第10話 忠告と不確かな情報に怪しい匂い?

「あっはっは。だから俺は初めから言ってたろ。ソロで依頼を受けるのは『止めとけ』って」


 美味しい料理を頬張る私に対し、料理長のダダンさんは笑い飛ばしていた。


 この店に通い始めた時は空腹を紛らわせる為に訪れていたが、最近では用途が少し変わった。依頼クエストが達成出来ず凹んでいる私。愚痴を溢したくて、鬱憤を発散したくてダダンさんの店に足を運んでいる。


 人喰いダケの依頼が成功して以降、依頼のクエストに何度も失敗している私。


 2日前は、逃げ足の速い害鳥の駆除依頼に失敗し、昨日は、路を塞ぐ重い岩の破壊依頼に挑戦したが断念し、今日は迷子のペットの捜索クエストだったが、無事に失敗し無報酬で終了の時刻を迎えた。


 この3日間、ノーマネーでフィニッシュ。冒険者としての自信を完全に失った私は無言でダダンさんの店に駆け込んだと言うわけである。


 そんな私の失敗談を聞いて、嬉しそうに腹を抱えて豪快に笑ってくれるダダンさん。


 最初は悔しかったけど、惨めな私の成績に対し慰めてくれるより、豪快に笑ってくれる方がスッキリする自分がいる。


「はぁ……人喰いダケの依頼はマグレだったのかなぁ~」

「マグレでも奇跡きせきでも酒席しゅせきでも何でも構わねぇさ」


「良くはないわよ。Fランク単独ソロで受注できる依頼クエストって案外少ないんだからね?!」


 そう。本当に少ないのだ。またギルドを組めば誰かに迷惑かけちゃう。ダダンさんのように優しくおんぶしてくれる人はなかなかいない。


 ダダンさんは「店が終れば俺が一緒に行ってやるだろ?」とは言ってくれるのだが、一日中鍋を振っているのに、その後も働いてもらうのは申し訳なく思ってしまう。


 サーマルさんにお願いしようかなと、アルハインにある剣術道場を覗こうとしたんだけど、最近は【臨時休】の貼り紙が貼られているまんま。


 サーマルさんどこに行っちゃったのかな。


「あの人喰いダケ、やはり亜種だったらしいぜ。魔法系を操る人喰いダケの遭遇例は0。世界初の事例。上級冒険者パーティであっても全滅しててもおかしくないレベルの案件さ。だけど俺達は勝利し、また飯にありつける。少々の失敗なんか屁でもねぇさ、わっはっは」


 ダダンさんが次に持ってきてくれたのは、アルハイン名物のピザ。こんがり焼けたチーズの香りが私の食欲をそそる看板料理だ。


 私は失敗を食らい尽くすかのように豪快に頬張った。


「おっ、いたいた。豪快にやってるのう」


 背後から聞こえてきた声に私は敏感に反応した。声の主は、ギルド管理組合長のローガンさん。相変わらず低いバリトンボイスでやってきた。


 無駄に響く声が私のお腹にも響く。いや、ローガンさんが響いているのは声だけでない。


 私がことごとく依頼書のクエストを失敗している為、ギルド管理組合全体の信用度も少なからず影響している筈だ。


 依頼をまともに成功させられない、クズの冒険者を率いる『ポンコツギルド管理組合』。


 そんなレッテルを貼られては困る為、組合側としては今後私に依頼を斡旋してくれなくなるだろう。

 

