第20話 存在外への対策よりも金欠の匂い?

「困りますよ、ファナさん。これからは無闇に街中で魔法を発動しないで下さい」


 ギルド管理組合に呼び出された私とファナちゃん。気分良く訪問したら直ぐに別室へと呼ばれ、受付のアーリエさんから注意を受けてしまった。


 何故ファナちゃんが怒られているかは良くわからないけど、聞くところによると街中で使用が禁止されている魔法の内の1つをどうやら発動していたらしい。


 アルハインの街では魔法犯罪に繋がる可能性がある【対人操作系の魔法】は禁じ手とされている。もし、街中で発動した場合、魔法の発動を感知できる警備隊が駆けつけるんだって。魔法の種類まで判るらしいから凄い部隊さん達だ。


「まぁまぁそのあたりで許してやってはくれないか、アーリエくん」

「く、組合長。ですが、我々はギルドを管理している団体ですので、禁じ手魔法の使用は厳罰対象……」


「なぁに。街に危害を加える気がないんじゃ。それに、ファナくんもシイナくんも存在外の探索及び討伐に多大なる貢献をしてくれているのじゃぞ」

「そ、それはそうですが……」


 あぁ。怒っていたときのアーリエさんの表情も可愛かったが、上司から注意を受ける姿も可愛いなぁ~。間接的に『私は今無防備ですのでどうぞお好きなタイミングで嗅いでください』っと誘っているようにしか見えないよ。


 もうさっき嗅いだけどね。


「なぁに、ファナくん。君だって使用しなければならない理由があったのじゃろ? 建前上注意はしたが、気に病む事はないぞ」

「気に病むわよ!! 変態シイナに居候されては、落ち着いて寝れないわよ~。あんた達ギルド管理組合なんでしょ? この要注意人物を野放しにしていたら、アルハインの街中がモンスターだらけになるわよ!!」


「あっはっは。まさかな」

「ちょっと、真剣に考えなさいよね!! コカトリスがどうなったか、後日談知らないでしょ?! 私の家にいるわよ?!」


「あっはっは。まさかな」


 どうやらファナちゃんの中では私の評価は低いようでして。私が不甲斐ないFランクの駆け出し冒険者の端くれの、末端にいる初心者+他世界から来たからまだ信用されていないのだろう。


 そして、ローガンさんも悪いおひとだ。組合としては、街中にモンスターが住み着いているとなると、責任を負われる立場でも有る。私が街中でライムちゃんを連れていたり、鶏冠とさかさんがファナちゃん家にいる事も、『組織としては把握していませんでした』としらばくれるご様子みたいだ。


 ファナちゃんの必死の訴えに対し、言葉でかわそうとしているローガンさん。ファナちゃんは不服そうな目で彼を牽制していた。


 しかし、ファナちゃん。案ずることなかれ。私のモンスターおともだちはいつも貴女を御守りするようお願いしてありますよ。


「ローガンさん、私達を呼び出した案件はこれで終了……ってわけじゃないんでしょ?」

「……ふっ。シイナくんは本当に察しがいいのぅ。事件に対する嗅覚はAランク級じゃのぅ」


 嬉しそうに髭を触りつつ締まってあった紙を取り出し私達の前にゆっくりと置いた。


「ロ、ローガン組合長! 極秘資料ですよ?! シイナ様達とはいえ、ご自重ください」

「なぁに、アーリエくんに見せようとしたんだが『うっかり』この場に置き間違えてしまったようじゃ」


 豪快に笑ってはいるが、やっている事は組織的にはマズい事のようだ。だが、組合長さんの信用度を下げてでも、私達に見せておきたい案件ということは理解した。


 私は置かれた資料の全てに目を通した。


「結果……出たんですね、ローガンさん」

「あぁ。シイナくんとファナくんの頑張りを無駄には出来ぬからのぅ。調査できそうな件は全てさせてもらった」


「ちょっと。私の知らない間に何を調査していたっていうのよ?」


「これだよ。ライムちゃん、お願い」


 私の合図により、ライムちゃんは擬態し、これまであった存在外の姿になってもらった。


 黒猫の姿に、球体型の姿。液状化しながら移動したりなど、基本的な動作を命令のなのもとで一通り。


「うっむ……君達が遭遇した存在外は形をかえ行動し、そして暗闇を好みファナくんのマナを吸い取るなど行動を見せていた。全ては影を利用して……のぅ。報告では宿屋でも影に潜み行方を眩ました。そしてこれじゃ……」

「ま、まさかこれ……」


 ファナちゃんが言葉を詰まらせたのも無理はない。私が事前に持ち帰り、ローガンさんに引き渡した液体は紛れもなく存在外そのものだからだ。


「これ……生きてるの?」

「いや……正式には『機能していない』が正しいじゃろう」


 ファナちゃんの質問に対し、ローガンさんは即答した。この場にいる皆で取り囲むようにして眺める1つの瓶。中には小さな黒い液体が呼吸するかのように少し膨らんでは萎むを繰り返していた。


 動いているのであれば、ファナちゃんの感想は正しい。それでも尚、否定できるローガンさん。私は質問せざるをえなかった。


「機能していないという事は、きっかけ次第ではこの物体は機能してしまうってこと? であれば、この存在外は誰かが操っている可能性もあるってこと?」

「……恐れ入ったわい。まさかここまで察知できるお前さんの能力が末恐ろしいのぅ」


 さっきローガンさんが見せてくれた資料はあくまで成分検査結果だ。【計測不可能】という文字が多くの項目で記載されていた。だけど、ローガンさんは何かを掴んでいるようだと私にはそう感じ取れた。


「そう。この存在外は、こやつ単体では意識を持たぬようじゃ。別の指揮系統と連動して始めて成り立つ物体のようじゃ」


「意識を持たない動く物体……自動で動く。もしかして、機械ですか?」

「……シイナくん。機械キカイとは何かね? この世界の言葉ではなさそうじゃ」


「あ、そっか。異世界だから機械を知らないのか。んうぇ~と、決められた電気信号により自動で動くロボット……いや、硬い物体かな」


 難しい。機械に詳しくない私に、機械の説明だなんて話せるわけないよ。


「自動で動く物体?……古代技術にオートマタという自動で動く物体を利用し発展した文明もあったようじゃ。今ではその存在を確認出来ぬがのぅ。存在外はオートマタとは性質は違うようにワシは思うのぅ」


 何でも知っているローガンさんでさえ、判らないようだ。


「そっか……」

「何、心配せず大丈夫じゃ。この世界には他者を操る者の存在は何パターンもある。人形等を操る『操り師パペッティア』に、モンスターを操るテイマーのお前さん達のようにのぅ」


「もしかして、操るのが得意な私達をまた疑っているんじゃないわよね?」


 ファナちゃんの鋭い視線がローガンさんに対して向けられていた。


「はっはっは。お主等に極秘情報をわざわざ伝えておるのにか?」


 豪快に笑い、この場を去ったローガンさん。


「ご安心ください。お二人の活躍に期待されているだけですよ。むしろ、期待しすぎて、私の制止を振り切って勝手に内部情報をシイナ様達にお伝えされるのは困りますが……」


 受付嬢アーリエさんは肩を落としながら困った様子を見せていた。


「用は済んだわよね?」

「あ、はい……お越しいただきありがとうございました。今後ともよろしくお願いします」


「説教しておいて、何が『よろしく』よ。シイナあんたからも何か言いなさいよ」


「あの……あの……」

「そうよ、シイナ。たまにはガツンと言いなさい」


「あの……餌代を稼ぎたいので、高収入で短期の依頼クエストを私達に斡旋してください!!」

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