第27話 奴隷に服をくれてやった



 ベッドの上で上半身を起こしたウィスタシアは胸の前で腕を組み「うーん」と唸る。

 白い双丘が寄せて上げられ谷間ができている。


「ゴロウの転移魔法でドクバック城の門前に移動したとして、こんな時刻に入城はできないだろう?」


 今、2時半くらいか。


「仮に向こうがこの時間なら、俺はドグバック卿の枕元に転移して寝ている奴の首を絞める。それから回廊魔石を渡すよう要求し逆らったら殴る。つか、ここに島流しになったばかりの頃はアイツを本気で殺そうと思っていたから、ついでに殺してもいい」


”『クソボウズ、もう人殺しはやめろ。人を生かす人生を送れ』”


 そういえば最近誰かを本気で殺したいと思わなかったから忘れていたヴォグマン卿の言葉。

 自分の奴隷紋が消えてから誰かを殺したいと思うと、思い出したくないジジイの顔と一緒に脳裏をよぎる。

 だから人殺しは好きではないんだよな。


「お前、卑怯だな。人は殺さず生かすものだぞ」


「え?……ああ、そうだな。向こうは夕刻だからまだ城は開いていると思うぞ」


「夕刻?何故そうなる?今は夜明け前ではないか」


 あ、そっか、この世界の人は知らないんだ。移動も徒歩や馬だし。


「地球には時差というのがあってだな。距離が離れると太陽の位置が変わるせいで向こうは夕方なんだ」


 たぶん17時から18時くらいだな。


「すまない、理解できないが、ゴロウは色んなことを知っている……きっとそうなのだろう」


「今日はココノを家に送るから余り時間はない。ドクバックが城にいるとも限らないし転移魔法で飛ぶ前にヤツの正確な居場所を調べよう」


「どうやって?」


 仰々しい力で人前で使うのは恥ずかしいが、隠れてコソコソ使うのはもっと恥ずかしい。いっそのこと見てもらうか。


「教えてあげるから外に出よう」


 フリース素材の黒いガウンをクローゼットから出して、裸のウィスタシアに掛けてあげた。


「この服、軽くて暖かい……」


 俺の部屋は二階で広いテラスが付いている。

 テラスに出る俺の後を追ってウィスタシアも外に出た。


 満天の星が輝く夜空には月が二つ。前世もあった黄色い月とこの世界にしかない青白い月。

 ついでにココノの実家も調べるか。


「昼間話したけど俺には世界の理よりも上位に位置する三つの能力がある。ウィスタシア、青い月を見ろ。その力の一つがこれだ。

 ――神眼 全知全能の目ガイアストローアイズ


「な、なんだこの魔力!あ、あり得ないぞッ!!」


 ウィスタシアは魔力を視認し性質を見抜くことができる。奴隷商会で初めて俺を見た時、魔力制御していると言い当てたからね。

 俺が纏う莫大な魔力が青い月に向かって一直線に伸びていることがわかっている筈だ。



 広大な宇宙に浮かぶ蛇の様な巨大な白龍。それが蜷局とぐろを巻き球体を成している。その白龍の頭部、眉間の中心に地上から糸のように伸びたゴロウの魔力が刺さった。

 すると骸である筈の白龍はゆっくりと両目を開ける。



「青い月に二つ、黒い穴が開いたぞ」


 今は集中しているから返事はできないが、あれは白龍ガイアストローの目だ。


 よし!魔力を通してサテライトシステムとリンクした。

 目を閉じた俺にはガイアストローが見ている景色が見える。それは青い星、地球。


 過去から現在まで、人、生物、気候、地形、全ての歴史を監視する全知全能の瞳。

 以前この力を使ったのは5年前、そこから今現在までの情報を更新する。


 膨大な情報が無限記憶書庫アカシックレコードに流れ込んできた。


 情報を取り込んだ俺は魔力を絶ち目を開ける。

 この膨大な情報からドグバックとココノの情報を抜粋してと……。


 ドグバックは城にいるな。なんだコイツ、女遊びしてるぞ。羨ましい。


 この5年間の奴の全ての行動が見える。

 民衆から気に入った女を取り上げ孕ませて遊ぶ。無罪の民を言い掛かりで処刑。人身売買に売国、ヴォグマンを陥れる裏工作とずいぶんやんちゃしている。

 5年前に見たときと変わらない相変わらずの糞野郎だ。


 ココノは……、え?あ?うわ……マジ?まぁ取り敢えずこれは後にしよう。


「月の穴が閉じていく」


「あれは白龍の目で、あそこから見える情報を入手した。実は戦争の真実を知れたのもあの目のお陰なんだよ」


「……なぁゴロウ、お前は第四位階以上の魔法を使えて更にとんでもない目を持っている。お前ならもっと早くに戦争の真実に気付いて、戦いを止めることができたんじゃないか?」