 渋られては困る。私はお金を稼げぐことができる唯一の手段である依頼クエストを拒否されては、明日から私は何を食べて生きればいいのかわからない。


 いや、食うものはダダン飯がある。今後困るのは衣・住の方だ。私が利用しているアルハインの宿代は馬鹿にならない。


 せめて野宿をするのであれば身体全体がもふもふのモンスターをテイムし、埋まりながら包まれつつ、くんかくんかしながら寝ていたい。


「なんだ、折角出向いたのに連れない様子じゃのう」

「ローガンさん。やっぱり私が目的ですか? ランクダウンですか? 報酬割合ダウンですか? 斡旋制限ですか?」


 愛想のない声での返答。傷心中の私は今はダダン飯の匂いで癒したい。依頼クエストで悩むのは今は避けたいのだ。


「生憎、Fランク以下は設けてはおらぬさ」


 尚、依頼書に記載されている報酬金額は保証金額でもあり、掲載額を下回るような取り決めや采配は無いとのこと。


「お主にも話しておったじゃろう。『何者かが何者かを従わせモンスターの殺戮をしておる』と」


「えぇ。人喰いダケの依頼の前に組合長ローガンさんから聞きましたよ……まさか、あの人喰いダケが犯人ですか?」


「いや、そこまで断言は出来ぬがおそらく違うじゃろう」


 ローガンさんの話では、モンスターが作為的に、そして大量に狩り殺されている不可解な現場がいくつか発生しているとの事。


 モンスター同士の衝突は良くあることなのだが、それはあくまでも好戦的なモンスター同士が争っており、周りにいた他のモンスターは傍からすぐに逃走し、生存を優先している。


「人間が経験値や素材集めに狩っている線は?」と組合長さんに尋ねてみたが、その線も薄いと断言された。素材を集める為にモンスターの体から抽出すれば、モンスターは核を失い、光の粉とかし昇天するらしい。


『素材も抜かれずに、死体のまま大量に転がっている』


 不可解な現場にギルド管理組合側も頭を悩ませているらしい。『異変』と捉え動こうにも手がかりはなく、『異常事態』と言う程誰かが被害を受けているわけでもない。


 結局の所、ギルド管理組合へ『依頼』という形でお願いされない限り、組合側もなかなか独自調査に踏み出せない現状があるのだとローガンさんは酒の席で教えてくださった。


「それにしても、テイムしているモンスターの技を主であるお前さんが発動できるとはのう。お前さんの亜種テイマーの職業ジョブは奥が深いのう。のう、ちび助よ」


 そう言って、私の肩で透明化し隠れていたライムちゃんを指で摘まみ持ち上げマジマジと観察していた。


「私のライムちゃん、酒のつまみにしないでくださいね。食べちゃったら、それこそローガン組合長さんがモンスター狩りの真犯人なのではと疑っちゃいますよ?」


「ワシが……か? わっはっは!! これは若いのに一本取られてしまったわい、わっはっは!!」


 声を出して笑いだすローガンさん。


「ダダンさん、この組合長ローガンさん、お酒で出来上がっちゃってますよ? 店の外につまみ出して下さい」

「はははは。命の恩人の嬢ちゃんの頼みでもソイツは無理な注文だな。何せローガン隊長は、ワシが所属していたギルドのリーダーなんだからよ」


 ダダンさんとローガンさんは元ギルドメンバーだったらしい。その事実を聞いてわかった。私が人喰いダケの討伐に行くことになったときも、ローガンさんからダダンへ直接香山のサポートをお願いしていたのだろう。


「私の冒険者登録も剥奪せず、ライムちゃんも食べないとなれば、他に私に何のご用ですか?」


 痺れを切らせた私は再度質問するとローガンさんは真面目そうな声で答えた。


「ダダンの報告では、キラービーの技の発動後にマナが尽きたらしいな」


 マナとは、発動者が剣技や魔法を唱える際に必要な体内エネルギーを指しているらしい。駆け出しの冒険者である私はまだマナ量が少なく、それで体力の限界が直ぐに来たとの指摘だった。


 薬草やライムちゃんの回復スキルは、身体の傷や状態を治せても、体内にあるマナ量も回復するわけではどうやらなさそうだ。


「お主は経験値稼ぎも兼ねて、ダンジョン探索をお願いしたい」

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