第8話 足元からは両生類の匂い?

「凄い……あの溜め池にいたギガントードをFLアタックで討伐しちゃうだなんて……」


 ギルド管理組合で討伐の報告をするなり、サーリエさんは私を不思議そうに見つめてきた。やはり、FLアタッカーは目立つ存在らしく、 FIRST&LUST初手殺し attackerの者はこの街でも前例は少なさそうだ。


「あははは、たまたまですよ~」


「ちっ……何が『たまたま』だ。ふざけた記録なんか残しやがって。あのなぁ、あの池にいるはずのギガントードは、B級がいれば倒せる個体だ。だが、実際倒したのは、その個体ではなく、たまたま居合わせた上位亜種の方だったんだよ。A級の冒険者が束になっても敵わねえ化物だ」


 リレイ組合長さんは、事前に現場に出向き、私達でも倒せる個体かを知ってくれていた。だから私達に斡旋することに黙認していた。だが、私達が行った時に、たまたま亜種の個体が出現していたらしく、通常のギガントードとは比べ物にならない方を私が倒しちゃったようだ。


 他の冒険者が受託しないよう配慮しつつも、レベルに応じて私達に斡旋してくれた所を鑑みるに、リレイさんはしっかりと考えてくれていたようだ。


「……で? アルハインの香山。それは何だよ?」

「ほぇ?! それって?」


「お前の足元から広範囲に拡がる影から、ギガントード亜種とみられる眼の一部が覗かせているのだが、まさか『生きたまま』連れているんじゃねぇだろーな?」


 あははは。バレましたか。

 蛙師匠を治癒し『溜め池から離れてもといた場所に戻ってくださいね』とお願いしたんだけど、


ゲロゲーロヌルヌルに対する拘りゲレーログルゲーロ極めるまで見届けてやろう、弟子よ」とのお言葉を頂戴したので、ひとまず私の影の沼に潜んでいただいております。


 まさか、お師匠様自ら旅の同行に参加していただけるとは光栄でございます。若輩者ではありますが、ヌルヌル道のご指導ご鞭撻、よろしくお願いします。


「凄い……亜種のBOSSモンスターをテイムしちゃうだなんて……」

「サーリエ。香山が使用している、あの影は中々に厄介なスキルだ。俺だから気づいたものの、他の者の探索スキル程度じゃ、影に潜むモンスターの気配だなんて誰も気づかねぇ。亜種テイマーとか前代未聞の職業ジョブだが、どうやらこの影は、それとは違った別のスキルのような気がしてならねぇ」


 ……ヤバい、流石、アクアティカギルド管理組合長さん。怖いくらいの洞察力だ。


「それに昨日、アクアティカの領域ぎりぎり外のところで、天使族のような魔力を感じたとの情報も極秘に入っている」

「て、天使族って種族序列第5位の、あの天使族ですか?!」


 サーリエさんも初めて聞かされたようで眼を丸くしていた。


「あぁ、気まぐれの種族だから天界から降りてきて街を破壊しに来たのかと思ったが、天使族の魔法を検知したのは一回きり。天使族から襲撃された跡もない。登録済みギルドに何チームかに声をかけて警備をしてもらっているが、今となっては目撃情報も被害も何もない」


 リレイ組合長の話では、この世界において【知性を持つ者】を各種族として分類しているそうで、上位種族として天使族が存在し、圧倒的な魔力量を保有している種族がいるそうだ。


 この世界には【最上位族】【上位族】【中位族】【下位族】の4つの位分けがあり、それぞれ4種族ずついる。


 人族は下から2番目の第15位で、勿論下位族に分類されている。ゴースト族はの第8位でギリギリではあるが上位族に位置している。


 ってか、へかティアちゃん。ゴースト族のトップが定住していないのに、上から8番目の種族だなんて凄すぎない?!


(ちょっと、あんたが詠唱した【万能ヒール】でアクアティカが混乱してるじゃないの?)

(……えっ? 天使族の話、私の事だったの?)


(恐らくそうよ。マナを大量消費して万能ヒールだなんて回復魔法を詠唱すれば、誰でも聖属性を操る天使族の出現の噂をするのは当然でしょ)


【あんたはアクアティカでは極力大人しくしていなさい】とお灸を据えられた私。確かに今更『あ、それ私が詠唱した余波です』なんて言える雰囲気ではない。


「最近、ついてねぇな……種族間の小競り合いだなんて避けたいって言うのに、物騒な事件だけは極力勘弁してもらいたいのによ~」


 頭をかきながら困り顔のリレイさん。


「物騒って、何かあったのですか?」

「あぁ、最近お騒がせの『怪盗』だよ、怪盗」


 私は大きなクエスチョンマークを浮かべながら話を聞いていたので、私の反応の悪さにリレイさんが痺れを切らした。


「えっ?! あんた『怪盗S』を知らないのか? 他の街でも有名だが、お前ら本当に冒険者か?」

「えへへ~。依頼クエストとか、モンスター捜しで大変だったので」


「ふん、まあいい」


 リレイさんとサーリエさんからの情報によると、怪盗Sは正体不明の怪盗さん。物をくすねるスキル【スナッチ】を得意としているそうで被害者はこの街でも多いそうだ。


 ギルド管理組合の入口で私達の入館を拒否していたあのおじさんも『スリには気を付けろ』って言っていたけど、あれは怪盗Sの事だったのか。


 スナッチを使用しているが、職業ジョブ盗賊シーフかどうかも確認が取れていない程、怪盗Sだと意識して接触に成功した者はいないとの事。


「それに、怪盗Sに対してはコソ泥以外にも困っていてな……」


 リレイ組合長さんの話では、ここアクアティカの周辺には幾つかの洞窟や廃神殿、いわゆるダンジョンが点在しており、冒険者のメッカになっている。


 また、珍しいお宝も多数発見されていることから人気となり、アクアティカ内の宿屋はいつも満室だ。


 現実世界と違って『ネットで予約』みたいな手法ではなく、当日の受付順だそうで、毎日開店と同時に、申し込みの行列が出来ちゃうんだってっ!