「いやそれがさ、全知全能の目ガイアストローアイズ無限記憶書庫アカシックレコードを使えるようになったのは魔王を殺した瞬間からなんだ。それまで俺は第三位階魔法までしか使えなかった。原初の魔王アウダムの複製体クローンだと知ったのもこの無限記憶書庫アカシックレコードを始めて開放した時で、それまで自分は普通の人族だと思っていたんだよな」


 遺跡から俺を発見したニナの夫で考古学者のハンセウス・グリム博士や彼等の調査団に遺跡調査を依頼したグラントランド国王も俺が魔王の肉体であることは知らなかった。国王がそれを知ったのは戦後。


「それでよく我が祖父や魔王様を殺せたな」


「生まれときから持っていた残りもう一つの能力のお陰だな。もう気付いているだろ?」


「その魔力量だろ。今使った魔法を見てわかった。お前はこの星から魔力を吸収し己の魔力に変えているな」


「ご明察、無限魔力吸収マギアルンバっていうんだ」


 大魔帝国軍と戦っていた当時、俺は1分間に約100発、第三位階魔法を連射することができた。それを1時間でも2時間でも継続できた。まぁ物量で圧倒したって感じ。


「よし、居場所もわかったし服着たら出掛けよう」


「私はこの服を借りてもいいのか?」


「いや、もっとまともな服があるから」


 それ俺の冬の寝巻だし。


 ということで、部屋を移動してタンスとクローゼット漁る。

 この旅館を買ったあと、いずれ女奴隷を迎え入れる予定でいたから、ネットショッピングでレディース服を色々買っておいたんだよね。まさか11人も迎え入れるとは思っていなかったから数は少ないけど……。


「あった、あった。これこれ〜!」


 黒の高級シルクワンピ、ゴスロリドレス風。ネットで服を漁っている時に発見して、めっちゃ格好良くて思わず買っちゃった。

 35万円もして届いた時は誰が着るんだよって後悔したけど、似合う子が現れて良かったぜ。Sサイズだから着れるだろう。

 下は……、靴は黒の厚底パンプスで22センチのがあったな。それと黒のニーハイソックス。

 あとはパンツとブラか……。一応数種類買ってあるけど合うのあるかな?


 俺は大急ぎで服を用意した。


「着てみてくれ」


「これどうやって着るんだ?」

 とブラを持ち上げるウィスタシア。


 まぁこの世界にブラなんてないからね。


 俺も良く知らないけど見様見真似でパンツから全部着せていく。


 因みにウィスタシアは電気をつけた明るい部屋で裸を見られても全く恥ずかしがらない。それどころか腰に手を当て、少し胸を張って、表情は何処か誇らしげに見える。流石は魔族の姫様だ。



 ウエストがゆるいが、これくらいなら問題ない。

 おとは尻まで伸びた銀色のストレートヘアだけど、艶々で奇麗な髪だからこのままでいいか。


「できたッ!おおおお!!滅茶苦茶可愛いな!やっば、超可愛い!」


 ウィスタシアは全身鏡の前で服をひらつかせ自分の服装を確認している。


「私がこのような上等な服を着ても良いのか?」


「良い良い♪まじで凄く似合ってるぞ!これあげるからな」


「こんな高価な服もらえないよ」


「俺を刺した奴が何遠慮してんだよ。遠慮するとこ違うだろ。ははははっ」


 そう言ってケラケラ笑うと、彼女は急に頬を赤くして恥ずかしそうする。裸を見られても堂々としている彼女が。


「あ、あれは……だって……、ご、こめんなさい。もうあんなことしないからぁ〜!」


 と頬を真っ赤にして、いじけてしまった。




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