第11話 危険な因子からは昔話の匂い?

「ただいま戻りました~」


 くたくたに疲れてはいたが、出せる精一杯の声で帰還した旨をサーリエさんに伝えた。私達を見るなり受付スペースを離れ、此方に駆け寄ってくれた。


「お二人とも大丈夫でしたか?! お戻りが遅かったので心配したんですよ?!」


 優しいな。直ぐに駆け寄り、私達の安否を直ぐに確認したがる行動はアーリエさんと全く同じだ。むしろ、同じ過ぎて怖いぐらいだ。


 変装の名人のソネルちゃんが、アーリエさんとサーリエさんの2人を演じているとさえ思ってしまう。


 だが、ソネルちゃんはそんな簡単に見破られる変装はしないだろう。


 奥の部屋に通された私達は、前回と同じ会議室のような個室に案内された。


「すまないな、妙なお願いをしてしまって」


 リレイ組合長も私達の顔を見るなり、作業を止め此方に来てくれたようだ。


「リレイさん、その、ごめんなさい……」

「何故謝る? 成果が無くてもある一定の報酬はこちらで用意しているから、気軽に寄ってほしい」


「いや、成果と言うか、負の成果と言うか……」


 私は正直に話した。


 隠し通路を発見し、古そうな宝箱を見つけたが、怪盗Sが現れ秘宝を盗まれたことを。


 リレイ組合長は驚いていた様子だった。


「やはりか……秘宝が奴の手に入ったのは残念だが、君達のせいではない。謝らなくていい。むしろ、君達の活躍のお陰で新しい情報が獲られている」

「宝箱があって、中には古いリングのような物が入っていたようで、盗まれちゃいました」


「リレイ組合長……シイナさんがおっしゃっているのは……」

「あぁ、間違いない。あの洞窟はこれまで数多の冒険者が探索に挑んできたが、隠し通路となるモノを見つけたのは、君達が始めてだ。推測ではあるが、宝箱にあったのは恐らく『オールド・トレジャー』だろう」


「オールド……トレジャー?!」


「あぁ。いにしえに存在したという幻の秘宝……だとされている架空の物だ」

「ふふふ、実はですね、リレイ組合長は考古学について長年研究、探索活動をされている方なんです」


 サーリエさんは嬉しそうに組合長さんの話をしてくれた。


「歴史かぁ~なんか凄い人なのかも」

「そうね、私も疎い類いの人間だわ」


「おいおい、お二人さん。歴史なんて珍しい内容では無いだろ。シイナやファナはアルハインから来たからアルハイン出身なんだよな? アルハインは歴史の勉強もしないのか?」

「あ、いえ……実は、私は他世界から来た人間なんです」


 アーリエさんとの約束をまたまた破る私。でも、偽りのまま関係を続けるわけにもいかない。


「なっ……他世界だと?! はっはっは、こりゃ良いっ!! シイナの規格外さが徐々にわかってきた。老眼ローガンが君達を慕う理由も薄々わかってきたさ」


 咥えていた煙草をいそいそと消し、嬉しそうに笑うリレイ組合長さん。


「他世界の人間は、これまでまともな奴はいなかったが、まさかシイナのような人間も他世界から来るのか。そりゃ、この世界の歴史を知らなくて当然だ」


「これから勉強します」

「あぁ勤勉な姿勢は俺は嫌いじゃない。だが、先に伝えてやる。この世界で語り継がれている『歴史』には偽りが多い。いや、『歪曲されている可能性がある』と表現した方がいい」


 この世界には【オールド・トレジャー】という唯一無二の秘宝が眠っているとされている。語り継がれた歴史いいつたえとしては、オールド・トレジャーは厄災をもたらす『呪われた魔装具』として忌み嫌われていたと記されている。


 だが、考古学を専門にするリレイ組合長の見解は違った。


『魔装具は別の役割があるのでは』と。


「長年、オールド・トレジャーという単語は昔話に出てくる架空の宝として認知されて来た。だが、実際に存在すると俺は睨んでいたし、君達が捜しあててくれた」

「ごめんなさい、回収できなくて……」


「謝るな、シイナ。0と1では雲泥の差だ。君達が目撃したという情報は目覚ましい一歩だ」


「それと、宝箱を守護していた者がいました」

「宝を守護する者?」


「はい。ライムちゃん、出てきて良いよ?」


 私の合図とともに、ライムちゃんは姿を現した。認識阻害率99.2%を常に維持し、先ずもって存在そのものに気づかれにくいライムちゃん。リレイ組合長さんは、突如現れたライムちゃんに驚いていた。


「こいつが例の回復魔法を詠唱するスライムだな? 信用できる……んだよな?」

「はい。テイムしているので無害ですよ」


「亜種テイマーとはいえ、E級冒険者が上級のスライムを……話しは聞いていたがどうなっているんだ、この世界は」


 私はライムちゃんに変身を頼み、遭遇した物体を再現してもらった。


 殺戮のみを実行してきた硬いフォルム。宝箱の守護する為だけに作動していた無慈悲な機械ぶったいを忠実に形にするライムちゃん。


 一度しか遭遇していないのにも関わらず、360°どの角度から見ても、目の前にいる物体は私達を襲ってきたモノと瓜二つだ。


「なっ……ま、まさか……」

「はい。怪盗Sが宝箱を開けたと同時に、この物体が作動し、私達を襲ってきました」


「シイナと私で動きを止めたから、残骸はまだ洞窟内にある筈よ」


 眼を閉じ、手をヒラヒラさせながら回答するファナちゃん。


「き、君達を疑っているわけではないが、この発見は歴史を知る重要なピースだ。君達にお願いして正解だった」

「でも、宝は怪盗Sに盗られちゃったよ」


「それは仕方のない事だ。だが、やはり怪盗Sは秘宝が目当てのようだな……世間は誰も知らないが、秘宝を盗まれた可能性のある案件はこれで2例目だ」


「教えてくださいますか、秘宝と怪盗Sの事を」

「あぁ、危険な目に晒してしまったのだ、勿論君達は知る権利がある。これから君達に話すのは、とある絵本の話だ」


「絵本?! そんな話を聞くために命がけで依頼クエスト承けたわけじゃないわよ?」


「半獣の君にも、決して他人事ではないお話だ。聞いてくれ」


 そう言って、リレイ組合長さんは、ゆっくりと丁寧に話し始めてくれた。


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