第61話 奴隷と吸血(ディープキス)


 俺達は公園入り口付近の森に出現した。ここから歩いて海沿いに行く。


「ここで1時間くらい散歩したら帰ろうと思うけど、それでいいか?」


「ああ、でもその前に……トイレに行きたい。映画を観ていたらパンツが濡れてしまって……」


 気持ちはわかる!

 俺も起立したからな。今は礼して着席状態だが……。

 ウィスタシアは何でも正直に言ってしまう。自分を隠さない。まぁそこが良いんだけど。


「普通そういうことは男には言わないんだぞ」


「こんな恥ずかしいこと誰にも言わないよ。ゴロウだけに言うなら問題ないだろう?」


「それなら問題ないか……」


 ん?問題ないの?

 けど恥ずかしいって認識はあるんだね。それらまぁいいか……!


「替えのパンツあるけど使う?」


「うん」


 俺は異次元倉庫からパンツを出してウィスタシアに渡した。


 公衆トイレに寄ったあとは歩いて海へ向かった。因みに汚れたパンツは異次元倉庫にしまった。


 森が開けて海沿いに出ると目の前には光り輝く東京の夜景が海面に浮かび、それが何処までも広がっていた。

 ネットでデートスポットを調べまっくたら、ここが評判良くて来てみたけど良い景色だな。


「この光は全て電気なのだろう……。蝋燭で生活している我々の世界とは雲泥の差だな」


「俺は星空が綺麗なあっちの世界も好きだけどな」


「ここでは星は殆ど見えないのだな……」


「街の光が明る過ぎて星の小さな光が霞んでしまうんだよ」




 それから俺達はのんびり海沿いを歩いた。すると……。


「ゴ、ゴロウ……」


 さっきから夜景ではなく沿岸に設置されたベンチに座るカップルをチラチラ見て頬を染めるウィスタシアが俺の服裾を掴んだ。


 言いたいことはわかる!

 既に20組くらいカップルを見たが、偶然なのか何なのか……全てのカップルがキスをしていたのだ。


 この公園、何かおかしい。俺達を煽ってるのか!?


「私達も……、す、座らないか……」


「そ、そうだね……!」


 周りのキスカップルに翻弄され、緊張した雰囲気の俺達二人は頬を染めてベンチに座る。


「「 …… 」」


 俺達が座ると、木陰から隠れて見ていたんじゃないか?って勢いで直ぐに両隣のベンチにカップルが同時に座った。俺達はカップルに挟まれてしまった。


 右のカップル。

『好きだよ♡ ちゅ♡』

『俺も大好きだ♡ ちゅっ♡ ぶちゅんんんん~♡』


 左のカップル。

『今日もいっぱいエッチしような。 ちゅ♡』

『やだぁ~♡ エッチぃ~♡ レロレロレロレロ♡』


 両隣カップルはただちに愛を囁き合いキスを始める!

 ベンチ間の距離約3メートル。めっちゃ近い。


 いや、向こうでやってくれよ!

 この公園おかしいでしょ!?煽りムーブが半端ない……!


「ゴ、ゴロウ……」


 呼ばれてウィスタシアを見ると、表情はとろけ、赤い瞳は潤み、頬は桜色に染まっている。

 プクっと膨らんだ可愛らしい唇が夜景の光を反射して艶々に輝いている。


「私もキス……してみたい」


 俺とウィスタシアはR18映画を観て、キスするカップルたちを見て、体と心が温まっている。

 キススタンバイ状態でいつでもドッキング可能な雰囲気なのだ。


 それに今日は彼女の誕生日。なるべく要望には答えたい……。


 つまり、これはもう……。



「ここは落ち着かないから別の場所に行こう」


 俺は重力魔法を発動させてウィスタシアと一緒にゆっくり空へ浮いた。


『嘘、でしょ!?』

『人が浮いてる……』

『ないこれ、どうなっての……?』

『あり得ない!』


 ざわつくカップルを無視しして2階くらいの高さまで浮く。

 俺はウィスタシアの手を握り、海へ向かってゆっくり飛んだ。


「どこへ行く?」


「海面……」


 暫く飛んで沖に出たところで。


「第五位階水魔法、アクアハーデン!」


 これはコンクリートのように水を固めて、獲物を水中に閉じ込める魔法。

 空にいた俺とウィスタシアは海面に着地する。


「海に落ちるかと思ったが……水が地面のように硬い」


「魔法でここら辺の海面を固めた。あっちに行ってみよう」


 360度開けた海上で見る夜景は最高に美しい。

 少し歩いていると丁度波が隆起してベンチ代わりなる場所があった。


「あそこに座ろうか」


 俺達は固まった波の上に座った。

 岸までは300メールくらいある。ここなら誰もいないから落ち着いて彼女を向き合える。


「ふふっ、魔法でこんなこともできるんだな。凄いよ……」


「ウィスタシア、聞いてくれ」


 朗らかに微笑むウィスタシアに俺は真剣な顔で言った。


「俺はウィスタシアが好きだ。素直で努力家で家族思いで可愛いからな。でも今はキスはできない」


「どうして……?」


「うちのやつらは全員公平に接したいからだ」


「……?」


「前にも話したけど、俺は奴隷を自分の嫁にするつもりで買った。当然彼女達が希望すればの話だが。だから将来、全員の進路が決まるまでは誰ともそういう関係になるつもりはないんだ」


