第41話 統べる者VS統べる者
ネクロマンサー。影を操る彼女の攻撃パターンは正に未知そのものだった。
足元に拡がる影から戦闘用の影モンスターを出現させているかと思えば、神獣達の時のように、生きているモンスター本体に黒い物質で全身を覆うことで、一時的に支配下にしていた。
ラルディーリーさんが操る影は、姿・形を自由に変更させ、襲ってくる。まるで、ライムちゃんと同じだ。
影がどんな攻撃をしてくるかはわからないが、ライムちゃんはどんな動きが出来るかは私は把握しているつもりだ。
だからこそ、ライムちゃんは最前線での闘いに参加させるわけにはいかない。
ライムちゃんのように不定形モンスターは一見最強ではあるが、実は落とし穴が存在する。ガスクラウドのように相手が不定形モンスターであれば、ライムちゃんといえど相手に取り込まれる危険性があるからだ。
存在外も不定形。それも、影という、虚像系だ。液体系のライムちゃんの方が質量があり、その分取り込まれやすい。
「あら? 頼れるお仲間が沢山いるのに、加勢は必要なくて?」
「今はね」
「テイマーの貴女が独りで闘うだなんて、万策尽きたようですわよ? それとも貴女も私達のように未来に絶望しているのかしら?」
「ラルディーリーさんは絶望してるの?」
「えぇ。昔はね、今は違うわ。モンスターを狩り尽くす力を得た今、実行に移すだけよ」
「大丈夫だよ。そんな未来なんてやってこないよ。私がファナちゃんとラルディーリーさんを絶望の縁から救うんだから」
私の言葉に目を細めたラルディーリーさん。睨むでもない、怒るでもない。始めてみる生命体を見つめる『疑いの目』だ。
「貴女が私達姉妹を救うですって? ふふふ、本当に貴女は喰えない人間ね。殺意を持って接している私を、貴女からファナを引き離そうとした私を、敵対するどころか『救う』だなんて……」
彼女から拡がる影の濃さが増す。黒色とは程遠い暗黒色に。光りすら受け付けない闇を拡げた彼女は「目
影から伸び続ける黒色の鎖。突如現れては私を捕らえようと目にも止まらぬ速さで接近してきた。
私は黄色のオーラを纏い、最高速度で距離を取ろうとした。私の方が若干だけ早く、じわりじわりとではあるが鎖との距離が生まれてきた。
【このままいけば少しずつ距離を稼ぐことができる】
やはりビーちゃんの速さはモンスタートップクラスだ。最短距離で押し寄せてくる鎖も侮れない。ホーミング機能搭載の遠隔攻撃とか、それチート過ぎるんですけど?
「ダメよ、逃げるんじゃなくて回避しなさい、シイナ!!」
突然の声。ファナちゃんからお言葉を貰った。
その時だった。これまでの鎖の速度とは桁違いの速さで襲ってきたのだ。予想外の加速度。だが私はファナちゃんの声に従い、黒い煙幕を発動させており、間一髪で直撃は回避することに成功させた。
「あら……残念ね」
ただ『直撃』は免れただけで、頬の辺りに掠り傷を負った。
「シイナっ、上からっ!!」
ファナちゃんのアシストは尚も続く。私は上空を見ること無く真横に飛び込み前転のように逃げた。
延びていた黒い鎖が地上目掛けて急降下していた。もし、まだ私があの所にいれば即死していただろう。
ファナちゃんの声に何度も助けられた。
「お姉ちゃんを甘く見ないで。ヒヤヒヤして心臓に悪いんですけど? Fランクだからって、周囲の様子くらい見なさいよね?」
「えへへ~ファナちゃんの声が聞きたくて技をギリギリまで回避してないのだよ」
「はっ?! そんな自殺行為、何の意味も……」
「意味はあったよ。ギリギリに避けていた事で気づいたの」
そう。私は今の二連続攻撃で気づいた。一回目の加速した時の攻撃は、ビーちゃんの匂いが、そして上空からの攻撃は、大蛇の
そう。ラルディーリーさんがした攻撃は、私が習得した技と同じだった。
「ラルディーリーさんも、私みたいに使えるんだね。モンスターさん達の技……」
「あら? もう気づいたの? 貴女って本当に察しが良いわね。えぇ、ファナに潜ませた影は貴女達の旅に同行していたわ。殺せたモンスターから影を抜けば、習得できるから簡単で助かるわ。サーペントは貴女のとは別の個体だけどね」
「そ、そんな……じゃあ、お姉ちゃんは、私達が倒したモンスターや、見た技が全て使用出来るって事? シイナの……様に」
「そうよ、ファナ。匂いから技の形成を知り、テイムしているスライムの特性『再現』と掛け合わせる事で、モンスターの技を習得しているシイナと一緒で、私は影兵を利用して習得しているわ。私は貴女達の全てをずっと観ていたわ」
今まで出会ったモンスターや神獣、ヘカティアちゃん、それにローガンさん等。数々の強い人や個体を観てきたが、ラルディーリーさんだけは別格の覇気を纏っていた。
影を操るネクロマンサー。モンスターの影を支配下に入れることで、技を知り、そして発動するまでに至っていた。
私と一緒?
私は、私1人でしか再現できないが、ラルディーリーさんは存在外に再現させている。つまり、複数の存在外にそれぞれ別の技を再現させられる事も可能だと言うことだ。
一緒どころではない。雲泥の差だ。
それに、私は『匂い』で気づいたが、正式には香りによる『匂い』ではない。攻撃の特性や発動した際の微妙な空気の揺れの匂いから予測したまでの事。
影に匂いなど無く、攻撃を受ける直前でないと何の技なのか判断できない。
私が、ラルディーリーさんに勝てるのだろうか。この場にいる皆を救えるだろうか……
「大丈夫よ、あんたなら。だからそんな不安そうな顔は止しなさい」
すぐ隣で闘っているファナちゃんは私を励ましてくれていた。
「私には、ラルディーリーさんのように情報量や経験が少ないよ……」
私はラルディーリーさんを知らない。逆に、ラルディーリーさんは、ファナちゃんの影に潜み、私の全てを観ていた。
憶えている技の種類だけでない。発動パターンや攻撃する際の癖、更には考え方など、私が無意識に行っている全てを知り尽くされているだろう。
そんな、相手に……
「あんたが弱気な発言だなんて珍しいわね。大丈夫よ、シイナ。私だってお姉ちゃんの事誰よりも知っているわ、妹だからね。どのタイミングで攻撃を仕掛け、どのような方法で殺害しようとするのかくらいはわかるわ」
「!!」
「でも当てにし過ぎないでよね。ネクロマンサーの事は気づけなかったんだから」
「大丈夫だよ。私もファナちゃんが悩んでいた気持ちに気づけなかったんだもん。でも今の私はもう違う。ファナちゃんが傍にいてくれるのだから」
「素敵ね……短い間に私の妹をそこまで手懐けるとは、流石亜種テイマーね」
「お姉ちゃん、それは違うわ……私はシイナの支配下でも、駒でもないわ」
うんうん。
「勿論、無言で嗅がれるだけの、ぬいぐるみでもないわ」
うんうん、そうそ……えっ?!
「シイナは、今はお姉ちゃんを止めてくれる、最高の冒険者で、私は『お姉ちゃんの暴走を誰よりも止めたい者』よ」
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