第4話 来館目的はアーリエさんの匂い?
腹ごしらえは不十分だけど、状況を飲み込むだけで精一杯の私。お金も無く、食べ物も無くなった今、私がするべき行動はただ一つ、ギルド管理組合のアーリエさんに会いにいく事だけだった。
私の
彼は素敵な残り香を残してまた消えた。
「ふぅ。ヘルメス君が去ってそろそろ30分くらいか。ヘルメス君匂いも無くなった事だし、アーリエさんの匂いでも嗅ぎに行こうかな」
ヘルメス君は上品な香りが特徴でいて、且つ繊細な匂いでもあった。すぐに消滅してしまうような切ない匂い。
まるで一夜で枯れてしまうサガリバナのように甘く特別な香りのよう。彼が去ってから暫くの間、残り香を堪能するためだけにこの場に滞在していた私。
そんな彼の匂いも良いが、ギルド管理組合の美人受付嬢アーリエさんの匂いも捨てがたい! ヘルメス君とは対照的に、アーリエさんは、誰もが好感を持てるような友好的で明るい匂いだ。
溌剌とした活発さを感じつつも、優しく甘い匂い……ついつい、無駄話をしてでもずっと嗅いでいたい香りだ。
私は、冒険者登録という大事な任務の事なんて忘れてしまい、アーリエさんの匂いが恋しくなってきたので、急ぎ足でギルド管理組合の建物まで全速力で移動した。
「アーリエさんは……アーリエさんはいますか?!」
建物に入るなり、名指しでアーリエさんを呼ぶ私。私からのご指名入りましたよ~。
「ど、どうされたのですか、
私の声に驚いて駆けつけてくれたアーリエさん。間近で見て気づいたのだけど、きめ細かい肌に潤い!! すりすり、くんかくんかしたい……。
私の
「改めて私の冒険者登録のお願いに来たんだけれど」
「えっと、
「あぁ、職業ね。さっき確定したから来たよ。それと私の事は『シイナ』で呼んでくれていいよ」
「……えっ?」
驚いた表情を見せたアーリエさん。口を手で押さえ驚きを隠しちゃうあたり、本当に可愛いなと
「神官様がこの街にお越しになられるのはまだ先の筈……」
「えっと、ヘルメス君から引き出してもらったの。名前は確か、ヘルメス……あ、! ヘルメス・レターソン君だったような」
「ヘルメス様?
ヘルメス君の名前を出した途端、アーリエさんの表情が弛み笑い声が漏れていた。
「ヘルメス君と知り合いなの?」
「知り合いも何も『ヘルメス・レターソン』というお方は、何百年と続く【神官】という神職の仕組みをお作りになられた伝説の神官様のお名前ですよ? 未だにご存命だなんて
アーリエさんの言葉を聞いて私は背筋がゾクゾクとした。私が出会った彼は確かにヘルメス・レターソンと名乗り、私に職業を与えてくれた。彼が何百年前の人間のようには全く見えなかった。私は騙されたのだろうか……
そして、死者ならなんで空腹だったんだろう。ってか、返しなさいよ私のホットドッグ。
「じ、じゃあ、私の職業も幻……だとか?!」
「だから、神官の方がお導きにならないと駄目で……あれ、嘘……」
私を調べ初めてくれたアーリエさんの表情から笑みが消えた。何かと照らし合わせて確認をしているようだけど、私には何をしているかわならなかったので、とりあえずどさくさに紛れてアーリエさんの背後に回り、髪を手に取り嗅いでみた。
「あ、亜種テイマー……」
「くんかくんかく……そう、ヘルメス君も確かそう言っていた気がするよ。でも違うかも知れないからゆっくり時間かけて調べていいよ」
そう。その間に、アーリエさんの匂いを堪能する。調べものをしている時のアーリエさんは集中しているせいか、私が接近して嗅いでも気づいていない様子だった。私は、怒られても良いやと腹を括り、背後からアーリエさんのあらゆる箇所を嗅ぎながら待つことにした。
「こ、こんな
「くんか、すーは、く……えっ? じゃあ、登録はまた延期……なの?」
「あ、いえいえ。それはございません。神官様からお導きされている称号の確認が取れていますので、手続きには……問題ありませんよ」
こうして、私はギルド管理組合の冒険者として正式に登録され、ここに集まっている依頼を受ける事ができるようになった。
この室内には大きな掲示板があり、多くの貼り紙が所狭しと貼られていた。アーリエさんに聞けば、これ全部依頼書なんだから驚き。
「すっごくいっぱいある」
「ふふふ。冒険者であればお好きな依頼を受けても良いですよ……と言いたい所なんですが、危険度や困難度、ジャンル等によっては、
少し残念。早く厳つい野生のモンスターと対峙して匂いを嗅がねばと思っていたのに。そして、アーリエさんが無防備だった間、彼女の匂いの全てを嗅ぎ散らかした。クエストで例えるなら
『アーリエさんの匂い完全制覇』だ。
ふふふ、アーリエさん。
私は貴女の匂いの全てを知り尽くしてますよ?
「これなんてどうですか? 薬草採取! 初心者の方にお勧めなんですよ~」
駆け出しの私の身を案じてくれたのだろう。アーリエさんは一番簡単そうな依頼書を外し、私の所まで持ってきてくれた。
そんな彼女の行為を無駄にするわけにもいかない。それに、またアーリエさんのいい匂いも味わえたから良しとしようじゃないか。
私は「それにします」と笑顔で応えた。
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