 最近、ココノとタマはセブンランドから出て行かないと言っている。


 それで二人の将来がどうなるかはわからないけど、俺が特定の誰かと関係を持ってしまったら、彼女達に嫁になる選択はできないだろう。


「では、皆ゴロウと一緒になりたいと言ったら、全員嫁にするのか?」


「もちろんだ。全員特別で公平に愛して死ぬまで一緒にいるつもりだ」


 ウィスタシアは少し嫉妬深い。俺の方針が嫌ならヴォグマン領に帰るだろう。それならそれでいい。


 他にも嫁希望者が現れたら自分の方針を伝えつもりだ。嫌ならそれまでだと思っている。


「将来っていつなんだ?」


「せめてココノが15歳になって成人するまでだな」


 あと7年待たせることになる。普通に考えてながいよな。


 それからウィスタシアは暫く黙った。

 ぼんやり夜景を見ながら考え事をしているようだった。


「わかった……。では、ゴロウの血を吸わせてくれないか?」


「えっ!?〈吸血〉したらどうなるかわかっているだろう?いいのかよ?」


「ああ」


 ヴァンパイア族のスキル〈吸血〉は最初の一回だけ、スキル使用者が存在進化して肉体が強くなり魔力量が増えるなどパワーアップする。

 問題なのはその際に生じる〈結血ゆうけつ〉という制約で、女性ヴァンパイアの場合、男の血を〈吸血〉すると子供を産めるようになるかわりに、最初に〈吸血〉した男性の子供しか孕めない体になってしまう。

 おそらく卵子がそう変化してしまうのだろう。


 つまり、ウィスタシアは物理的に俺の子供しか産めない女になる……。


「7年も待たせるんだぞ」


「父上は2000年以上生きているし母上など4000年以上生きている。ヴァンパイアにとって7年はたいした時間ではない」


「他に妻を娶ってもいいのか?」


「それは……、父上は婿養子だから母上だけであったが、お祖父様は100人以上〈吸血〉させたと言っていた。貴族は妻を複数娶るのが常識だ。それに今いる顔ぶれは私も好きだから構わない」


 ウィスタシアはいつになく真剣な表情だ。

 真紅の瞳には決意が宿っている。


 女の子にここまで言わせたんだ。俺も腹を括ろう。


「なら俺に断る理由はない。俺だってウィスタシアのことが好きだ。できればこの先もずっと一緒にいたい」


「私もゴロウが好き……。 では、吸うからな!」


「ひと思いに吸ってくれ!」


 ウィスタシアは立ち上がると対面になって俺の股間を跨いで座る。

 それから俺の首に両腕を回し、俺達は見つめ合う。


 こうして見るとウィスタシアは本当に美しい。とにかく綺麗だ。今までに見たどんな人もより綺麗だと思った。


「ゴロウ、好きだ。……大好き」


「ウィスタシア……俺も君が好きだよ」


「目……閉じて……」


「うん」


 俺は目を閉じる。

 これでこの子は俺の子供しか産めない体になる。俺はその責任を取らなければならない。


 すると唇に感触が……。


 あれ?これキスしてるよね?


 鼻を抜ける甘い香り、唇から伝わる彼女の体温と柔らかい感触。


 目を開けるとやっぱりキスしていた。


「血、吸うんじゃないのか……?」


「唇から吸おうと思ったの……。ゴロウ……硬くなってるぞ」


 俺の股間に跨いで座って、しかもグリグリ股を押し付けられるだけでヤバいのに、キスまでしたらそうなるよ!


 俺はウィスタシアの腰と背中に腕を回して彼女を抱きしめた。


「唇から吸ってもいいから……ほら。ちゅっ♡」


「そんな一瞬じゃ吸えない。ちゅっ♡ちゅっ♡んんん♡」


 唇を重ねて、舌と唾液を絡ませて、強く抱き合いながら俺達は見つめ合う。


「ほら、早く、ちゅ♡吸わないと、ちゅくちゅ♡んん♡」


「あっ♡んあっ♡ゴロウの舌、激しくて吸えない……。んんん〜♡むちゅ♡」


「ウィスタシア好きだ、ちゅ♡」


「私もすき♡ちゅ♡ゴロウ、だいしゅき♡ちゅっ♡んんん♡」


 結局30分くらいなかなか上手く血が吸えなくて、俺達は色々方法で唇からの吸血を試みた。

 映画で5分くらいキスシーンがあってよくやるよって思ったけど、こんなのいくらでもやれるってわかってしまった!


「そろそろ、帰らないと皆待ってるから……」


「ああ、そ、そうだな。では首筋から吸うぞ」


「えっ!あ、ああ、そうしてください……」


 唇からだとまた始まっちゃうからね!

 ヴァンパイアには尖った犬歯がある。ウィスタシアそれを俺の首に突き立てて血を吸った。


 血を吸った彼女は嬉しそうに微笑んだ


「ふふっ、これで私はお前の女だな……ゴロウ」


「ああ、これからよろしくな。ウィスタシア」


「あーあ、せっかく着替えたのに、またパンツを濡らしてしまったよ」


「もうノーパンでいいんじゃないか?」


 こうして俺達は異世界に戻ったのであった。





 旅館に帰ると既に豪華な夕食の準備ができていて皆で料理を楽しんだ。

 そして最後にケーキが出てきて、蝋燭に灯りをともし皆でウィスタシアに誕生日ソングを歌った。


 レモニカが頑張ってくれたおかげで美味しいケーキが食べられて皆大満足だ。


 ケーキを食べながら俺はウィスタシアに誕生日プレゼントを渡す。

 安物のネックレスだけど皆から羨ましがられてウィスタシアは満足そうだった。

 早速着けてあげると凄く喜んでくれた。




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