第42話 殺意の沼は血に飢えた匂い?
ただいま、ご紹介に与りました亜種テイマーのシイナです。平素より、私のクン活へのご理解、ご協力をいただきありがとうございます。
ファナちゃんはこの案件が無事に片付き次第、認識に
神獣さん達が開けた天井から降り注ぐ月の光り。月光浴中の私こそが、この異世界に舞い降りた『嗅ぐや姫』でございます。
「素敵ね~。妹からそこまで信頼されているだなんて」
「にへへ~」
「貴女がファナと睦しい仲でいてくれて良かったわ。でも、残念ね。貴女はこれから闇に取り込まれるけど、私は貴女の事を忘れはしないわ」
圧倒的だった。
ラルディーリーさんの眼の色が変わった瞬間、この世界のモノとは思えない覇気を確かに感じた。
いや、殺気と言った方が正しいのかもしれない。それも対等な立場からの殺気等ではない。
人間が蚊を睨み殺すかの如く、埋まることのない実力さを彼女の瞳から感じ取った。
『震えるな』という方が間違っている。彼女のオーラを前に、ローガンさんやヘカティアちゃんでさえ後退りしていた。
ラルディーリーさんからすれば、私のようなFランク冒険者は蚊帳の外の存在。亜種テイマーってだけで、その辺りにいるモンスターと大差ないのだろう。
慈愛の眼差しでこちらを見ているラルディーリーさん。
だが、その色気のある深い眼差しだからこそ、彼女の行っているやり方は卑劣さを引き立たせていた。
私の思考を読み解き、私を騙そうと戦略を練っては確実に息の根を止めに来ている。
ファナちゃんにとって今の私は唯一の希望。ラルディーリーさんを止める為の最後の切り札だ。
そんな私をファナちゃんの目の前で殺すことによって、妹を絶望させ2度とお姉ちゃんに逆らわなくする気だ。
ラルディーリーさんはその点を解っているようで、考え抜かれた多段攻撃や複雑な角度からの攻撃を仕掛けてきている。
それぞれの存在外から別々の技を発動しており、無傷でこの場を収めるのは不可能だった。
一方的過ぎる攻撃に私の体力は次第に減っていった。ライムちゃんは今すぐにでも私を回復させたがっていたが、ライムちゃんの安全を考慮し、後ろへ下がらせている。
回復が出来ない状況は困難さを高めているが、それよりも厄介のが……
「次はこの技なんてどうかしら?」
そう。ラルディーリーさんは死体から影を抜き去り、技だけでなく生きていた頃のモンスターの全てを操っている点だ。
「この子はどぅ? ふふ。私もテイマーらしいかしら?」
ラルディーリーさんの周りにぐるりと長い存在外が姿を現した。匂いはせずとも、存在外から放たれる圧の匂いでわかる。
一見、サーペントのように見えるが、あの影は恐らく、私たちが出会った個体とは別物。他の洞窟で殺されたBOSSもしくは、強化された個体なのだろう。
『見た目が似ているから
必要以上に距離を詰めずに、警戒を怠らずに遠隔からの攻撃に徹する私。ラルディーリーさんの体力を徐々にではあるが減らしていった。
「素敵ね……貴女は常に私を見てくれている」
「勿論だよ、ラルディーリーさんに『降参』の言葉を引き出すまでは、ね」
「有りもしない光に踊らされるのは……不憫よ、カグヤマシイナ」
確かに一利ある。月だと思い込み、街灯に群がる虫のように。栄光だと信じこみ、突き進んでいる先は破滅への道かもしれない。
だからって、歩みを止めるわけにはいかない。
ラルディーリーさんの行動パターンから薫る戦術の
考察しなくとも無意識に貴女の情報は香りとして情報が入ってくる。
だから私にだけ解る。
次のラルディーリーさんの行動は……
私の脳内に導きだされた
殺意のベクトルが私から薄れるのを感じ取ったからだ。明らかにターゲットを変えたラルディーリーさん。
まだ匂いを確認できないままのラルディーリーさんから、とある香りが漂ってきた。
血を好み、生きた人間を獲物にしていそうな怪しい匂い。玉座から漂う『呪われ』の匂いが。
「ファナちゃん、逃げてっ!!」
私は全速力でファナちゃんの元へと向かった。
知られていたのだろう。ファナちゃんの身に危険が及べば、私は身を挺して彼女を守るという事実を。
ファナちゃんの影に潜んでいたのなら、私の行動パターンは読まれていてもおかしくはない。
だが、『ファナちゃんが狙われる可能性』については私は既に予測はしていた。ファナちゃんへの攻撃をちらつかせ、私を誘き寄せる策ならラルディーリーさんでも採用するだろう。
彼女は狡猾であり、策士家だ。妹を囮にすることも平気なはず。
だがそれは、あくまでも『ラルディーリーさん』の場合だ。
今のラルディーリーさんはラルディーリーさん本人ではない。彼女がもし『ヴァンパイア』として行動しているのであれば、ファナちゃんをも殺すことを躊躇ってなどいない。
この殺気から感じる匂いは、ファナちゃんを『誘き寄せる餌』ではなく、本気で命を奪おうとしている匂い。
例え、これは迫真の演技だとしても、ここまで殺意に満ちた
「お姉……ちゃん」
視界いっぱいに存在外の影が上空に拡がっているのであろう。
存在外に取り込まれる直前に、私はファナちゃんを抱きしめる事は出来たのだが、2人はそのままは黒い液体に飲み込まれ、意識が遠退いた。
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