 なんだかラーメン屋さんみたい。


「まぁ、気を付けろ。怪盗Sは神出鬼没な上に手癖が悪い。大事な物を盗まれないよくに気をつ……」

「……ああああああ!! 思い出したっ! 怪盗Sさんかはどうかはわからないけど、スナッチを上手に使う人物に2回遭遇してるよ?!」


 私がそう言うと、受付嬢のサーリエさんが前のめりで質問してきた。


「シ、シイナさん!! それ、詳しく教えてくださいませんか?!」


 紙とペンを持ち強引に距離を詰めてきた。いやいや、いきなり至近距離まで来られても困ります。勢いが凄すぎて、サーリエさんの匂いを乗せた風が私の元に来たではありませんか。


 心地いい。なんて素敵な風なんだ。


 いつもは、私が鼻を近づかせ自発的に嗅いでいるのだが、こうやって受け身の状態で匂いから私の元にやってくる構図も悪くはない……いや、むしろ控え目に言って最高だっ!!


「……さん」


 いつか、アーリエさんとサーリエさんと3人でアクアティカの浜辺を追いかけっこしてみたい。笑顔で逃げる二人の匂いをいつまでも追いかけていたい……


「シイナさん、聞こえてます?!」

「んはっ!!」


 妄想が過ぎ、私は現実世界を放ったらかしにしてしまっていた。オメガポーションを盗まれた件、そして飲み屋でポーションがくすねられた現場に居合わせた事、そして彼女に接触した経緯をサーリエさんに伝えた。


「フードを被った状態で顔や特徴まではご覧になられていないのですね……」

「う……うん、ごめんね……でも、背は私より低かったよ、それに会話も出来たからモンスターという線はないと思う」


 私はソネルちゃんの情報を幾つか伝えたが、ハーフエルフであることや声の特徴、そして名前等は敢えて伏せた。


 私が知っているソネルちゃんは容姿だけでなく、声、そして匂いさえ自在に操る。私が遭遇した情報だけを伝えても、それは変装中の可能性もあり、伝える事で今後の捜査に悪影響が起きる可能性もあるからだ。


「いや、そこは謙遜するな。アルハインの香山。具体的に怪盗Sらしき者と、意識して接触した人物はレアケースだ。是非、サーリエに引続き伝えてほしい……」


「組合長……いい加減、シイナさんの事を『アルハインの……』とお呼びされるのは控えた方がよろしいのでは?」


 サーリエさんからの指摘により、リレイ組合長さんは何かに気づいたのか、頭をかきながらこちらにやってきた。


「そうだな……いやぁ、すまなかった。次からは『シイナ』と呼ばせてもらう。折角、他の街から来ているのに、気を悪くさせちまってるよな?」

「あ、いえ……別に私は何とお呼びしていただいても大丈夫ですよ?」


「いや、それは違うんだシイナ……アルハインが嫌いなのは、俺と老眼ローガンの関係から来ている。完全に私用の話しだ。シイナやファナを悪くいう意図はない……」


 深々と謝るリレイ組合長さん。私は最初から彼は悪い人だとは思っていなかった。


「リレイ組合長が、そう言ってもらえると、私もシイナもやっと、ここのギルドとして気持ち良く活動できるわ、ねぇシイナ?」

「うんっ!!我ら【燻活くんかつ連合れんごう】の活動にも気合いが入るよねっ!」


「センス悪っ……何それ、絶対に嫌なんですけど……」


 このタイミングでギルド名の案を出せば、OK貰えると淡い期待をしたが、即却下をくらった私。


 一撃で私の案をバッサリと切り捨てるファナちゃん。ファナちゃんの方が私なんかよりFLアタッカーだよ。一撃必殺じゃん……


「ふふふっ。お二人さんは本当に仲がよろしいですね、ギルド名は正式に決まってからの報告で大丈夫ですからね?」


「そうだ。ギルド名は士気に関わるから二人でじっくり決めてくれ。だが、じっくり……と行かない部分もある」

「えっ?! リレイ組合長……シイナさん達に『あの情報』をお伝えされるおつもりですか?」


「あぁ。シイナにファナは、あの『神獣』と遭遇しても生き延びているらしいじゃないか。それにギガントード亜種をも仕留める器だ。彼女達に是非協力を仰ぎたい」


 そう言って、組合長さんは咥え煙草をしたまま少し大きめの地図を拡げて私達に見せてくれた。そこにはアクアティカ周辺の地図が描かれており、所々に✕印のついた箇所があった。


「リレイ組合長さん、この地図は……」

「この地図にある印は、世に出回っていない極秘内容だ。端的に言うぞ、お二人さん。この印の所に、幻のお宝が眠っている。その【調査】に行ってもらいたい」

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