第7話 ギルド名と初依頼の匂い?
「モンスタークンカーはどう?」
もうこれで7案目である。いよいよ、しっくりする名前など出る筈もない。私のアイデアは既に枯渇しているからだ。
カラカラに干からびた砂漠から瑞々しい果実が実らないのと一緒だ。
対して、
「『語らずの操り
ファナちゃんも嬉しそうに案を出してくれていた。そして、わかった。
【ファナちゃんって意外と中二病】なんだと。
ギルド名だからこそ、勢いをつけたいのか無駄に難しい単語を並べてくるではありませんか。
私達のどこに
ファナちゃん。
【アルハインの街がモンスターに支配された】というレッテルを剥がす為に奮闘しようとしている私達が『魔獣を従えし解き放つ者』なんてギルド名だったら、アクアティカに厄災をもたらす感満載じゃない。
私はラスボスか。
リレイ組合長さんも、サーリエさんも流石に受理してくれないよ?
「大型
「シイナっ! 種族間の
サンク……えっ、私憶えられないんで、ノーサンクチュアリで。
「あの……」
見かねたサーリエさんが、まだギルド名は空白のままでも構いませんよ? と優しく促していただけた事により、ヒートアップしていた私とファナちゃんは一旦落ち着いた。
サーリエさんの話では、ギルドを結成する際、上級冒険者や中級冒険者が何人所属しているか、または構成する人数の割合等が考慮されるらしい。
少人数ギルドではあるものの、構成員の割合から言えば、私達のギルドはA級の冒険者のファナちゃんがいるので、上級冒険者の割合が50%と表記される。
その為、E級の私がソロで依頼を捜すよりも多くの案件に触れられる機会も増える。
「どれにしようかな~」
「ちょっと、待って! 今回は私が選んでいいかしら?」
「どうしたの? アルハインの時に比べて自発的じゃない」
「あったり前でしょ! あんたに任せてたら、街中の
あははは、それは無いですよ、ファナちゃん。同じギルドメンバーの身の危険に晒すような事は致しません。
「まずは、これ!!」
【溜め池の外来主を討伐せよ】
ファナちゃんが指差していた依頼書名がそれだった。
「あぁ、えっと。その依頼は、お二人はちょっと辞めといた方が……」
「大丈夫よサーリエ、場所さえ教えてくれたらサクサクっと討伐するから。それからシイナっ、討伐は私に任せて。スカンクに追いかけられたり、猪に追いかけられたりと逃げてばっかりでストレス溜まっているから」
いやいや、ファナちゃん。モンスターは怒りの捌け口ではありませぬぞ?
でも、依頼書の説明文を読んでいる限りでは、溜め池付近を通る人が襲われたり、夜中にモンスターの鳴き声がうるさいだの、いろいろ被害があるらしいので『懲らしめる』としては良いのかもしれない。
『モンスターさん、どんな匂いかな~』
神獣やラルディーリーさんとの大戦を終えた私達は少々気が抜けていたのかもしれない。
現場に着き、討伐対象と出会った瞬間、ファナちゃんの悲鳴がこだました。
「い"ゃあああああ!! 来ないで~!!」
出陣前の威勢は既に
対して、堂々と溜め池の前に陣取っていますのは、超巨大ガエル型モンスターが一体。
【ギガントード】
見た目はグロテスクさや狂暴さは感じないのだが、ダンジョンや洞窟のBOSSと同等の個体値を持っているそうで。
そして、ギガントードの最大の能力は……
「や、何これ……ぬるぬるして立てな……」
そう。ギガントードはヌルヌルの液を撒き散らし、場を制圧する。奴は、ファナちゃんを敵だと認識するや否や、ヌルヌル液でファナちゃんを無力化していた。
歩行も出来ず、立ち上がれずに
そして私は、
そんなファナちゃんを見て喜んでいた。
いやいや、ぬるぬるに
普段、セクシーさを売りにしていないから逆に、エロさが際立っているんだがっ?!
グレー色のオーバーニーソも粘液で少し変色しているのもヤバいし、何より、あのすべすべの太股が粘液まみれとか、これ何てプレイですか? 新たな扉が開いて、私困っているのですが。
すぐには助けない。
こんな
「シ、シイナ~助けて……」
「うん、待ってね!! 今良いところだから」
「このカエルめ……あんたなんか、私の魔法で……ひゃあ……ちょっと、どこ触って……んっ……」
くっ。なんて所攻めるんだ、あの蛙は! ファナちゃんのウィークポイントである、横腹から背中にかけてのラインを完全に熟知してやがる。
しかも、いっきに
くっ……この蛙さん、わかってやがる。
「あんた、
「何言ってるの?! 早く……んっ……助け……やっ……」
艶やかな声。強気な口調の彼女でさえ、ぬるぬるの前には無力。服従するしか……ないのか。
いい匂いだ。
拒絶の匂いと同時に快楽を我慢する強情な匂い。
それにしても、私はファナちゃんのことは完全攻略していたと思い込んでいた。
だが、ガードが硬いファナちゃんをここまで無力化させる『ヌルヌル』、そして涼しい顔で能力を惜しみ無く操り、甘い声を引きだ足せた、その出で立ち。
この蛙さんはただ者じゃない。いや、私より上だ。
今日からこのお方は、蛙
蛙師匠凄いです。ファナちゃんからは、今まで嗅いだ事のない、大人の匂いがします。
「シイナ……お願い、もう我慢できな……」
「大丈夫、自分を信じて」
「私の代わりに蛙倒して」
「……んぇ?! (
「当たり前でしょ……あんっ……シイナ早くして……おね……がい」
………。
聞こえた。今確かに聞こえた。
聞いたことのない声で私を求める甘い声が。ふはははは、そうだよ、私はそれが聞きたかったのだよ!?
ファナちゃんから全力で求められる声。儚くも願望だらけのその声でっ!!
私の身体に白い光が集まり出す。まだ発動はしていないが、私が発動のキッカケを与えた瞬間に、今日の物語は終わりを迎える。
世の理の総ての頂点に立つ、最速の別れの唄だ。
『オメガドライブ』
蛙師匠、エンドロールはご用意できません。今は華々しく倒れてください。
真っ白な世界が爆発音とともに拡がりを見せる。ただただ、色の無い空間が拡がった。
だが、闇の恐怖とは違い、白の空間は総てを
ドゴーーン。
お腹を見せたまま後ろに反り返り倒れた蛙師匠。ライフゲージこそは僅にだけ残っていた。流石『ヌルヌル界のラストエンペラー』だ。
無駄な鳴き声も悲鳴も、咆哮さえせず、静かに倒れた。その潔さに、蛙師匠の拘りを感じた。
『戦闘の敗者は、語らずして敗北を受け入れろ』
蛙師匠はそれを私に伝えたかったのですねっ! 素敵ですっ!!
こうして、ライフゲージはあるものの、スタミナキルによる気絶という結果を用いて、私達のアクアティカでの初依頼は無事に成功した。
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