第16話 阻むものは冥獣の匂い?

「うっ……いててててて」


 発言し、私の耳に音が聞こえてくると言うことは、私の身体はまだ動いているようだ。


 だが、目が機能していない。いや、真っ暗闇を見ていると言った方が正しいようだ。


 土竜型モンスターが掘ったであろう大きな穴に身を投じることで、モンスターからの攻撃は回避した私達。


「ソネルちゃんいる? いたら返事して」

「辛うじて生きてる……どうして?」


 不思議そうな声が聞こえてきたが表情は見えない。私は光のオーラを纏い辺りを明るくした。周りが見えたことでソネルちゃんの下に大きく膨らんだライムちゃんがクッションの役割を果たしている事に気がついた。


「どうして……」

「いや、だからスライムのライムちゃんに」

「そうじゃ……なくて!!」


 語尾を強めたソネルちゃん。まるで嘘のように感情をコントロールしていた無感情の彼女だったが、この時だけは剥き出しの言葉を吐いてきた。


 この感情の流出は本質。彼女の心から生成された本物だ。


「ソネルちゃんは今何を想うの?」


 沈黙が続くなか、ソネルちゃんは言葉を紡ぎ並べはじめた。


「どうしてシイナは私を嫌わ……ないの?」


 その時だった。


 異音が私達の耳に届いたのは。


 継続する高い音。連鎖する音からは無感情に殺戮のみを行う非道ささえ感じる。


 秘宝を護りし秘宝の守護神。オートマタが私達の目の前に一体現れた。


「『どうして』かぁ……それは、ソネルちゃんに興味があるからかな。ライムちゃんっ!」


 私の合図により、ライムちゃんの回復術でソネルちゃんの傷は癒えた。


「興味……私は貴女に興味をもってもらえる存在じゃ……ない。私は、ハーフエルフ……だから」

「ハーフエルフさんだからだよ」


 私の反応に対し、冷たい視線を向けるソネルちゃん。氷の刃のような眼差しがこちらにやってきた。


「どういう……意味」


「そのままだよ。ハーフエルフさんなんて珍しいし、可愛いじゃない。それに、嘘で誤魔化すから、ソネルちゃんの匂いを教えてくれない。これはもう興味以外の何物でもないよ。だから、お姉ちゃんが護ってあげるからね?」


 オートマタは躊躇せず躍動する。切り裂く刃を此方に向け、真っ直ぐ向かってきた。だが、あの物体には共通してある特徴がある。


 それは『無駄な行動をしない』ということだ。


 最短で、最速の手法を用いて私達の命を狙ってきている。


 だったら……


 私はオートマタの突進を避け、無防備な本体に向かって、古代詠唱を発動しようとした。その時……


「避けて!! シイナさん」


 確かに聞こえてきたのはソネルちゃんの声。私はソネルちゃんの声に反応はできたが、行動に移しきれずにいた。


 オートマタはフォルムを変え、鋭い爪を立てて私の腹部を切り刻もうとしていた。間一髪で避けたが、痺れる痛みが全身を襲った。


 麻痺でも毒でもない。痛みに近い痺れが身体を襲う。手足を動かせない程ではないが、それでも違和感は拭えなかった。


 ライムちゃんも慌てて私を治療しようと試みてくれているが、何度行ってもライムちゃんの治療魔法が私に届くことはなかった。


「ソネルちゃん、今のは……」

「あれはオートマタじゃない。オートマタに擬態したカメレオン型モンスター……【冥獣ヒルレオン】。魔法効力の全てを無効化する特技『ジャミング』を使用する厄介な……相手」


「め、冥獣って何?! 神獣とは違うの?」


「神獣になれなかった負の存在。でも、その影響力は神獣にも……匹敵する」


 神獣に追われ居場所を追われた冥獣は、天敵が少ない、このミザラギ洞窟内に身を潜めていたのだろう。土竜さんが無数に作り出したこの穴は隠れるには最適。


 そして、人間も探索や関与しないとなれば、定住するには条件が整い過ぎていた。


「ソネルちゃんっ」


 私はソネルちゃんにアイテムを渡した。


「転移結晶。それにこれは……秘宝」

「聞いたことがある。転移結晶は天然の鉱物の力で出来ていて、魔法とは違う性質ができているって」


「そうじゃない。何故、私に渡すの? シイナさんが使えば……いい。秘宝も敵に渡すだなんてどうか……してる」

「頭に付けているティアラ。それもオールド・トレジャーなんでしょ? 私もギルド管理組合で別の物をみたから分かる。呪いの穢れがあるのに、ソネルちゃんは平然としている……ううん、発動させていないように私の目には見える」


「驚いた。そこまで分かるだなんて。そう、私はオールド・トレジャーに対し嘘の情報を与えて、呪いが発動しないようにしている。だから……平気」

「ね? 私が持っているより、ソネルちゃんに預かってもらう方が良いよね。だから、渡したの。転移結晶もそう。ソネルちゃんが生きてここを出れば、オールド・トレジャーが行方不明にならない」


 そう、私は死んだとしてもソネルちゃんさえ生きていれば、オールド・トレジャーは架空の存在にならない。


 オールド・トレジャーがこの先何をもたらすかは不明だけど、この秘宝を悪用しそうな人間の手に渡ったらいけない事だけはわかる。


「ここは、シイナお姉さんに任せて、ソネルちゃんは脱出して」

「……お断り……します」


「えっ?!」


 ソネルちゃんは私の隣に歩いてきた。


「私の匂いに興味がある、怪しい貴女と共闘するのは不本意ですが、ここは私達で……食い止める。行きましょう……シイナさん」


「ふふふ。いつからか私の事を『さん』で呼んでいるね。シイナお姉ちゃんで良いからね?」

「いぇ……シイナさんの術中にハマっているようで……不本意です」


 ジト目でこちらを見ていたソネルちゃん。私から距離を詰めたらすぐにこれだよ。


 あぁ、早くその氷のような表情を溶かしてみたいな。


「行くよ、ソネルちゃん!! ここを凌がないと生きて帰れないからね」

「はい。いざ……参りましょう」


 

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