第30話 会いたい気持ちからは決意の匂い?
「気にしても仕方ないだろ」
「だって……」
落ち込む私に何度も声をかけてくれるヘカティアちゃん。ファナちゃんがこの部屋を出てからまた数日が過ぎた。
前回の行方不明の時も心配したが、今回は違う。『部屋は好きに使っていい』と言ってくれたあの時のファナちゃんの表情が脳裏にこびりついては一向に離れようとはしない。
切ない表情で笑いながら向けられたあの顔を。これから消えることを知っててのあの表情だ。
私の事を心配してくれているのはヘカティアちゃんだけではない。コカトリスの
ライムちゃんだって、私の頭に乗ったまま回復してくれていたり、ファナちゃんに擬態し、匂いまで再現してハグしてくれたりする。
皆に心配かけてばかりの私は駄目なFランク冒険者なのだ。
一番辛いのは私なんかじゃなくて、あんな表情をしていたファナちゃんなのに。
コンコン。
ドアを叩く軽い音が部屋に聞こえてきた。しかし、私は全く喜びはしなかった。
ファナちゃんだったら、自分の部屋に入るのにいちいちノックなどしない。
ガチャリと音がして、恰幅のいい人影が入ってきた。
「入るぞ……お、やはりお前さん達はまだここに居ったのか」
中へと入ってきたのはローガン組合長さんと、アーリエさんだった。おじ様1人が女性の部屋を訪問するのは相応しくないと判断し、アーリエさんに同行をお願いしたらしい。
ローガンさんは女性に対し
むしろ、疚しい気持ちや下心があるのは私の方だ。同性、異性の枠に囚われず、モンスターや植物、更にはヘカティアちゃんの影でさえ嗅ぎ散らかす問題児、それが私だからである。
探求心とは恐ろしいものである。
求めれば求める程、要求レベルが高くなる。加えて、『
今はファナちゃんの匂いが不足しており禁断症状まっしぐらだ。
彼女が安全である保証が今すぐほしいよ。
「聞くまでもないが、ファナ君はまだ帰っておらぬようじゃのう」
「既に帰ってきたらこんな顔しませんよ」
「そうじゃな。ではそのファナ君に関する話をするとしよう。辛い話かもしれぬが聞く覚悟はあるかの?」
「大好きなファナちゃんの為なら何でも聞くよ……掛け替えのないパートナーだからね」
私の覚悟を聞き入れてくれたローガンさんは直々に話してくれた。
「……以上がギルド管理組合側で把握しておる情報の全てじゃ」
私には信じられな言葉を聞かされた。ファナちゃんと存在外には繋がりがあることがわかった。ファナちゃんにはお姉さんがいるのだが、そのお姉ちゃんと共にスタンピード等で暴れているモンスターを討伐する団体『カルネージ』に所属しているらしい。
そしてお姉さんの
「もし、ファナちゃんのお姉さんがネクロマンサーだとしたら……」
「あぁ。ワシがシイナ君と出会った頃に伝えていた『モンスター以外の何者かがモンスターを殺している』と言っていたあの案件とも合致する」
カルネージがモンスターに対して良く思っていないのではあれば、行動理由としては完璧だ。
「可能性がある……と言うことは断言はまだできないという事ですよね?」
「勿論じゃ。存在外を操り街を襲った理由も不明なままである。加えて、君達の話ではファナ君は存在外に何回も襲われておるしのぅ」
その通りだ。お姉さんが生み出した存在外なのであれば、妹のファナちゃんを襲うのはおかしい。
ネクロマンサーは存在外を召喚するだけで、主の命令に従わないのであれば、ファナちゃんが独りでいるのは危険すぎる事にもなる。
「併せて、各地のBOSS級モンスターが存在外に襲われている事案が頻発しています」
アーリエさんはそう言い、大量の依頼書を見せてくれた。
「この他にもまだまだ沢山あってのぅ。君達も手伝ってはくれぬかのぅ」
「ははは。君達って、僕も含まれているのかい? 僕は他種族だぞ」
「構わない。BOSS級モンスターが襲われ、影を抽出されればパワーバランスが崩れてしまう。我々人間だけではなく、多くの種族の存続に関わるやもしれぬ」
「他種族をも守る一大事ねぇ……以前、君が暴れ狂う神獣を制圧してくれたのと同じかい?」
覗き込むようにローガンさんを見つめるヘカティアちゃん。
「これこれ、あまり年配をからかうでないぞ、ヘカティア君。ワシは神獣と闘っただけで制圧などしておらぬ」
「いやいや、僕は歳をとらないだけで、君よりは長く生きているつもりだ。ゴーストだけどね」
眼を合わせ2人して笑っていた。
ローガンさんとヘカティアちゃんは、この世界で長く過ごしている者同士ということもあり、会話の波長があっているようだ。
アーリエさんが持ってきた依頼書を見ると、どれもがモンスターのパニックやスタンピードの類いであった。
奇跡的にアルハインの近郊で起きていないのが幸いだ。だけど、アルハインの街にとって幸いなだけで、他の街に住む人や、他種族、それにモンスター達にとっては死活問題だ。
私は依頼書の束を受けとると、ヘカティアちゃんの手をひいた。
「行こう、ヘカティアちゃん。依頼書を辿ればファナちゃんに会えるよ、きっと!」
「やれやれ、シイナもファナも僕を困らせるのが上手だね」
「すまぬ。我々側が持っている依頼書が片付きし次第、君達と合流できるよう努めるつもりじゃ。くれぐれも無理だけは止めておくれよ」
「シイナさん、コカトリスさんのお世話は私に任せてくださいね」
「うん、ありがとう!! ファナちゃんを無事にアルハインの街に連れて帰るまで無茶してでも頑張って来るからっ」
そう言い残し、ヘカティアちゃんと一緒に扉を出た私。
室内で指を咥えたまま待っているだけでは何も始まらないし、終わっていることさえ気づかない。
ファナちゃんに会えるチャンスがまだ残されているのであれば、自ら行動するべきだ。
諦めるのは簡単だ。
泥臭くとも簡単に諦めない事で、思いもよらない好機に出会えることだってある。
ラッキーだろうと、
まぐれだろうとなんでもいい。
『ファナちゃんに会いたい』という願いが叶うのであれば、過程なんて問わない。
私は腹を括り前を向いた。
「さぁ、ファナちゃん捜しに行こうっ! ヘカティアちゃん」
「やっと君らしい顔つきになったじゃないか。面白そうだから、今回も君に手を貸すとするよ」
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