第5話 亜種テイマー、初出動は蜜の匂い?
「な、何が『初心者におすすめなんですよ~』だ。ギルド管理組合まで戻ったら、アーリエさんを骨の髄まで嗅ぎ倒しちゃうんだから!!」
私は文句ばかりを垂れながらも必死に逃げていた。
確かに薬草採取は簡単な
蝶も優雅に舞う中、小川のせせらぎを聞きつつ鼻歌交じりに薬草部分になる草を採取をしていた私。
「あ、この世界にも昆虫がいるんだぁ~ふふふ」
こんな優しい一時が最初から最後まで続くのであれば、初心者向けだ。
薬草花を眺めながら「強くなったら、どんなレアアイテムと出会えるのかなぁ~。レアだから良い匂いなんだろうなぁ」なんて妄想を抱きながら作業を進めていた。
……が、実際は違った。作業中に突如現れた大型蜂モンスターが私を狙ってきたではありませんか。
武器も無い。
魔法も詠唱できない。
モンスターからの攻撃を持ちこたえる体力も無ければスキルさえない。
「逃げる……しか」
私は間一髪でモンスターの攻撃を避けることに成功した。……成功といえば聞こえがいいだけで、実際はと言うと、石に
転けた表紙に鼻が低くなったらどうするつもり?
苦しい局面ではあるが、わかった事もあった。
以前、スライムのライムちゃんとの『
何故レベルアップしたかは不明が、そこで、動体視力と脚力の数値を上げておいた事が功を奏す。
超巨大スズメバチさんの大群による攻撃が目視で認識できるようにまでなっており、自分の足で回避することも多少可能になっていた。
好戦的なモンスターとの対峙はこれが初めてではないが、敵の間合いの外に居続けることに成功している事や、避けることが出来ているのは能力値を上げた影響だろう。
しかし、避けているばかりではモンスターに勝てる事はできない。薬草を無事に街まで持ち帰るには、乱入してきたこのモンスターをどうにか対応せなばならない。
「勝つ秘策が必要なんだ……」
目の前にいるモンスターとの戦闘に集中する。これが、私が今するべき内容であり、対応であると疑いもせず考えていた。
背後から這い寄る悪夢を目の当たりするまでは。
何か特別な音が聞こえたわけではない。勿論、攻撃を受けたわけでもない。
迫り来る殺気という『圧』を全身に浴びた私。振り返るとそこには別の
いや、『モンスター』という括りにしてはいけないのかもしれない。巨大蜂型のモンスターさんとは違い、単独で現れた一匹の蒼いドラゴンは、蜂型のモンスターを咥えている。
脛椎を仕留め終えた状態で咥えてはいたが、そのまま咀嚼するわけでもなく、無抵抗だと解ると吐き捨てるかのように近くの草むらへ。
「ギュオオァァァァ"ァ"!!」
蒼色のドラゴンは目の前にいる私に対し咆哮を浴びせてきた。ここまで巨体の生き物が目の前で動いている事に動揺した私は、身動きが取れずにいた。
ドラゴンの尾が鞭のように
短い間の出来事であったが、私はこの時に死を予感した。現実世界で、車にひかれる瞬間と似たような感覚に。
そんな時、とある鳴き声が聞こえた。
「キュッ!」
ライムちゃんの声。ライムちゃんの身体が膨れ上がり、私の身体を保護するかのように覆い被さった。
大きな衝撃と共に身体が吹き飛ばされたのはそのすぐ後だった。
私の身体は黄緑色の球体で覆われていたので、何度も何度も弾んだが、あの衝撃を目の当たりにしても無傷でいられた。
そして驚いたのは、巨大蜂型モンスターに追いかけ回されたときに擦りむいた傷が、ライムちゃんに覆われた事で完治していた事だ。
ライムちゃんは私を護って……くれたんだ。
「ライムちゃん!」
私は必死にライムちゃんの名を呼んだ。
「キュ?」
「……へ?」
何事も無かったかのように純粋な眼で私を見つめるライムちゃんの姿があった。蒼いドラゴンの尾で吹き飛ばされても傷一つ残していない。スライムって本当は凄い存在なのでは? と初めて感じた場面でもあった。
蒼色のドラゴンは、突如翼を拡げ大空を飛び去って行った。いや、正確には蒼色のドラゴンが上空に行った際に、黒色のような怪しい物体もあり、それを追いかけるようにこの場を後にしているように見えた。
何れにせよ、脅威は去った。目の前には蜂型モンスターの死骸が一体転がってはいるが、薬草花は何事も無かったかのように揺れており静けさを取り戻していた。
蜂型モンスターは恐らく蒼色のドラゴンから逃れるかのように逃げ回っていたのだろう。そこへ私が偶然にも運悪く居合わせたようだ。
ドラゴンさえいなければ、また私の知る平穏な日々が……戻って……
いや、違う。まだだ。
ドラゴンの脅威から逃げていた蜂型モンスターで生きている個体はまだ複数体いた。飛びながら逃げた方向は確か、東の方角。
街があるアルハインの方角だ。
私とライムちゃんは、急いで街へと戻った。
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