


 気持ち良さそうに眠っているココノの顔を、その横で四つん這いになっているレベッカが力強くビンタした。パンッ!と乾いた音が響く。


『起きな!』


『ハッ!……お、お母さん……なにしてるの……?』


 レベッカはココノ顔に布を投げ掛けて視界を塞ぐ。


『子供は見なくていいんだよ!ココノ、自分の首を絞めて死ね』


 そう言うとココノの両手は勝手に動き己の首を絞め始める。

 奴隷紋の効果だ。既にココノに奴隷紋を貼いる……。


『やだ……どうして? くるしいの……おかあさん……たすけてなの……おかあさん……』


『あんたは頭はいいけどバカだね。そんなところが嫌いだったんだ。アタイはあんたの母親じゃないよ。気持ち悪い……。あんたはアタイにとって家畜さね。売り物にならないなら処分する。それだけよ……。ほらトムもっと強くやっておくれ。んあ♡』


『たすけて……しにたくないの……おかあさん……しにたくない……』


『へへっ、こいつしぶてーな』


『ほっときゃ、そのうち勝手に死ぬさね』






『……た…すけ…て…………ご ろう……』


 ――刹那。

 俺は交尾する獣の横、ココノが苦しむベッドの上に転移した。




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